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第十伍局【師団名人戦編②】

8巡目◉僥倖

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 新田は自分の実力を分かっていた。そんなには強くないと。普通の人より少しは勝てるがプロフェッショナルの連中には勝てない。そんな事は知っていた。今だって、若手の注目株な豊田プロや女王シオリ。そして新人王ミサト。どちらを見ても真のプロ選手であり自分にとって格上の打ち手であることは分かってた。

(このような舞台に立てる機会はきっとこの先、生涯無い。おれの実力じゃあ準決勝ここに居るだけでも僥倖なんだ。もうこうなったら勝ち負けじゃない。たった一筋でいいからコイツらに生涯残るような爪痕を。新田忍オレという雀士の底力を一撃だけでも見せつけたい…!)
 新田の願いは届いて次局、親番の新田に手が入る。タンヤオドラ3を3巡目にメンゼンテンパイ。

(落ち着けー。まず落ち着けー。今なら直撃ちょくで取れる可能性まであるんだ。リーチはやめとこう)
 そっと牌を縦に置く新田。

 すると。思惑通りシオリから直取りが決まる。

「ロン。12000」「はい(まだ4巡目よ?!)」

 次局はミサトが2000.4000は2100.4100をツモり、激しい戦いとなる。

「ロン!」
「ロン!」
「ツモ」
「ツモ」
「ツモ!」
「ロン」
——————
————
——

 荒れに荒れた準決勝2回戦オーラス。ついに白山シオリは総合点数微差トップまで落とされていた。何か失点すれば2着落ち、新田には満貫放銃で3着落ちとなる所まで落ちてきてしまった。
(何でこうなったんだろう。私はしっかりと守っていたのに…)シオリは頭が痛くなってきた。つらいつらいつらい。もう、さっさと通過を決めてこの場から早く立ち去りたい。そう思うくらい2回戦は失点した。

『白山プロ顔面蒼白ですね』
『それはそうでしょう。あれだけのダマテンに振り込めば』
『仕方ない放銃とはいえあれだけ決まると見てる方までクラクラしてきましたもんね』
『とは言え、まだ総合トップのままオーラスです。ここを乗り切って決勝戦へ行けるか!? それとも捲られてしまうのか?!』
『豊田は倍満条件なので少し安心としても新田には満貫放銃で捲られてしまいます。注意すべきは新田でしょうね』

 しかし! そのオーラスの白山の配牌がすごかった。

オーラス親番ドラ四

白山手牌
二三四四四伍②③④3568東

『白山! 配牌でタンヤオドラ3イーシャンテンです!』

『ここに来てとてつもないですね』

『総合トップの自分に打点は必要ないけど打点を必要としてる他家の逆転手に必要な素材ドラをここで殺しているというのは安心ですね』
『確かに』
 白山シオリの決勝進出はこの時点で確実だと誰もが思った。しかし…!


白山手牌 8巡目
二三四四四伍③④⑤3568 4ツモ

『白山張った! しかしその二万は…!』

打二

「「ロン」」

ミサト手牌
三四①②③④⑤⑥11789

新田手牌
二二九九九⑦⑦⑦⑧⑧⑧東東

「ダッ…… ダブロン…!」

2000と8000の二人同時和了ダブロン

『なんとなんとなんと! ドラを使わずにダマで条件を満たす手を作り上げました新田忍!』
『師団名人戦準決勝A卓決着!』
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