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第1章【入社テスト編】
5話目◉手首
しおりを挟む実技面接という名のゲームがスタートした。
座順は
東家 マスター
南家 渡邉
西家 福島ヤシロ
北家 おれ
渡邉さんの話だとヤシロには気をつけろということだった。あれは女の皮を被った魔物だと。とにかくヤシロさんは卓に着いたら人が変わるそうだ。
本当だろうか。2人とも凄腕だと言うことだが、マスターはまあ、強そうな空気を醸し出してるけどヤシロさんも凄腕ってホント? と失礼ながら疑った。だっておれから見たらただの若い美女でしかないから。美人が麻雀上手くないとは言わないけど、それにしても『凄腕』というのはもっとベテランに付けられる称号のように思っていた。しかし。
「リーチ」
渡邉さんのリーチが入る。
全員とりあえず一歩引いて対応した、が、リーチして3巡後。
「…ふうん」とヤシロは小さく呟き。その時渡邉さんは三をツモ切る。
そこからはヤシロの猛烈な押し返しが始まり、ついに追いつく。
「リーチよ」
打③
おれとマスターは勝負手にならないのでオリ。するとヤシロが一発で。
「ツモ」
ヤシロ手牌
二二三四④④④⑤⑤⑤234 伍ツモ
「裏3で3000.6000の4枚」
強烈! …しかし解せない。なぜ③切りリーチなんだ。二を勝負していれば②③④⑤の4面待ちで高め三色になるというのに。
「うわあ、どこで気付いたんだそれ。参ったな」と言う渡邉さん。なんのことだろう。
「少し渡邉さんの手首の筋が見えました。三をツモる時に力が入っていたのを見逃しませんでしたので、三に似ている牌は切れませんよね」
(手首の筋!!? この、まだ20代前半であろう美人ウェイトレスは牌をツモる時の手首の筋を見て危険牌を読み切ったというのか?!!)
ゾッとした。自分の知らない次元の麻雀がそこにはあった。手首の筋なんてほとんど見えないものを一瞬見て力んでいるのを確認して待ちを一点に決めて押し返してアガリ切る。とても自分には出来ないレベルのものだ。
たった一局で完全にわかった。
————力量が違う。
だがもうゲームは始まってしまったのだ。愕然としててもしょうがない。
(おれにはおれの戦い方がある。切り替えて行こう)
そう思い、頭を切り替える椎名だった。
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