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壱.【工藤家の怪異③】オフライン除霊の章
『ぱぱぱぱぱ』の真相
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桃吾くんが謝ると、李夢ちゃんも会釈した。
「どういうこと……?」
「二人に取り憑いたのは別々の霊だったんですよ」
「え!?」
思わず大きな声が出る。
「去年の歩道橋の転落事故で亡くなった親子の霊が、それぞれ憑依したんです」
「親子?」
「シングルファーザーの男性と幼い女の子です」
「え? ……でも、女の子は両親と一緒に亡くなって、シングルファーザーの人は子どもを残して亡くなったんじゃなかった? だって〈よみっち〉が動画で……」
「……それは〈よみっち〉さんの取材不足による錯誤です」
「適当な作り話ですよ。亡くなった夫婦は女の子とは無関係です」
李夢ちゃんが忌々しげに〈よみっち〉を見下ろす。
「女の子はパニックになった人々に踏まれ続け、はぐれた父親を呼びました。たぶん『パパ助けて』って叫んだんじゃないでしょうか」
「命を落とした瞬間、その『パパ』の部分だけが強烈に残り、『パパ』をくりかえす幽霊になった――と推測されます」
二人が交互に説明するけど、疑問が残る。
「待ってよ。娘さんの最期の言葉が『パパ』なのは分かるけど、父親もっていうのは変じゃない?」
桃吾くんが苦く笑った。
「親って、子どもの前では一人称が『お父さん』『お母さん』『パパ』『ママ』になりがちですよね」
「あっ」
一瞬で腑に落ちた。
うちの両親も自分たちのことを『お父さん』『お母さん』と呼ぶ。
「お父さん家に帰りたいよー」とか「お母さんも同じ気持ちよ」とか。
ふと、腕にこそばゆさを感じた。
「ぱぱぱ……ぱぱ、……たす……けて……ぱぱぱ……」
歩望の涙が、あたしの腕に伝う。
歩望の中にいる女の子の幽霊が泣いている。
「ぱぱぱぱ、が、たすぱぱ、ける……」
〈よみっち〉の中にいる父親の幽霊も。
あたしは歩望を抱き上げて、倒れた〈よみっち〉にジリジリと近づいた。
歩望の腕を持ち上げて、床に投げ出された手に重ねる。
ここにいますよ。
そんな想いを込めて。
「ぱ、ぱぱぱ……、パパ?」
「……ぱぱぱ……せ、な……」
せな、と父親の霊はくりかえし呼んだ。
たぶん――娘さんの名前だ。
ボロボロと〈よみっち〉の目から涙が溢れる。
やっと娘さんに手が届いたことに、安堵して、喜んで、泣いた。
〝せな。もうだいじょうぶだよ〟
うちのお父さんと同じくらい優しい声で、切なくなるくらい愛おしげに、父親は娘を呼んだ。
……ふわっとあたたかい風が舞った。
柔らかいクリーム色の、鮮烈なのに全然まぶしくない不思議な光が弾けた。
ほんの一瞬だった。
「……あれ?」
ハッと気づいた時には、全部『消えて』いた。
呆気なかった。
確かに存在した異質なモノが、風に吹かれて飛んでいく枯葉みたいに、跡形もなく消えた。
目をぱちくりさせるあたしを尻目に、桃吾くんと李夢ちゃんは頬も口元も緩ませる。
「浄化されましたね、兄上。満足そうなお顔でした」
「ああ。……何度見ても美しい光景だ」
「……」
……いやあんたたち兄妹には何が見えてたんだ。
最後の最後で妙な疎外感を覚える。
でももうツッコむ体力もない。
あたしは歩望を抱き起こした。
ぐーすかと呑気に寝息を立てる弟についムッとして、鼻をぎゅっとつまむ。
すぐに起きた。
