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【工藤家の怪異②】心霊写真オークションの章
心霊写真オークション #とは???
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約三ヶ月ぶりに登校すると、おれ――工藤歩望の知る教室は、ちょっとだけ変化してた。
「うぃーす! ……ふん?」
うざったいマスク越しだけどでっかい声で言ったのに、凌牙も莱矢もスルーした。
つまんない授業が終わった放課後。
おれは小学校の校舎の三階、図書室の隣にある多目的室に顔を出した。
学童の教室だ。おれんちみたいに親が共働きで、早く帰っても家が無人のやつが集まる場所。
靴を脱いで、ブルーグレーのうっすら汚れたカーペットの上を歩く。
室内のど真ん中で、男子と女子合わせて六人が車座になっている。
手には何やら紙っぽいもの。
(何だろあれ、トレカとかトランプじゃなさそうだけど)
世界中に感染症がどわっと広まってから、四ヶ月。たぶん。
ソーシャルディスタンス、会話を控える、黙食という合言葉を大人たちが掲げてやっと学校が再開した。
でも、六月になってジメジメし始めたのにマスクはずっと外せないし、教室は隣のやつとの距離が離れたし、給食も机の位置を変えずに一人で黙々と食べるだけ。
最初の三日は友達と会えて外で遊べる嬉しさがあったけど、とっくにみんなうんざりしていた。
直歩お姉ちゃんが頻繁に『クソ感染症』っていうけど、マジそれな。
それでも今日から学童に参加できるようになって、久々に年下のチビたちと遊べると思ったのに、凌牙も莱矢も背中を向けて返事しやしない。
「おい、凌牙……あ?」
見知らぬ女子が、ぽつん、と窓際で座ってる。
高い位置のポニーテールに地味めな服装で、たぶん六年生だ。
図書室で見かける昭和っぽい絵柄の『学校の七不思議』って本を読んでいた。
……あんな表紙が取れかけた本、読むやついるんだ。
「いてーよ。ヘッドロックかけるなよ歩望ー」
三年生のくせにヒトを呼び捨てにする凌牙に、おれは構わず訊いた。
「あの女子、誰?」
「なんか今日から参加だって。六年の転校生らしーよ。名前は確か、ありゃりゃとか言ってた」
「何それ外国人?」
そうは見えねーけど。凌牙は「さあ?」とヘッドロック状態のまま顔を背けた。
「ていうかおまえら何やってんの?」
「心霊写真オークションに出すやつ選んでんの!」
「おおん?」
変な声が出た。
心霊写真オークション?
何その謎単語の謎組み合わせ。
こないだまで散々耳にした、『オンライン除霊』ばりにミスマッチだ。
「歩望、知らねーのぉ?」
莱矢が煽るので軽くハタいた。
でも莱矢はノーダメージでドヤ顔で説明し出す。
「怖い系チャンネルの配信者たちがさーコラボでさー企画したんだぜ」
まとめるとこうだ。
動画サイトの、オカルト系配信者――怪談師、都市伝説の伝道者、心霊スポットや事故物件の突撃系などなど――が集まって、とある企画を打ち出した。
その名も、心霊写真オークション。
視聴者から募集して、厳選された激ヤバ心霊写真を配信者たちが競り落とす。
それを各自の番組で紹介して検証したりする、という内容らしい。
不良とウワサの五年生男子がこっそり持ち込んだスマホで、告知ページを見せられる。
スタート価格は百円からで……うっわ、二万円の値段がつけられた写真があるよ。
画像にモザイクかかってて見られないのが残念なような安心なような。
最近はゲームばっかだったから、そんな情報知らなかった。
ステイホーム期間に死ぬほど観て飽きた。
特に〈よみっち〉は鬼視聴してたけど、とあるキッカケで卒業した。
まあ〈よみっち〉も引退したらしいし。
「で、出品のために、うちらで心霊画像集めたんだー別の学校の子や塾の子にも声かけてさ、結構集まったの」
同じ四年生の絵莉衣がトランプみたいにプリントアウトした写真を広げてみせた。
「何よぉ、歩望。そのウヘェとでも言いたげなカオ!」
「だって心霊写真とか……てか、なんで出品したいわけ?」
「お金が欲しいからに決まってんでしょ!」
うわめっちゃ簡潔。
