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第十六局【決勝戦編】

3巡目◉天才の引き

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「正着を打つことが正解だと思った方が気は楽だしある程度までは勝てるだろう。しかし、それではいつまでたっても『ある程度』強いだけだ。最強になるには正着のその先にある応用問題を解いていかねばならない」そう言っていたのは南上コテツだ。

(なぜだろう、彼のあの言葉をいま思い出したのは…。この場面がまさに応用問題だということなのかしら?)白山シオリは少し止まって考えた。

東2局

東家 財前カオリ 捨て牌 西→中→9
南家 井川ミサト 捨て牌 ⑨→中→六
西家 白山シオリ 捨て牌 北→一
北家 左田ジュンコ 捨て牌 南→二

3巡目
白山手牌 切り番
七九②③④⑤⑥⑦⑧33489 ドラ①

(ペンチャンターツを外すのが正着なのはわかるけど…… それじゃただの1人麻雀。ここは、これ!)

打九

『おっと! 白山プロ。ペンチャンよりもカンチャンを嫌いました、これはどういった意図なんでしょうか』

『全体で打つって事でしょうか。攻撃的ですね。一瞬残してる七も六にくっつけば採用していく手順。親の時はこの手順を使うことは多いですけど…』

 解説の小林は攻撃的に全体で打つ選択だと言ったが、シオリの考えはそうではなかった。
(この局、南家いがわの捨て牌が少しおかしい。2巡目のチュン。ただの合わせ打ちということもあるかも知れないが、親に合わせて親の現物を処理するというのは少々違和感がある。井川ミサトは守備力の高い選手だったはずだ。親の現物は基本的に大切にするだろう。あやしいな…。3巡目の六だって早くないか? そう考えていくと1巡目の⑨もドラ表示牌として1枚減の牌だ。それらを繋げる何かがあるかも知れない…… と考えれば答えは1つ! 七対子チートイツ狙いだ。
 七対子狙いだから1枚切れてる牌は処分した。一向聴イーシャンテンだとチュンは貴重だから多分2巡目の時点では二向聴リャンシャンテン。六には一向聴になって罠を設置したような意図を感じる。なら七、八、九は危険だ。まあ、七は比較的安全かもしれないけど。例えば六八九から六切りしたとかじゃないかしら? であればここは九切り。井川ミサトがテンパイする前に萬子の上を処分しておいて、後々放銃になるかも知れない手順を回避する)

白山
次巡ツモ7!

(絶好の引き! 井川ミサト、アナタのおかげよ! 感謝するわ)

打七

『うお! 白山シオリ、天才の引きをしますね。魅せてくれます! 女王シオリ!』

同巡
ミサト手牌
八九①①⑤⑤22334北北 八ツモ

(萬子の上は先に処理されちゃったか…… でもせっかくテンパイしたし、先に処理されたと言ってもやっぱりリーチした方がいいかな)

「リーチ」

打4

『さあ! 井川はリーチです!』


次巡
白山シオリ
ツモ⑨!

『お!』
『これは! 残り2枚しかなかったドラ表示牌の⑨を引いてきた! 究極のテンパイだ!!』

「リーチ」

打4

シオリ手牌
②③④⑤⑥⑦⑧⑨33789 

『当然曲げたあ!!』
『2軒リーチです!』
『井川がチラッと嫌な顔をしましたね』
『それはそうでしょう。4切りの追っかけリーチですからね。「え? そっちで待てばアガれたの?」って思ったと思いますよー』
『ですね。まあ、無理な話ではあるんですけど。九と4ではアガリ易さが違いすぎて比較対象にもなりませんからね』
『それはそう』

同巡
井川ミサト
ツモ①

ササーーー

 ミサトの顔から一気に血の気が引く音が聞こえるようだった。そんなドラ引き——

「ロン!」

②③④⑤⑥⑦⑧⑨33789 ①ロン(一発)

「12000」


 これにより完全にペースを掴んだ白山シオリは1回戦を制した。



 決勝戦1回戦目は完璧なシオリの半荘————

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