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第十六局【決勝戦編】
8巡目◉最終戦へ
しおりを挟む『間もなく最終半荘となるわけですが、先ほどのゲームはいかがでしたか小林プロ』
『いやーー! さすがでしたね、いいもの見ました。あのままやられる井川プロではないと思っていましたがあそこまで復活するとは』
『よく言いますからね「虎は傷ついてからが本物である」って』
『ヒンズー教徒のことわざでしたっけ。となると、今回の半荘で傷ついたもう一頭の虎が今度は気になりますねー』
『財前のことですか』
『はい、彼女もまた虎の牙を持つ獣でしょう。私達と同じですよ』
『…ですね。面白い試合を期待しましょう!』
「ねえ、白山」
「はい?」
「あと、1時間もしたら決着ね」
「はあ、だいたいそんなもんですね」
「寂しくない?」
「……?」
「私は、この勝負が終わっちゃうと思うと寂しいわ。50も過ぎるとね…… こんないい試合に出会えたこと、それ自体がもう…感動で。なかなか無いわよ、今日みたいな面子でこんな大舞台で打てる機会は」
「…そういうものですか」
「あなたはこれから先もきっと決勝戦に何度も残る。優勝だって何度もすると思うわ。でも私は違う。現にそんなことにはならなかった人生を半世紀歩んできたから分かるわ。だから、今日この日がずっと前から楽しみだったし、あと1時間くらいで終わるなんて寂しいのよ」
「…でも、ジュンコさんは最近成果を上げてます。結果だけ冷静に見て考えると『強くなった』という事ではありませんか? 何か、以前とは違うことを始めて、それが効果を出したみたいな可能性はないんですか?」
「無い無いそんなの! あるわけないって。たまたま偶然だよ」
「そうですか…… それにしては今日の麻雀、隙がなくて私、困っているんですけど」
「ふーん、そうなの? なんか強くなるようなことしてたかなぁ」
「誰かと稽古してるとか」
「…あ!」
「あるんですね、やっぱり」
「うん…… 言われてみれば、ネット麻雀っての始めてみたわ。暇さえあれば打ってる」
「それだ」
聞いてみた所、左田ジュンコはネット麻雀の高段位を獲得していた。それは実力はもちろん、普通なら相当の打数を打って辿り着く段位だった。
「なんか、あれよあれよと勝てるから楽しくなっちゃって。最近では相手も強いからリアル麻雀と同じくらい楽しめてるの。これが私を鍛えてくれてたのかなぁ」
「絶対そうですよ。実は私も登録だけはしてるんです。滅多に開きませんが」
「そーなんだ、今度一緒にやろうよ」
「そうですね、でも、そろそろ私達のリアル対決が始まりますよ」
————
——
《さて… と。カオリ、最終戦ですね》
(そうね)
《作戦くらい立てますか?》
(いや、どうせトップを取るしかないし。いつもと同じことするだけでしょ。方針はいつもと同じで『トップ狙い』で。上3人は横並びだからトップ取れば自動的に総合優勝するし。
あとは、たくさんの人が観れるように撮影しているので、くれぐれもプロらしくない未熟な行動は取らないようにします。私の考えはそれだけ)
《いい作戦です。カオリ》
(でしょう。じゃあ行こうか)
「あっ、ミサト……(すごいオーラ)」
「カオリ…」
「………」
「おしゃべりは一時間後までお預けしとこうか…」
「それがいいね」
最終戦を前に2人は会話をしなかった。それは嫌い合っているとかではなく、いま最高潮まで達している戦闘モードのオーラ。それがしぼむのを嫌ったのだ。こんな状態までオーラを育てたのはお互い初めてだから、例えるならとても大きな風船。せっかくこの状態まで来たのだから緊張感のない会話をして割りたくない。そういう意味で会話をしなかったのである。
麻雀界最強を目指して! 運命の最終戦がいま始まる!
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