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第十四局【師団名人戦編①】

15巡目◉準々決勝へ

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「ついに準々決勝まで一緒に来ちゃいましたね」そうカオリに話しかけたのは今年から師団に入った新人の橘浩樹プロだ。橘とは本戦1回戦からずっと一緒に勝ち抜けている。強敵の小林賢コバケンを倒す為に1回戦で橘を生かしたがあの判断は間違いだったかもしれない。こんなにしぶとく橘が生き延びるとは。

「次は左田さんと当たりますね。感動しちゃうなー。おれ、左田プロに人気投票3ポイント入れたんすよ。カッコよくないすかあの人。女だてらに編集長までのし上がって、趣味の麻雀も本気で取り組んで雀聖位まで獲得しちゃって。同じ兼業雀士として憧れちゃいますよ」
「橘さんはお仕事何されてるんですか」
「おれはゲームの音楽を作る仕事をしてます。昔からゲームクリエイターになりたくて、とくにゲーム音楽は自分が好きなものが多いから、心に残るゲーム音楽を自分で作ることが出来たら凄いなと思って」
「へええ! すごい! やりたいことを仕事にしてて素敵ねえ」
「…え、ありがとうございます」

《カオリにしては珍しいですね。試合の途中で対局相手と話すなんて》
(いやまあ、話しかけられたらね。それに、年齢は上でもプロとしては橘さんは後輩だし。面倒見ないといけないかなって)
《へぇ、色々考えてるんですね》
(まぁね)

 カオリと橘は4回戦が始まるまでのほんの少しの時間だけ談笑した。womanが指摘するように、それはカオリには確かに珍しいことだった。そして、その行動がまさか後の結果を左右することになるとはこの時は思いもしなかったのである。

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 一方で左田と猿山は本戦3回戦を突破していた。お互いがお互いを強敵とみなし、3回戦で落とそうと試みたが狙い撃ちとは現実にはそう上手くいくものではない。猿山用に作った罠にその他Aが嵌り。左田用に作った罠にその他Bが引っかかる。そういうものなのである。麻雀は運の要素が大きいゲームだとは言っても何を切るかはプレイヤー次第。なので罠への対応こそが上手と下手の大きな差となる。相手の着順をコントロールしながら勝つのは非常に難しいことなのだ。
 別に自分も負けていいというなら話は別だが、相手を操作した上で自分も勝ちたい。となると普通に勝つのの3倍は難しい問題になるだろう。
(ちいィィィィ。猿山が出しそうな牌でリーチしたのに何でアンタが出すかなぁ!)

(んだこの下手くそ! オメーは今振込みに行ったらダメな場面ってなんでわかんねーんだよ!)

 などと、2人は何度も何度も和了アガリを決めながら不服そうに3回戦を通過したという。


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 その頃、井川ミサトも3回戦を勝ち抜いて準々決勝まで駒を進めていた。
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