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第十伍局【師団名人戦編②】
9巡目◉記憶に残る名勝負
しおりを挟む(や、や、やられた! やらかしたーー! トイトイ三暗刻!? ここに来てツモスーってあんた。伍切っとけば良かったかー。三色なくてもトップだもんね。…まあ、伍の方が安全なんて場にそんな根拠はひとっつも書いてないから無理なんだけどさ…… そもそもオーラスはアガリやめなしだから打点はあった方がいいし…)そう思うとシオリはある人の書いたブログ記事を思い出していた。
————
“麻雀にはすべき選択をしても負ける時があります。それでもいい。ミスして負けたのでなければ。
私は勝利よりも正しい麻雀を追求していきたい。
正しい選択
正しい攻め
正しい鳴き
正しいオリ
正しいオリによるオリ打ちなら、それすら美しい行為に私は思う
ライジン”
————
(ライジンさん。私、間違ってないよね。私は正しいよね。私の麻雀は…… 美しかったでしょう?)
シオリは『ライジン』というブロガーの記事をいつも参考にしていた。いつのまにかシオリにとってライジンは師匠のような存在になっていたのだ。これに勝ったら決勝進出を報告したいと思っていたが、今負けた。
(だが、美しく打てたんですよと。そう報告しよう——)
シオリはカメラの前だったので悔し涙を堪えてなんとか微笑む。うまく笑えてない気がする。表情も作れないくらいショックだった。すると——
「待ってください」
そう言ったのは豊田だった。
「みなさん忘れてませんか。この勝負は師団名人戦ですよ。いつものリーグ戦じゃない」
「そうか!」
『あっ! 失礼しました。私たちもすっかり失念していました。師団名人戦はそう、クラシックルールです!』
『そうだった!』
つまり、ダブロンはアタマハネ。
「あ」
『えー、こちら放送席の成田です。聞こえますか。この8000点はアタマハネで成立しません』
「なにぃ!!?」
新田が椅子から転げ落ちる。
「ということは」
『1位通過! 井川美沙都プロ。2位通過! 白山詩織プロです!』
ワアアア!!
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!
「残念でしたね、新田さん。でも、僕たちは忘れませんよ。今日のこの名勝負を。ルールがひとつ違っていたら結果が逆だったんだから。すごい勝負でしたよ。僕はろくに参加出来なかったけどね」と豊田が新田に話しかける。
「ん… 悔しいけど、でも目標は達成したよ」
「目標って? 何だったんですか」
「一撃でいい。ほんの一筋の爪痕でいいから、プロたちに新田忍の傷跡をつけて。一生忘れることない雀士として記憶してもらう。そんなアガリをしてやろうって…」
「それなら、達成してますね」
「負けたけど… 清々しいよ!」
「それは良かった」
こうして師団名人戦準決勝A卓は女流プロ二名が勝ち上がった。決勝戦に女流が二名。それは師団名人戦の長い歴史で初めての事だった。
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