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第十二局【雀聖位編】

7巡目◉ありがとうのリャンメン

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 決勝戦前日。その日の夜、財前マナミは寝れないでいた。
(緊張する…… 明日は決勝戦。映像対局の決勝戦に残ってしまった…… どうしよう、寝れない。私の人生で一番の大舞台になる可能性すらある日。それが明日なんだ。みんなが応援してくれてる。ミスは出来ない。早く寝てコンディションを整えて行かないといけないのに…… 緊張で寝れないよ! そういえば昔、中学の理科の先生が寝れない時は何も考えずに目を閉じて横になっているだけでいい。それだけでも回復はするからって言ってたっけ。ようし無心だ
無心。……………………………………………………………………………………………… いや…… ムリよ! どうしても何か考えちゃうわよ。それが出来たら苦労しないわー)











チュンチュン
チュンチュン


(朝んなっちゃった)
「…あーーもう! 今さら眠いし!」
「ど、どーしたのマナミ。目え真っ赤よ?」
「えっ」
 鏡を見るマナミ。そこにはウサギのような目になってる自分がいた。
「やば。今日は映像対局なのにどうしよう」
「なんとかかんとかゾリンってのが入った目薬を使うといいよ。ゾリン」
「ゾリン? わ、わかった。うちにあるの?」
「無い。ひよこに置いてきた」
「だめじゃん!」
 幸い、水戸駅構内には薬局がある。マナミは行きにそこに寄ってから向かうことにした。

「すいません! なんとかゾリンが入った目薬ってありませんか?」
 薬剤師の先生が眼を見て察する。
「なんとかゾリン? ああ、充血してるね。ならコレがいいですよ、察するに今すぐに治したいんでしょう?」

 百寿製薬の『マイティーV』塩酸テトラヒドロゾリン入り。750円

「ありがとうございます!」
「はい、ありがとうございましたー」
 マナミは買う側なのにいつもありがとうございますと言う。店員と客がお互いにありがとうと言う形になるありがとうのリャンメン。そのやり取りが素で出来ているのがすごくいいなとカオリは前から思っていて、マナミに会って以来いつも真似して自分もそうするようにしてる。

 マナミは本心からいつも思っているのだ、そこで働いていてくれてありがとう。助かりましたありがとう。と。そんな善良な姉を持ち、それこそが有難いなと常々思うカオリなのであった。

「なにボーっとしてんの! 行くよ!」
「はいはい」
 待ち合わせ場所にした駅前のベンチにはずらりと少女達が揃っていた。

 ユウ、アン、ミサト、ヒロコ、ヤチヨ、サトコ、ショウコ、ナツミ、ユキ

 そしてメグミも到着しアカネも来てる。
 今回の大会はそのくらい大変なものなのだ! 対局室には入れないが一番近くでモニター越しにでも応援したいとみんなが思った。ユウとマナミのどちらを応援するとかそんなのは決められないけど、2人とも悔いのないベストの戦いをして貰いたいと、麻雀部のみんながそう祈っていた。見慣れない男性も1人いた。誰だろう。

「あ、これは私の父です」とナツミが紹介する。そういえばナツミは父親の影響で麻雀始めたと言っていた気がする。
「今日は楽しみにしています。2人とも決勝戦頑張って!」

「はい!!」「ハイ!!」

 特急ときわに乗って14人は決戦の地とうきょうへと向かった。
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