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【工藤家の怪異②】心霊写真オークションの章
心霊写真を鑑定する転校生
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「これ、比良辻の交差点の歩道橋?」
絵莉衣が「うん」と答えた。
じわ、と首の後ろが薄寒くなる。
四月、おれんちに起こった出来事を思い出した。
この町唯一の心霊スポットに〈よみっち〉が突撃した配信を観ただけで、おれは……。
無言になるおれをよそに、みんなは笑い出した。
「でもこれ絶対にニセモノだよねー!」
目の前に写真を突きつけられる。
「なんで幽霊がこっち見て笑ってんの。ウケるんですけどー」
絵莉衣の言うとおり、その写真は奇妙だった。
夜、ビルやマンションの小粒の光を背景に、歩道橋の階段を上がったところでシャッターボタンをタップしたようなアングル。
被写体は小学一年生くらいの女の子。
その体は輪郭がぼやっとして、少し透けてて……けど、その子はカメラ目線で笑顔だった。
カップルやギャルの写真みたいに、負の感情的なものは全然感じなかった。
透けてさえいなければごく普通の写真ですって言われても信じられる。
「きっと夜撮った子どもの写真を加工したのよ。マユツバ最悪ー」
絵莉衣が写真をペッと放り投げると。
心霊写真を囲むおれたちを、仁王立ちで見下ろす女子がいた。
ポニテで、ぼっちで古い怪談本を読む、ありゃりゃとかいう名前の女子。
謎の威圧感があった。ラスボスを前にしたレベル1のプレイヤーみたいな心地になった。
その子は静かに手を伸ばす。その拍子に右手首の真っ赤な紐で結んだ鈴――ブレスレットとか学校で着けていいんだっけ?――が揺れる。でも音はしなかった。
その子は心霊写真を全部拾い上げて、黒目がちな瞳で一枚目を見つめた。
「偽物」
短く鋭く言い放った。続いて二枚目、三枚目、四枚目に目を通す。
「偽物、偽物、偽物……」
あ、分かった。
これは『鑑定』だ。
これが本物かどうかこの子は見極めてるんだ。
絵莉衣たちが集めた心霊写真を容赦なく切り捨てる声が、ふいにぴたりとやんだ。
夜の歩道橋で撮られた笑顔の女の子の写真。
それを見つめて少し考えた後、その子は写真を絵莉衣に返した。
そしてクルッと背中を向けて、ランドセルを背負って靴を履く。
「あら、どうしたの? 帰るの?」
ちょうど職員室から戻ってきた学童の先生が呼び止めた。
「やはり私に学童など不要です。一時間だけでしたが、お世話になりました」
見本みたいなキチッとしたお辞儀をして、まっすぐな姿勢でその子は多目的室から出て行った。
「ちょっと、アララギさん!」
先生が呼び止めても振り返りもしない。
おれたちを縛る妙な緊張感が解けた。っていうか今、アララギって。
「何なのあいつ。沙梨衣の言ったとーりマジ変人」
絵莉衣は水をさされた様子で、嫌そうに舌を出した。
沙梨衣は絵莉衣の二個上、六年生の姉貴だ。
「沙梨衣のクラスの転校生なんだけどさ。っても今年の四月に来たから、休校明けまで顔も見たことなかったんだけど。――拝み屋ってやつらしいよ、あの塔李夢って子」
絵莉衣が「うん」と答えた。
じわ、と首の後ろが薄寒くなる。
四月、おれんちに起こった出来事を思い出した。
この町唯一の心霊スポットに〈よみっち〉が突撃した配信を観ただけで、おれは……。
無言になるおれをよそに、みんなは笑い出した。
「でもこれ絶対にニセモノだよねー!」
目の前に写真を突きつけられる。
「なんで幽霊がこっち見て笑ってんの。ウケるんですけどー」
絵莉衣の言うとおり、その写真は奇妙だった。
夜、ビルやマンションの小粒の光を背景に、歩道橋の階段を上がったところでシャッターボタンをタップしたようなアングル。
被写体は小学一年生くらいの女の子。
その体は輪郭がぼやっとして、少し透けてて……けど、その子はカメラ目線で笑顔だった。
カップルやギャルの写真みたいに、負の感情的なものは全然感じなかった。
透けてさえいなければごく普通の写真ですって言われても信じられる。
「きっと夜撮った子どもの写真を加工したのよ。マユツバ最悪ー」
絵莉衣が写真をペッと放り投げると。
心霊写真を囲むおれたちを、仁王立ちで見下ろす女子がいた。
ポニテで、ぼっちで古い怪談本を読む、ありゃりゃとかいう名前の女子。
謎の威圧感があった。ラスボスを前にしたレベル1のプレイヤーみたいな心地になった。
その子は静かに手を伸ばす。その拍子に右手首の真っ赤な紐で結んだ鈴――ブレスレットとか学校で着けていいんだっけ?――が揺れる。でも音はしなかった。
その子は心霊写真を全部拾い上げて、黒目がちな瞳で一枚目を見つめた。
「偽物」
短く鋭く言い放った。続いて二枚目、三枚目、四枚目に目を通す。
「偽物、偽物、偽物……」
あ、分かった。
これは『鑑定』だ。
これが本物かどうかこの子は見極めてるんだ。
絵莉衣たちが集めた心霊写真を容赦なく切り捨てる声が、ふいにぴたりとやんだ。
夜の歩道橋で撮られた笑顔の女の子の写真。
それを見つめて少し考えた後、その子は写真を絵莉衣に返した。
そしてクルッと背中を向けて、ランドセルを背負って靴を履く。
「あら、どうしたの? 帰るの?」
ちょうど職員室から戻ってきた学童の先生が呼び止めた。
「やはり私に学童など不要です。一時間だけでしたが、お世話になりました」
見本みたいなキチッとしたお辞儀をして、まっすぐな姿勢でその子は多目的室から出て行った。
「ちょっと、アララギさん!」
先生が呼び止めても振り返りもしない。
おれたちを縛る妙な緊張感が解けた。っていうか今、アララギって。
「何なのあいつ。沙梨衣の言ったとーりマジ変人」
絵莉衣は水をさされた様子で、嫌そうに舌を出した。
沙梨衣は絵莉衣の二個上、六年生の姉貴だ。
「沙梨衣のクラスの転校生なんだけどさ。っても今年の四月に来たから、休校明けまで顔も見たことなかったんだけど。――拝み屋ってやつらしいよ、あの塔李夢って子」
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