「感染症のせいで親の仕事減ったのよ。パパが在宅ワーク中心になった上に、キューリョーカットされておこづかい減ったの! だからお金が欲しいの!」
他の面々も力強く頷く。
理解できてもいまいち納得はできなくて、つい、
「おれは、おこづかいより家に親がいる方がいいけど」
本音をポロッたら、全員に爆笑された。
「歩望マジ? 四年にもなってファザコンマザコンかよー!」
「どう考えてもおこづかいの方がいいよねー!」
ギャハハハ、とからかわれて耳が真っ赤になる。
クッソ、失敗した。
絵莉衣が涙目で人差し指をおれに向ける。
「っていうか歩望も〈よみっち〉推しのくせにさー」
「おれ、〈よみっち〉とか卒業したんでー」
「そうなの? 〈よみっち〉、あんな勢いあんのに?」
え? と思って聞き返そうとしたけど、相手は人の話を基本的に聞かない系女子なので無理だった。
絵莉衣は心霊写真をカーペットの床に広げて一枚一枚ケンブンする。
「絵莉衣の推しはコレー。この恨めしげな顔、絶対『リア充爆発しろ』って思ってるよー!」
背景は晴れた海で、中学生っぽいカップルが顔を寄せ合ってピースした写真。
女の方の肩に、短髪の男の頭半分が乗っかっていた。
じっとりと睨みつけて、恨めしいとうらやましいのオーラが凄まじい。
「こっちのサッカー選手っぽい人の右足が消えたのも怖くね? この写真を撮った後、怪我してサッカーをやめたっていうおまけつきだし」
サッカーのユニフォームを着た兄ちゃんが白い歯を見せる写真。
確かに右足が消しゴムをかけたみたいに消えている。
凌牙はサッカーやってるから他人事に思えないんだろう。
「おれはこれ。自撮りねーちゃん、後ろ見て! ってなる」
莱矢が、おっぱいの谷間が見事なギャルの写真を指さした。
鏡に向かってキメ顔で自撮りしてるけど、背後のドアが半開きで、暗闇から長い黒髪の女が覗いていた。
他にもギョッとしてゾワッとする写真が出てきて、みんなでぎゃーすか騒ぐ。
もし学童の先生がここにいたら絶対怒られるレベル。
どれも決め手に欠けるな、とすっかりその気になっていたら気になる一枚を見つけた。
歩道橋の写真だ。
「うぃーす! ……ふん?」
うざったいマスク越しだけどでっかい声で言ったのに、凌牙も莱矢もスルーした。
つまんない授業が終わった放課後。
おれは小学校の校舎の三階、図書室の隣にある多目的室に顔を出した。
学童の教室だ。おれんちみたいに親が共働きで、早く帰っても家が無人のやつが集まる場所。
靴を脱いで、ブルーグレーのうっすら汚れたカーペットの上を歩く。
室内のど真ん中で、男子と女子合わせて六人が車座になっている。
手には何やら紙っぽいもの。
(何だろあれ、トレカとかトランプじゃなさそうだけど)
世界中に感染症がどわっと広まってから、四ヶ月。たぶん。
ソーシャルディスタンス、会話を控える、黙食という合言葉を大人たちが掲げてやっと学校が再開した。
でも、六月になってジメジメし始めたのにマスクはずっと外せないし、教室は隣のやつとの距離が離れたし、給食も机の位置を変えずに一人で黙々と食べるだけ。
最初の三日は友達と会えて外で遊べる嬉しさがあったけど、とっくにみんなうんざりしていた。
直歩お姉ちゃんが頻繁に『クソ感染症』っていうけど、マジそれな。
それでも今日から学童に参加できるようになって、久々に年下のチビたちと遊べると思ったのに、凌牙も莱矢も背中を向けて返事しやしない。
「おい、凌牙……あ?」
見知らぬ女子が、ぽつん、と窓際で座ってる。
高い位置のポニーテールに地味めな服装で、たぶん六年生だ。
図書室で見かける昭和っぽい絵柄の『学校の七不思議』って本を読んでいた。
……あんな表紙が取れかけた本、読むやついるんだ。
「いてーよ。ヘッドロックかけるなよ歩望ー」
三年生のくせにヒトを呼び捨てにする凌牙に、おれは構わず訊いた。
「あの女子、誰?」
「なんか今日から参加だって。六年の転校生らしーよ。名前は確か、ありゃりゃとか言ってた」
「何それ外国人?」
そうは見えねーけど。凌牙は「さあ?」とヘッドロック状態のまま顔を背けた。
「ていうかおまえら何やってんの?」
「心霊写真オークションに出すやつ選んでんの!」
「おおん?」
変な声が出た。
心霊写真オークション?
