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【工藤家の怪異②】心霊写真オークションの章
現代における心霊写真の傾向
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「……何故おまえが謝る」
「だって、めっちゃ怒ってたから……それに」
「それに?」
「なんか李夢、ちょっと痛そうな顔してたから。きっとおれらの話で嫌な気持ち……って言うか傷ついたんじゃないかなって」
実際、ゲスい内容だったし。
だからごめん、と膝におでこが当たるくらい深く腰を折る。
李夢は、長く細くため息をついた。
「……私の方こそ、怒鳴って失礼した」
時代劇のサムライみたいな言い方で、でもそれが妙に様になってる。
とーごくんも現代のDKっぽくないカタさがあるし、変な兄妹だよなー。
人気のない廊下のはしっこで、二人で話す。
お互いへの呼び名は、名前の呼び捨てで手を打った。
「歩望はあの後、何事もなかったのか?」
「パパパのこと? うん。普通に生きてた」
「ならよかった」
夕陽が傾き、赤く照らされた李夢に、おれは言った。
「今更だけど、ありがと、李夢。おれらのこと助けてくれて」
「やめてくれ。結局、歩望の家の窓ガラスを壊したのだから」
「それはそーらしいけど」
「兄上だったらもっと穏便な方法を取れた。オンライン除霊なんてものを考えつく人だから」
李夢の左手が、手首の紐に触れる。
「あのさ、お姉ちゃんから聞いたんだけど。李夢ととーごくんが除霊対決してるって」
「そうだ」
「今は仮弟子で、おししょーさんの本弟子の座を争ってる……って聞いたんだけど」
「そうだ。明言はされてないが、言われずとも分かる。私は、この勝負から下りるわけにはいかない」
その勝負のために、李夢は歩道橋の幽霊を調べているんだろうか。
今朝、歩道橋に足を運んだのもそのためで。
はしゃぐおれらにキレたのも余計な仕事を増やされるのが嫌だったのかもしれない。
言い方はキッツかったけど。
「もいっこ訊いていーか?」
「なんだ」
「なんであの写真だけ、偽物じゃないって分かったんだ? やっぱり霊感?」
絵莉衣が友達からもらったという歩道橋の写真だ。
幼い女の子がカメラ目線の笑顔で映ってたやつ。
「違う。私に霊を感知する霊視能力はほとんど無い。そこだけは兄上と同程度だ」
霊視能力がないのに拝み屋になるってのも変な話だ。
「じゃあなんで? だってあの写真、どう見ても加工っぽかったじゃん」
「……」
李夢は無言でスマホを取り出した。
先生にチクったくせに自分も持ってるんかい! って思ったけど、スマホの背面を向けられた。
カメラのレンズがおれの姿を捉える。
そう直感して、おれは無意識のうちにアゴを少し引いた
「今、顔を作ったな?」
「は?」
「撮られる気満々だったな?」
「え? 違うの?」
なんだよーからかうなよ、というおれの文句を、李夢は「つまりそういうことだ」と遮った。つまりどういうことだ。
「ケータイカメラの普及で、写真撮影は食事や呼吸ほどに身近な行為となった。すなわち、ある世代は写真を撮られることに慣れきっており、撮影されそうになると自然に写真うつりを意識するんだ」
「カメラ慣れってこと?」
確かに、お姉ちゃんが自撮りしているとお母さんは「あんたよくそんなことできるわね」と感心する。
そんなお母さんは、……お父さんもだけど、写真うつりが悪い。もっと自然に笑えばいいのに。
「そう。その『習慣』は死した後も残るものだ。幽霊の行動というのは、習慣の他に、死の瞬間に生まれた感情や言い残した言葉に起因することが多い。よく『苦しい……』と嘆く幽霊の話を聞くだろう。あれは死んだ瞬間の苦しさを延々と感じているからだ」
「え、それはつらい」
「そうだな。……話が逸れた。ゆえに最近の本物の心霊写真は、カメラ目線であることが多い。もちろん従来の虚ろな表情や恐ろしい形相もあるがな。写真の女の子は七歳くらいだった。それなら生まれた時から毎日親や周囲の人々にカメラを向けられ、その習慣は、うがい手洗いなどよりも根強く染みついたことだろう」
カメラ慣れした幽霊。……どうにもピンと来ない
「そんな色々残るもん? 幽霊なのにさ」
素朴な疑問だったけど、李夢はどこか遠くを眺めるような目で答えた。
「幽霊は、元々は生きていた人間だ」
「!」
「それをゆめゆめ忘れるな、と言うのが糸杉先生……師匠の教えだ」
考えたら当たり前のことだ。
けど、おれは頭に水をかけられたような気持ちになった。
