ブルーキャンパス

君野あおい

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2話 昼食

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今日、このクラスに転校生が来た。

名前は赤澤遥。
背丈は160前半くらいかな。全体的に細身だ。
綺麗な顔立ちをしているが、特別目が大きかったり、鼻が高いわけじゃなく、バランスの良い整った顔、といった感じだ。

転校初日という事もあり、休憩時間になれば、他クラスの奴らがチラチラ教室を覗いてくる。

俺のあまり信頼のおけない情報筋、橋口寛太によると、赤澤さんはこの学年の美人ランキングベスト8に入るらしい。

それと、彼女の転校してきた理由が、一体何なのか、という考察も活発に議論されているみたいだ。

俺は、直接聞けばいいんじゃね?と思ったんだけど、実行しようとした寛太が、案外デリケートかもしれねーぞ、と周りのクラスメイトに止められていた。

俺は、寛太と思考が似ているのか?と自分自身を疑いつつ、結局、転校の理由は聞けずじまいだ。
知り合って初日だし、深く掘り下げなくても良いかと、俺の中ではそう結論づけている。

「ふぁ…、お腹空いたー」

四時限目を終え、睡眠欲と食欲、人間の二大欲求に駆られたハルが、欠伸をしながら、鞄から弁当を取り出した。

お昼時、大抵の生徒は二手に分かれる。
校内食堂で定食を食べる者と、自家製の弁当を教室で食べる者だ。俺とハルは後者にあたる。

俺とハルは、仲が良い。
これは自信を持って言える。
だが、昼食となると、俺たちは別グループで食事をとる。

ハルは、一年生の頃一緒に食べていたメンバーと、俺は、このクラスの男子が適当に集まって食事をしている所に加わる。

俺も、ハルも、他の奴らとの付き合いがあるし、こうして昼飯が別々になるのは仕方ないと思っている。

だが、今日はハルが教室から出ていこうとしない。

「ハル?行かないのか?」

「えと、うん。今日は教室で食べよっかなって」

お前絶対、赤澤さんの事好きだろ。

「お前絶対…」

「ん?何?」

「いや、何でもない」

つい心の声が漏れてしまいそうになった。

「赤澤さんはどうするんだ?」

「私は、晴翔と食べよっかな」

「「!」」
俺とハルは、思わず驚いた反応をしてしまう。

「え、何か変、かな?」

赤澤さんって結構イケイケな感じ?
「いや、別に」

「そうだ、黒野君も一緒に食べる?」

「おう、いい…のか?」
ちらっとハルの方を見る。

「え、僕は、全然、良いよ?」

ちょっと悩んでいる感じもあるが…
「ハルがそう言うなら、同席させてもらおうかな」

この二人の会話って面白そうだし、席も近いし、これを機に、この三人で仲良くなって
しまうのも悪くない。
ハルの恋路を邪魔したいわけじゃないが、いきなり二人で食事は、変に目立つかもしれないしな。

「俺は応援してるから」

「何が?」

「気にしないでくれ」

「じゃあ、早速ご飯食べようよ」

赤澤さんは、鞄から可愛い花柄の巾着を取り出した。子どもっぽい柄だが、赤澤さんの無邪気さに、なんだか似合っている感じがする。

「そういや、遥って弁当なんだね」

「そうだよー、しかも今日早起きしちゃったから、自分で作ってきたの、すごくない?」

「えぇ!女子力高っ!遥ってそういう事できるタイプなんだ…」

「そりゃもちろん!って言っても、めちゃくちゃ普通のお弁当だけど」

赤澤さんがパカッと自分の弁当箱を開いた。唐揚げや卵焼き、トマトなど、いたって普通の弁当だ。

「へぇ、こういう弁当って自分で作れるもんなんだな」

「作るって言っても、冷凍食品チンして、盛り込むだけなんだけどねー。じゃ、いただきます、していい?」

俺とハルも、自分の弁当を取り出した。

「それじゃ、いただきまーす」
「いただきまーす」
「…いただきます」

横でハルが少し恥ずかしそうしている。
こちらを気にかけているクラスメイトに気付いたみたいだ。

休み時間、赤澤さんに積極的に声をかけていたメンツだ。多分、一緒に食事もしようとしていたんだと思う。

俺はともかく、赤澤さんも特に視線は気にしていなさそうだが、ハルは、やはり周りが気になっている感じだ。

「晴翔…もしかして、また緊張してる?」

赤澤さんが小悪魔的な笑みで、ハルに聞く。
それだけで惚れてしまいそうなほど、ギャップのある魅力的な表情だ。
赤澤さんってこんな顔するのか。
なんか意外。

「いや、別にそんな事ないけど」

表情が硬い。
明らかに周りを気にしているようすだ。

「えぇー、反応が素っ気ないよー、晴翔ぉー」

期待した反応と違ったのだろう、赤澤さんも少し困った顔だが、それでも追い打ちをかける。
やっぱ赤澤さんってイケイケ系なのか?

「お腹空いてるから元気出ないんだよ」

ハルが黙々と弁当を食べ始めた。

「「…」」

俺と赤澤さんの目が合う。
赤澤さんは、とりあえず、という感じで卵焼きを一切れ、口に運ぶ。
俺も、なんとなく唐揚げを一つ、口に放り込む。

「「…」」

まずい、このままじゃ葬式みたいな昼ご飯になってしまう。
どうする、他の空き教室に場所を変えるか?
喋る役割を失い、咀嚼のみの仕事を淡々とこなす口に、俺はシューマイを放り込んだ。よし。

「ちょっといいかな?」

おっと、なんだ?
俺が教室の移動を提案しようとすると、その前に一人のクラスメイトが声をかけてきた。

「私も一緒にお弁当食べてもいい?」

なんだお前か。
「俺はいいけど、赤澤さんと、ハルがなんて言うか分からないぞ~。二人とも、コイツ結構厄介だけど、一緒に弁当食べてくれるか?」

「私は全然ウェルカムだよ!むしろ一緒に食べたい!」
「僕も別にいいよ」
「ありがと~、じゃ失礼しま~す」

そう言って俺の隣に腰掛けると、持ってきた巾着の中から、俺たちの物より、二倍ほどの高さがある弁当箱を取り出した。

「「えっ」」

ハルと赤澤さんが、思わず声を上げる。

「はははっ!最高の反応だな」

「ちょっとちょっと、お二人さん、レディに対してその反応は、流石に失礼すぎません?」

「いやいや、その弁当見せられたら仕方ないって、てか、赤澤さんって、コイツの事知ってるの?」

「えっと、確か…宮下さん?だっけ?」

「宮上です」

「ぶふっ!」

「わはは!最高!最高すぎる!」

さっきまでの雰囲気が嘘みたいだ。
ハルも笑ってるし、コイツ、なかなかいい仕事をしてくれる。

「ごめんね、宮上さん」

「別にいいよ~、そういや自己紹介してないもんね。オホン、え~、名前は宮上聡美です。嫌いな物はトマトで、好きな物はプリンかな。ちなみに、好きな人はジュン君で~す!」

「え?」

赤澤さんが間の抜けた声を出す。
視線の先、聡美はニコニコ笑顔だ。

「ええええええ!?」

赤澤さんの声が、教室にこだました。
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