何その謎単語の謎組み合わせ。
こないだまで散々耳にした、『オンライン除霊』ばりにミスマッチだ。
「歩望、知らねーのぉ?」
莱矢が煽るので軽くハタいた。
でも莱矢はノーダメージでドヤ顔で説明し出す。
「怖い系チャンネルの配信者たちがさーコラボでさー企画したんだぜ」
まとめるとこうだ。
動画サイトの、オカルト系配信者――怪談師、都市伝説の伝道者、心霊スポットや事故物件の突撃系などなど――が集まって、とある企画を打ち出した。
その名も、心霊写真オークション。
視聴者から募集して、厳選された激ヤバ心霊写真を配信者たちが競り落とす。
それを各自の番組で紹介して検証したりする、という内容らしい。
不良とウワサの五年生男子がこっそり持ち込んだスマホで、告知ページを見せられる。
スタート価格は百円からで……うっわ、二万円の値段がつけられた写真があるよ。
画像にモザイクかかってて見られないのが残念なような安心なような。
最近はゲームばっかだったから、そんな情報知らなかった。
ステイホーム期間に死ぬほど観て飽きた。
特に〈よみっち〉は鬼視聴してたけど、とあるキッカケで卒業した。
まあ〈よみっち〉も引退したらしいし。
「で、出品のために、うちらで心霊画像集めたんだー別の学校の子や塾の子にも声かけてさ、結構集まったの」
同じ四年生の絵莉衣がトランプみたいにプリントアウトした写真を広げてみせた。
「何よぉ、歩望。そのウヘェとでも言いたげなカオ!」
「だって心霊写真とか……てか、なんで出品したいわけ?」
「お金が欲しいからに決まってんでしょ!」
うわめっちゃ簡潔。
「感染症のせいで親の仕事減ったのよ。パパが在宅ワーク中心になった上に、キューリョーカットされておこづかい減ったの! だからお金が欲しいの!」
他の面々も力強く頷く。
理解できてもいまいち納得はできなくて、つい、
「おれは、おこづかいより家に親がいる方がいいけど」
本音をポロッたら、全員に爆笑された。
「歩望マジ? 四年にもなってファザコンマザコンかよー!」
「どう考えてもおこづかいの方がいいよねー!」
ギャハハハ、とからかわれて耳が真っ赤になる。
クッソ、失敗した。
絵莉衣が涙目で人差し指をおれに向ける。
「っていうか歩望も〈よみっち〉推しのくせにさー」
「おれ、〈よみっち〉とか卒業したんでー」
「そうなの? 〈よみっち〉、あんな勢いあんのに?」
え? と思って聞き返そうとしたけど、相手は人の話を基本的に聞かない系女子なので無理だった。
絵莉衣は心霊写真をカーペットの床に広げて一枚一枚ケンブンする。
「絵莉衣の推しはコレー。この恨めしげな顔、絶対『リア充爆発しろ』って思ってるよー!」
背景は晴れた海で、中学生っぽいカップルが顔を寄せ合ってピースした写真。
女の方の肩に、短髪の男の頭半分が乗っかっていた。
じっとりと睨みつけて、恨めしいとうらやましいのオーラが凄まじい。
「こっちのサッカー選手っぽい人の右足が消えたのも怖くね? この写真を撮った後、怪我してサッカーをやめたっていうおまけつきだし」
サッカーのユニフォームを着た兄ちゃんが白い歯を見せる写真。
確かに右足が消しゴムをかけたみたいに消えている。
凌牙はサッカーやってるから他人事に思えないんだろう。
「おれはこれ。自撮りねーちゃん、後ろ見て! ってなる」
莱矢が、おっぱいの谷間が見事なギャルの写真を指さした。
鏡に向かってキメ顔で自撮りしてるけど、背後のドアが半開きで、暗闇から長い黒髪の女が覗いていた。
他にもギョッとしてゾワッとする写真が出てきて、みんなでぎゃーすか騒ぐ。
もし学童の先生がここにいたら絶対怒られるレベル。
どれも決め手に欠けるな、とすっかりその気になっていたら気になる一枚を見つけた。
歩道橋の写真だ。
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