「頼むから、もうあの歩道橋に近づかないでくれ」
そう言うと、李夢はもう目を合わそうとしなくなった。
「だって、めっちゃ怒ってたから……それに」
「それに?」
「なんか李夢、ちょっと痛そうな顔してたから。きっとおれらの話で嫌な気持ち……って言うか傷ついたんじゃないかなって」
実際、ゲスい内容だったし。
だからごめん、と膝におでこが当たるくらい深く腰を折る。
李夢は、長く細くため息をついた。
「……私の方こそ、怒鳴って失礼した」
時代劇のサムライみたいな言い方で、でもそれが妙に様になってる。
とーごくんも現代のDKっぽくないカタさがあるし、変な兄妹だよなー。
人気のない廊下のはしっこで、二人で話す。
お互いへの呼び名は、名前の呼び捨てで手を打った。
「歩望はあの後、何事もなかったのか?」
「パパパのこと? うん。普通に生きてた」
「ならよかった」
夕陽が傾き、赤く照らされた李夢に、おれは言った。
「今更だけど、ありがと、李夢。おれらのこと助けてくれて」
「やめてくれ。結局、歩望の家の窓ガラスを壊したのだから」
「それはそーらしいけど」
「兄上だったらもっと穏便な方法を取れた。オンライン除霊なんてものを考えつく人だから」
李夢の左手が、手首の紐に触れる。
「あのさ、お姉ちゃんから聞いたんだけど。李夢ととーごくんが除霊対決してるって」
「そうだ」
「今は仮弟子で、おししょーさんの本弟子の座を争ってる……って聞いたんだけど」
「そうだ。明言はされてないが、言われずとも分かる。私は、この勝負から下りるわけにはいかない」
その勝負のために、李夢は歩道橋の幽霊を調べているんだろうか。
今朝、歩道橋に足を運んだのもそのためで。
はしゃぐおれらにキレたのも余計な仕事を増やされるのが嫌だったのかもしれない。
言い方はキッツかったけど。
「もいっこ訊いていーか?」
「なんだ」
「なんであの写真だけ、偽物じゃないって分かったんだ? やっぱり霊感?」
絵莉衣が友達からもらったという歩道橋の写真だ。
幼い女の子がカメラ目線の笑顔で映ってたやつ。
「違う。私に霊を感知する霊視能力はほとんど無い。そこだけは兄上と同程度だ」
霊視能力がないのに拝み屋になるってのも変な話だ。
「じゃあなんで? だってあの写真、どう見ても加工っぽかったじゃん」
「……」
李夢は無言でスマホを取り出した。
先生にチクったくせに自分も持ってるんかい! って思ったけど、スマホの背面を向けられた。
カメラのレンズがおれの姿を捉える。
そう直感して、おれは無意識のうちにアゴを少し引いた
「今、顔を作ったな?」
「は?」
「撮られる気満々だったな?」
「え? 違うの?」
なんだよーからかうなよ、というおれの文句を、李夢は「つまりそういうことだ」と遮った。つまりどういうことだ。
「ケータイカメラの普及で、写真撮影は食事や呼吸ほどに身近な行為となった。すなわち、ある世代は写真を撮られることに慣れきっており、撮影されそうになると自然に写真うつりを意識するんだ」
「カメラ慣れってこと?」
確かに、お姉ちゃんが自撮りしているとお母さんは「あんたよくそんなことできるわね」と感心する。
そんなお母さんは、……お父さんもだけど、写真うつりが悪い。もっと自然に笑えばいいのに。
「そう。その『習慣』は死した後も残るものだ。幽霊の行動というのは、習慣の他に、死の瞬間に生まれた感情や言い残した言葉に起因することが多い。よく『苦しい……』と嘆く幽霊の話を聞くだろう。あれは死んだ瞬間の苦しさを延々と感じているからだ」
「え、それはつらい」
「そうだな。……話が逸れた。ゆえに最近の本物の心霊写真は、カメラ目線であることが多い。もちろん従来の虚ろな表情や恐ろしい形相もあるがな。写真の女の子は七歳くらいだった。それなら生まれた時から毎日親や周囲の人々にカメラを向けられ、その習慣は、うがい手洗いなどよりも根強く染みついたことだろう」
カメラ慣れした幽霊。……どうにもピンと来ない
「そんな色々残るもん? 幽霊なのにさ」
素朴な疑問だったけど、李夢はどこか遠くを眺めるような目で答えた。
「幽霊は、元々は生きていた人間だ」
「!」
「それをゆめゆめ忘れるな、と言うのが糸杉先生……師匠の教えだ」
考えたら当たり前のことだ。
けど、おれは頭に水をかけられたような気持ちになった。
「頼むから、もうあの歩道橋に近づかないでくれ」
そう言うと、李夢はもう目を合わそうとしなくなった。
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