アララギ兄妹の現代怪異事件簿

鳥谷綾斗(とやあやと)

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【工藤家の怪異②】心霊写真オークションの章

ホンモノの心霊写真が撮れた!

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 写真は妙に薄暗いだけで、特に何も映らなかった。
 でも勧められてオークションに出品して、〈よみっち〉と別れた。

 学校に着いたのはチャイムギリギリだった。

 放課後。いつもみたいに多目的室に行くと、扉を開けた途端、

「歩望! すげーじゃん!」

 凌牙や莱矢、絵莉衣たちにワッと取り囲まれる。
 みんな好き勝手に話しかけるから何言ってんのか聞き取れない。

 代表して絵莉衣が五年生の不良男子から借りたスマホ(不良なのに親切)を見せつける。
 心霊写真オークションのサイトだ。

 おれが出品した写真に、五万円の価格がついていた。

「うぇえええええええ!?」
「うるさい! 先生、隣の教室にいるのに騒いだら来ちゃうでしょ!」

 絵莉衣に口を塞がれる。

「どうなってんだこれ。何も写ってなかったのに!」

 おれは慌ててスマホを出して、アルバムを開いた。
 写真を表示して、

「ほら、ゆーれいなんて写ってないだろ!」

 と絵莉衣たちに詰め寄ったけど、逆に呆れられた。

「いや映ってんじゃん」

 と、凌牙。

「まじ分かんないの~ウケる~」

 莱矢はやっぱり煽ってくる。

 一発お見舞いして、どこにいるのか教えてもらう。
 上半分は曇り空、下半分は橋のコンクリート。
 枯れた花束があるくらいで、色味も何もない。

「薄暗くてボヤけてるけど、これが髪の毛、耳、ほっぺた。で、これが目と鼻、口じゃん」

 凌牙の指先が画面をなぞるのを見て、やっと分かった。

 写真全体に、巨大な顔が写っているのだ。

 カメラのレンズに顔を近づけたようなドアップ。
 全然気づかなかった。気づいてしまったら、もうそうとしか見えなくなる。

「これは確かに激ヤバだ。五万の値打ちもつくわ」
「いーなぁ歩望、五万円! 家とか買えるじゃん!」

 いや買えないだろ。たぶんアホの莱矢は家賃とかと勘違いしてる。
 みんなの羨望を一心に受けて、心臓がドキドキした。
 五万円。
 お年玉でしかお目にかかれない金額。

 それが写真たった一枚、撮影たった一秒で?

 勝手に口元がゆるむ。抑えられない。

「ねえ! この後さ、歩道橋に撮影に行こうよ!」

 絵莉衣が明るく提案した。

「歩望が一発で成功したんだからさ、みんなで撮りまくれば絶対もっと怖い写真集まるよ!」
「それいい! 行こう!」
「ぼく、パパのコンデジ持ってくる!」
「あたしママのスマホ借りてくー!」

 はしゃぐ友達。
 ニヤニヤが止まらないおれ。
 空気がどんどん熱くなる。
 心霊現象もオカルトもコリゴリだって思っていた。あのパパパのせいで。

 でも、こんなことがあるんなら……

 ――バンッ!

 机をぶっ叩く音が空気を震わせて、場が凍った。
 振り向くと右手の拳を机に叩きつけた李夢がいた。

「……やめろ」

 李夢が声を震わせた。

「心霊写真を撮るのはやめろ。あの歩道橋に近づくな!」

 李夢がおれたちを順繰りに睨みつける。
 本気の怒りだった。憎しみすら籠っていた。

「な、何だよ! カンケーないだろ!」
「オガミヤだかレーカンがあるだか知らないけど偉そうに抜かすな!」
「ていうか、そんなの嘘なんじゃない? 沙梨衣が言ってたよ。クラスでぼっちだから嘘ついて気を引こうとしてんでしょ、どーせ!」

 黙ってろ嘘つき、そうだそうだ、と他の子たちが口をそろえて李夢にひどい言葉をぶつける。
 でも李夢は逆に冷静さを取り戻したのか、スッと背筋を伸ばした。

「私のことはなんと言ってくれても構わない。だが、あの歩道橋には行くな」

 悪口にも怯まず、要求だけをくりかえして風のように去っていく。
 しなやかに動くひとまとめの髪。
 衝動的に追いかけそうになったけど、ふたつの出来事がそれを阻んだ。

 ガシャン! と音を立てて、李夢が天板をぶっ叩いた机が倒れた。
 全員がギョッとする。

(え……嘘だろ)

 天板が真っ二つに割れている。

 李夢が叩いたから? 
 いやそんなわけないか。古い机だから勝手に壊れたんだ。

 もうひとつは、学童の先生の襲来だ。

「アララギさんに聞いたわよ! あなたたち、スマホを持ち込んでるんですってね!」

 鬼の形相で言われ、おれたちはスマホを没収された。


 先生のお説教の後、李夢を追いかけた。

 幸い、すぐに見つかった。でも「おーい」って何度呼びかけても反応してくれない。

「李夢、待って、李夢ってばー!」

 めっちゃ名前を呼ぶと、李夢はやっと振り返った。
 超絶不機嫌そうな顔で。

「――ごめんっ!」

 おれは間髪入れずに前屈ばりに頭を下げた。
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