「あれ!? お姉ちゃん、李夢、とーごくん!? どうなった!?」
どう話すものか面倒に感じていると、桃吾くんのスマホが鳴動した。
「どういうこと……?」
「二人に取り憑いたのは別々の霊だったんですよ」
「え!?」
思わず大きな声が出る。
「去年の歩道橋の転落事故で亡くなった親子の霊が、それぞれ憑依したんです」
「親子?」
「シングルファーザーの男性と幼い女の子です」
「え? ……でも、女の子は両親と一緒に亡くなって、シングルファーザーの人は子どもを残して亡くなったんじゃなかった? だって〈よみっち〉が動画で……」
「……それは〈よみっち〉さんの取材不足による錯誤です」
「適当な作り話ですよ。亡くなった夫婦は女の子とは無関係です」
李夢ちゃんが忌々しげに〈よみっち〉を見下ろす。
「女の子はパニックになった人々に踏まれ続け、はぐれた父親を呼びました。たぶん『パパ助けて』って叫んだんじゃないでしょうか」
「命を落とした瞬間、その『パパ』の部分だけが強烈に残り、『パパ』をくりかえす幽霊になった――と推測されます」
二人が交互に説明するけど、疑問が残る。
「待ってよ。娘さんの最期の言葉が『パパ』なのは分かるけど、父親もっていうのは変じゃない?」
桃吾くんが苦く笑った。
「親って、子どもの前では一人称が『お父さん』『お母さん』『パパ』『ママ』になりがちですよね」
「あっ」
一瞬で腑に落ちた。
うちの両親も自分たちのことを『お父さん』『お母さん』と呼ぶ。
「お父さん家に帰りたいよー」とか「お母さんも同じ気持ちよ」とか。
ふと、腕にこそばゆさを感じた。
「ぱぱぱ……ぱぱ、……たす……けて……ぱぱぱ……」
歩望の涙が、あたしの腕に伝う。
歩望の中にいる女の子の幽霊が泣いている。
「ぱぱぱぱ、が、たすぱぱ、ける……」
〈よみっち〉の中にいる父親の幽霊も。
あたしは歩望を抱き上げて、倒れた〈よみっち〉にジリジリと近づいた。
歩望の腕を持ち上げて、床に投げ出された手に重ねる。
ここにいますよ。
そんな想いを込めて。
「ぱ、ぱぱぱ……、パパ?」
「……ぱぱぱ……せ、な……」
せな、と父親の霊はくりかえし呼んだ。
たぶん――娘さんの名前だ。
ボロボロと〈よみっち〉の目から涙が溢れる。
やっと娘さんに手が届いたことに、安堵して、喜んで、泣いた。
〝せな。もうだいじょうぶだよ〟
うちのお父さんと同じくらい優しい声で、切なくなるくらい愛おしげに、父親は娘を呼んだ。
……ふわっとあたたかい風が舞った。
柔らかいクリーム色の、鮮烈なのに全然まぶしくない不思議な光が弾けた。
ほんの一瞬だった。
「……あれ?」
ハッと気づいた時には、全部『消えて』いた。
呆気なかった。
確かに存在した異質なモノが、風に吹かれて飛んでいく枯葉みたいに、跡形もなく消えた。
目をぱちくりさせるあたしを尻目に、桃吾くんと李夢ちゃんは頬も口元も緩ませる。
「浄化されましたね、兄上。満足そうなお顔でした」
「ああ。……何度見ても美しい光景だ」
「……」
……いやあんたたち兄妹には何が見えてたんだ。
最後の最後で妙な疎外感を覚える。
でももうツッコむ体力もない。
あたしは歩望を抱き起こした。
ぐーすかと呑気に寝息を立てる弟についムッとして、鼻をぎゅっとつまむ。
すぐに起きた。
「あれ!? お姉ちゃん、李夢、とーごくん!? どうなった!?」
どう話すものか面倒に感じていると、桃吾くんのスマホが鳴動した。
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