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第十二局【雀聖位編】
10巡目◉左田純子の能力
しおりを挟む1回戦はマナミとユウの接戦に河野が食らいつこうとするも失敗。マナミのトップで終わった。ユウとの点差は200点という大接戦であった。
「ふう、なんとか勝てたか」
「最後、裏の1枚くらい乗らないもんかしらねしかし」
『15分間の休憩に入ります。選手のみなさんはお手洗いなどを済ませておいてください』
マナミは椅子で精神統一をしている、と思わせて寝ていた。さっきまでユウと話していたのにあっという間の早業である。
一方、左田は近くのコンビニに行ってエナジードリンクを2本とアイスコーヒーを2本買ってきた。どうやらやる気充分といった所だ。当然だが、初回ラスくらいで諦めたりなんかしてない。
(必ず挽回する!)強い決意がそのドリンクから聞こえてくるようだった。普通、残り半荘3回でドリンク4本買うか?
何よりも、左田は負けた時に(眠かった)を言い訳にしたくなかった。寝不足なのは自分の緊張のせいなのだ。それで眠くて負けましたなんてバカとしか言いようがない。
プシュ!
まず1缶目の1番大きなエナジードリンクに手をつけるとゴクゴクゴクゴクと一気飲みした。
(目覚めろ! 私! 愚形リーチごときで躊躇してるんじゃない!! あいつらは一瞬の反応で読んでくるってわかってたじゃない。それが決勝戦に残るメンツの実力だって。寝てる場合か!)左田はそう自分に言い奮い立たせると眼を大きく開いた。もうさっきまでのダウンしていた左田じゃない。
『はい、時間ですので選手のみなさんは2回戦開始の準備をしてください!』
「ふう、スッキリした!」
多少であれ睡眠をとったマナミは回復していた。
2回戦開始——
座順
東家 左田純子
南家 財前真実
西家 河野勇一郎
北家 佐藤優
2回戦は終始全員が集中していた。東場などリーチこそするものの誰もアガることなく流局だけで終わった。読み、読まれの精度が高すぎて誰もアガリに辿り着けないでいた。
実のところ左田純子という女はそこまで強いプロではない。長くプロをやっているが混合でAリーグに上がったことは一度もない。前回の雀聖位戦も僥倖としか言いようがない優勝で周りはみんな驚いたし、何より自分が一番驚いてた。なぜなら雀聖になった最後の局は下家の小宮山というアマチュアが裏ドラ条件で倒したが乗らず横移動フィニッシュでオーラスにアガってないのに雀聖になったのだ。この時にポロッとこぼした「え、私が優勝したの?」という言葉は当時の麻雀界で流行語になっていた。
そんな左田だが、ひとつだけ、今回の決勝戦のメンバーの中で圧倒的に他より抜きん出ているものもある。それは、自分を客観視する能力。
河野はともかく、財前や佐藤といった少女たちも絶対に自分より強いと確信してた。認めた上で、それでも勝ちたいと思っているのだ。
『麻雀には年齢差も性差もない。ただあるのは実力差。だから私は麻雀に惹かれるの。そして私にはたいした実力はないんだ。それは知ってるけど、麻雀が好きなの』と左田純子は後に語る。
慢心しない者、左田純子。その能力を持つ者はプロ麻雀界ではごく稀で、だからこそ今、決勝戦に残れているのだという事に左田はまだ気付いていないのだった。
全員が全員、良い集中を出来ていた。左田は自分の持てる集中力を全て使うつもりで解き放ち3人のレベルに付いて行っていた。
《あの空間、まるで結界ですね。4人とも頑張って自分の役割を果たしています。さしずめ物語を紡ぐ作家のようです…… この戦いは4人の共著。ああ、私もあそこに混ぜてもらえないかしら》
(ごめんなさいねー、予選で負けちゃって!)
《ふふ、カオリはいつか必ずやってくれるって信じてますから》
緊張の糸がピンと張っているのが見えるようだ。呼吸のリズムや汗からも読み合いが行われた。その場は4人だけの世界として完成されていた。
そして勝負は2回戦南場に突入する。
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