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第4章【リベンジ編】
1話目◉演技
しおりを挟む最近、勝田台方面からの依頼が無くなってきたので拠点を変えるのもありだなと思ってきた椎名は思い切って船橋に部屋を借りた。たまに市川市からの依頼もあるので船橋くらいだと丁度いいのだ。ただ『えにし』があるのは勝田台だから、あのアイスコーヒーとヤシロが遠くになってしまうのは少し寂しかったが(まあ、ヤシロさんに会えた所でどうなるってもんでもないしな)と鈍感な椎名は思うのであった。
————
明日の出勤指示メールが来た。やはり勝田台の『龍』ではなかった。少しだけガッカリ。
「明日も津田沼か…」
相変わらずの『陽』への出勤。
その日は対面に西船橋の『ラッキーボーイ』で同卓した南上コテツがいた。
「おっ、キミは西船でも会ったよな?」
「お久しぶりです。偶然ですね」
「今日はどうやら簡単には勝てそうもないな」
「よく言いますよ、あんだけ圧勝しておいて」
「あれはたまたまさ」
「おー怖。強い人はみんなそう言うんですよ」
『ゲーム、スタート』
この雀荘には『白ポッチ』が入っている。白ポッチとはリーチ一発目に引いた時だけオールマイティになる白に赤いポチがついてるジョーカー牌だ。普段は白として扱う。
「リーチ!」
下家の横田さんが早速のリーチ。2巡後に白ポッチを引く。
「かー! 1巡早かったか」2発目に引いてきても意味はない。横田さんはリーチタイミングを測るタイプの打ち手だし、素直な方なので(てことはきっと、即リーチするのが当然! みたいな手ではないんだな)と読み、少しだけ押しやすくなった。あの(かー!)によって理想的最終形ではない可能性が高いと読めるからだ。
すると上家の小野寺さんも押し始めた。小野寺さんは横田さんと付き合いが長いのでちょっとしたことからでも読める。なので彼もこの時椎名と同じことを思っていた。(少し押しやすくなったな)と。
小野寺さんは打①でテンパイするとこまで作った。
ダン!「リーチ」
打①
「ロン」
横田手牌
一二三②③⑦⑧⑨12399 ①ロン
「裏1で16000の1枚」
「何それずりーよ!」
「何が?」
横田さんは何もズルくはない。安目だと安すぎるリャンメン待ちなのでこれはリーチしないでダマにするという判断も充分ありな手だった。なるほど、1巡回すという手も無しじゃないな。と椎名は思ったが、勝手に勘違いして押しすぎた小野寺さんは倍満の餌食になってしまった。
(ヒュー、あっぶね。完全に読み違えてたわ)
次局
親の椎名に好配牌が訪れる。しかし、ツモが噛み合わずに少々もたついた。7巡かけてやっとイーシャンテン。ドラは5だ。
8巡目
打6
ドラ周辺牌を投げて取った形がこれ
椎名手牌
三三四四伍伍六六③④334
9巡目
ツモ白ポッチ
これは当然ツモ切りだ。しかし、この時椎名はほんの、対面だけは見てるかな、程度にほんとに少しだけ、下唇を前に出してみた。
打白ポッチ
それを見ているレベルの打ち手はコテツだけだと確信して出した下唇。この三味線が、効果絶大だった。
(いま、少しだけ下唇出たよな。『あちゃー』みたいな。あいつ、テンパってるな。手替わり待ちで、だとしたら…)
そこでコテツの引いた牌がドラ!
コテツ手牌
伍六七八八②③④④⑤⑥45 ツモ5
(グッ、ど本命だ。ダマに1番危ない牌引いちまった。仕方ないな、こういうこともあると思ってのダマだ)
コテツは3-6のリャンメン待ちタンピン赤ドラをダマでテンパイしていたがシャンポンのタンヤオ赤ドラドラに一旦切り替えた。これは椎名の下唇がそうさせたのである。
2巡後
椎名ツモ赤5
「リーチ」
打3
(あっ! 手替わりさせてなきゃ満貫だった牌! くそっ!)とコテツは思った。
「ツモ!」
椎名手牌
三三四四伍伍六六③④345 ⑤ツモ
「一発赤裏裏で12000オールの4枚です」
「椎名くんだっけ。最後に引いたのどれだった?」
「赤です」
「前巡はってねーじゃん! それ、即リーじゃん! だまされた!」
「あは、見ててくれたんすね。僕の演技」
「完全に引っかかったわ。ズリーことすんなぁ」
「少し下唇が出ただけですよ」
この日椎名はコテツに見事勝利した。ちょっとだけズルいやり方ではあったが、それは卑怯だと言えるほどのものではない。下唇が出ただけだ。
しかしそれを見逃さないコテツ。それを読み取ると信じた椎名。2人のそのやり取りがハイレベルすぎて小野寺さんと横田さんは同時にパンクする。
(しまった、やり過ぎたな)
椎名はコテツとの対局が楽しくてつい仕事意識を欠いてしまった。その日は反省して次の日からまた猫を被るが、小野寺さんと横田さんにはもう本当の実力がバレてしまったのだった。
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◆◇◆◇
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