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第十六局【決勝戦編】
最終巡目◉私の夢
しおりを挟む「「ありがとうございました!!」」
試合終了の挨拶をするとインタビューが始まった。
『財前カオリ選手! 優勝おめでとうございます!』
「ありがとうございます」
『今回は初タイトルということでお気持ちはいかがですか!?』
「はい、夢のようです。私のような未熟な打ち手が獲れるようなものではないと思っていたので。もちろん、私なりに全力を尽くしましたが、それでも今回は運が良かったなと思います」
『ライバルの井川プロとは——
————
———
——
「ああもう、すごく時間かかっちゃった! 今日はあと数時間しかないのに!!」
「カオリ。何をそんなに慌ててるの?」
「今日中にやりたいことがあるの! ミサト! 悪いけど私は先帰るから! 今日はいい試合だったね。ありがとう!」
「うん。カオリ、強くなったね。……負けたのはやっぱり悔しいけど、成長したあなたと最高の舞台で戦えたことは、嬉しくも…思う。……今日は、おめでとう!」
「ありがとう!!」
カオリは急いで駅へ向かい帰りの電車に乗り込んだ。
《本当に何をそんなに慌ててるんですか?》
(…あなたねー。明日には私が二十歳になっちゃうからもう会えないんでしょ? 今日のうちにたくさんお話ししておきたいのよ! あなたと!)
《ああ、なんだそのことでしたか!》
(なんだじゃないわよ! 大事なことよ!)
《別に消えると言っても…… ラーシャさんもマナミに憑くのをやめただけで今も居ますしね》
(居るってどこに)
《部屋に居ますよロフトに。毎晩私と一緒に念で作り上げた牌並べてはあーでもないこーでもないと麻雀談義してますし》
(はあーー? なーによそれ! ばかみたい! womanと今日を最後に今生の…… 別れが来るのだと思ってた… 私の不安な気持ちをばかにして!)
あらためてそう言うとカオリは涙が出てしまった。womanと今生の別れ。そのフレーズだけでもう涙が出て止まらない。
《あらあら、泣かないでください。大丈夫ですから》
(うっさい! 子供扱いしないでよ、怖かったんだから)
《ふふ、…でもね、今日で分かったんですが。私はもうカオリに憑いてない方がいいなって。特殊能力は今のカオリにはもう邪魔になるだけですね》
(そんなことない! 憑いてていいって! 大丈夫、冷静にコントロールしてみせるし)
《カオリならそれも出来るかもしれません。でも、時には興奮して感情的に気合いを入れて楽しむ麻雀もしてもいいと思うんです。プロらしくはないですが友人とやる時とかならそれでいいじゃないですか。その麻雀はきっと楽しい》
(そんなことしなくても麻雀はいつも楽しいよ! やっぱり消える気なんでしょ!)
《消えるもなにも私に姿はありませんけどね》
電車は水戸へ到着した。
河川敷を通り河原へ降りてゆく。その道はバイト帰りの夜中にwomanとのお喋りをした思い出がたくさんある道だ。
「やっと声出して話せるわ」
《この河原はいつも誰もいませんからね》
「で、womanは明日っから憑くのやめる気なのね」
《はい》
「それって今みたいにお喋りできなくなるのよね?」
《ええ、でも夢の中に出てきて話すことは出来るみたいですよ。ラーシャさんもマナミの夢に出て話しかけたみたいですし》
「嫌よ! 私はずっとwomanとお喋りしていたいの!」
《気持ちは嬉しいですけど、でも私はやっぱりカオリの麻雀を邪魔したくないです。いいじゃないですか、毎晩夢の中にはお邪魔しますから。それで良くないですか?》
「絶対に毎晩出てくる?」
《絶対に毎晩出てきます》
「なら、いいけど。でも条件があるよ」
《なんでしょう》
「私の命がいつか終わる時。まだずっと先だと思うけど。そうなった時に私と麻雀をして下さい」
《まあ!! 牌神であるこの私に挑むつもりですか!?》
「そう、それが私の夢なの」
《まいりましたねカオリには… 死後にまで目標を掲げているなんてあり得ますか? さすがは私の主人です。でもそうするとラーシャさんを入れたとしてもあと1人足りませんね》
「マナミがいるじゃん」
《つまり、財前姉妹は人生の旅を終えたら神である私達に挑みたいと。その条件を飲めって言うんですね》
「うん、それが叶うなら今はお別れになってもいい」
《…はーーー。まあ、いいでしょう。そうなるとカオリとマナミも神にする必要がありますが、まああなたたち二人なら麻雀神に推してもいいかもですね。八百万の神というくらい神の座はたくさんあるので。お二人が今後も一生懸命、人生を麻雀に貢献していくのであれば死後の神化を約束しますよ》
「えっ、神になれちゃうの? そこまですごい約束になるとは思わなかった」
《その代わり、相応しい人として生きるんですよ。まあ、あなたたちなら今まで通りで充分ですけど》
「もう、帰ろっか」
《冷えてきましたからね。私は大丈夫ですけどカオリは寒いでしょう》
《カオリ》
「ん?」
《優勝おめでとうございます》
「うん、ありがとう」
————
——
次の日
赤伍のキーホルダーに触れてみる。
………
反応なし。
ペンダントトップの伍に触れてみる。
………
反応なし。
(いなくなっちゃった… わけじゃないんだよね。見えないし聞こえないけど、そこにいるんだよね)
《そうですよー。いまも見てますよー。ていうか見えないのは元々でしたよー》という声をかけている気がする。もう聞こえなくなったけど。すると
「誕生日おめでと!」
ロフトからマナミが顔を出してきてそう言った。そう、今日はカオリの二十歳の誕生日だ。
「優勝祝い兼誕生日ケーキ。すごい豪華なやつ買ってあるよ。あとでみんなで食べようね!」
「優勝はするかわかんなかったのに?」
「優勝はするって信じてた! だって私の妹だもん!」
冷蔵庫には一段仕切りを外して特大ケーキが入っていた。そこには『カオリ名人20歳おめでとう!』としっかり書いてあり、本当にこれ優勝してなかったらどうするんだというものだった。
「信じてないと叶わないことってあると思うの。だから私はカオリの優勝を信じて疑わないことにした。その証拠のケーキです」
「ありがとう。マナミ。大好き!」
特大ケーキは家族だけでは食べ切れないので部室に持って行ったが、そこにもお祝いのケーキが待っていた。
食べ切れないからと『グリーン』に持ち込むも、そこでも祝いのケーキがあり。
「もう、今日はお客さんも食べてって! みんなでケーキパーティにしましょう」となった。
こうして、大勢の人に祝われて、人々の祝福を一斉に受けながら財前カオリは幸せな大人になったのでした。
「せーの!」
「「財前カオリ名人! 誕生日おめでとう!」」
「みんな、本当にありがとう!」
終
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