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壱.【工藤家の怪異①】オンライン除霊の章
奇妙な点
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包丁を取り落とす。
どうして? アレは追い払えなかったの!?
歩望を抱きしめて、あたしは必死に考える。
弟を切りつけるわけにはいかない。
スマホ。電話。テレビ。ネット。
必死で操作するけど、何も反応しない!
……考えてみたら、
最初から確かにおかしかった。
桃吾くんは『アレは家の中に入ろうとしている』と言った。
つまり、まだ家の中に入っていない。
にも関わらず、歩望はこの憑依状態とやらになった。
ってことは、もう家の中にナニカが入ってきているってこと!?
さっきの偽桃吾くんが言ったことは本当だったの?
どうなってんのよ桃吾くん!
分からない、ダメだ、歩望、正気に戻ってもうぱぱぱぱぱ言わないで白目なんか剥かないでもう二度とごはん手伝えなんて言わないから、お父さんお母さん帰ってきて、もう無理だあたしじゃダメだったんだ守りたかったけどダメだったどうしよう助けて誰か助けてよ!!
「――工藤さん!」
鋭く名前を呼ばれて、あたしは頭を上げた。
声は掃き出し窓の向こうからだった。
大量のお札は、もうほんとに意味が分からないんだけど、全部白紙になっている。ただの紙切れを貼りつけたガラスに人影が浮かんだ。
「っ!」
初日に見たアレを思い出して悲鳴を上げそうになった――よりも早く、
「あとで必ず修理いたします。窓から離れてください、――御免!」
そう言われるや否や、大音量の破壊音が耳をつんざいた。
あたしの背よりも大きい、防犯のためにワイヤーを入れた強化ガラスが砕け散る。
とっさに破片を避けて、あたしは歩望と一緒にソファから離れた。
そこにいたのは、女の子だった。
黒髪をひとつにまとめ、意志の強そうな眉と瞳の、歩望より一、二歳上くらいの――小学生くらいの女の子が、黒い羽織を翻して庭から家の中に入ってきた。
その瞬間、空気が大きく動いた。
汚れを水で一気に洗い流したみたいに、リビング内に凝っていた重苦しい空気が消え失せた。
同時に、歩望の奇行がぴたりと止まった。
チリン、と可憐な鈴の音。
女の子の右手首につけた紅い紐で結ばれた鈴が鳴ったのだ。
彼女はそれをギュッと握った。
すべては一瞬だった。
一瞬で掃き出し窓が割れて、見知らぬ少女が現れて、弟は元に戻り、そして――
あたしたち姉弟を脅かした存在は、この家から立ち去った。
呆然とするあたしの前に、女の子は膝をついた。
「改めてご挨拶いたします、工藤さん。自分は塔李夢。塔桃吾の妹にございます」
武士っぽい口調で、桃吾くんの妹はそう名乗った。
どうして? アレは追い払えなかったの!?
歩望を抱きしめて、あたしは必死に考える。
弟を切りつけるわけにはいかない。
スマホ。電話。テレビ。ネット。
必死で操作するけど、何も反応しない!
……考えてみたら、
最初から確かにおかしかった。
桃吾くんは『アレは家の中に入ろうとしている』と言った。
つまり、まだ家の中に入っていない。
にも関わらず、歩望はこの憑依状態とやらになった。
ってことは、もう家の中にナニカが入ってきているってこと!?
さっきの偽桃吾くんが言ったことは本当だったの?
どうなってんのよ桃吾くん!
分からない、ダメだ、歩望、正気に戻ってもうぱぱぱぱぱ言わないで白目なんか剥かないでもう二度とごはん手伝えなんて言わないから、お父さんお母さん帰ってきて、もう無理だあたしじゃダメだったんだ守りたかったけどダメだったどうしよう助けて誰か助けてよ!!
「――工藤さん!」
鋭く名前を呼ばれて、あたしは頭を上げた。
声は掃き出し窓の向こうからだった。
大量のお札は、もうほんとに意味が分からないんだけど、全部白紙になっている。ただの紙切れを貼りつけたガラスに人影が浮かんだ。
「っ!」
初日に見たアレを思い出して悲鳴を上げそうになった――よりも早く、
「あとで必ず修理いたします。窓から離れてください、――御免!」
そう言われるや否や、大音量の破壊音が耳をつんざいた。
あたしの背よりも大きい、防犯のためにワイヤーを入れた強化ガラスが砕け散る。
とっさに破片を避けて、あたしは歩望と一緒にソファから離れた。
そこにいたのは、女の子だった。
黒髪をひとつにまとめ、意志の強そうな眉と瞳の、歩望より一、二歳上くらいの――小学生くらいの女の子が、黒い羽織を翻して庭から家の中に入ってきた。
その瞬間、空気が大きく動いた。
汚れを水で一気に洗い流したみたいに、リビング内に凝っていた重苦しい空気が消え失せた。
同時に、歩望の奇行がぴたりと止まった。
チリン、と可憐な鈴の音。
女の子の右手首につけた紅い紐で結ばれた鈴が鳴ったのだ。
彼女はそれをギュッと握った。
すべては一瞬だった。
一瞬で掃き出し窓が割れて、見知らぬ少女が現れて、弟は元に戻り、そして――
あたしたち姉弟を脅かした存在は、この家から立ち去った。
呆然とするあたしの前に、女の子は膝をついた。
「改めてご挨拶いたします、工藤さん。自分は塔李夢。塔桃吾の妹にございます」
武士っぽい口調で、桃吾くんの妹はそう名乗った。
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