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第十一局【麻雀教室編】
4巡目◉ユウの笑顔
しおりを挟むその日、マナミが『ひよこ』でバイトしていると今日はユウとミサトが偶然にも同卓になった。
「あら、誰かと思えばミサトじゃない。麻雀部以外で同卓したのは初めてね」
「ユウもフリーで打つようになったのね。フリー雀荘はどう? 色んな人がいて面白いでしょう?」
「そうね、とっても楽しいわ」
ユウの麻雀は相手がどう出るか見極めながら刀を構えるような、中間距離を得意とする麻雀だった。間合いに入れば切り捨てられるという圧力が同卓者にかかる。
(相変わらず、すごい存在感。何度やっても圧力がビリビリ来るわ。まるで侍ね… だが!)
「ポン!」
受けの構えをしつつもその間合いへと飛び込んで行くミサト。
(マナミならバチバチにぶつけて喧嘩を挑むんでしょうけど、私は受けつつ進む柔の雀士だ。危険度の高い牌を出さない方針で前に進む!)
ミサトの麻雀は受けの構えでチャンスを掴んだらドガン! と一撃必殺の柔の麻雀。
マナミの目にはまるで日本刀を構えたユウの懐に柔道家のミサトが踏み込んで行ったような幻覚が見えたという。そしてその雰囲気は店長も感じていた。
「マナミさん。あの井川さんの上家に今座ってる若い子は誰なの? さっき話してたけど」
「ああ、あの子は佐藤優。私たち姉妹やミサトと一緒に高校生の頃から毎日麻雀を研究した仲間です。そう言えば私が最初に彼女を誘ったんでした。懐かしいな。今ではタイトルホルダーにまでなっちゃって」
「研究って、例の『麻雀部』って呼んでるやつかい? え? タイトルホルダー?!」
「そうです。それ、彼女の家のことなんですよ。厳密にはスグルさんの部屋。タイトルは最近新しくできたUUCコーヒー杯ですね。あれ優勝したのは彼女です」
「佐藤… 佐藤ってあの子スグルの妹ってこと? 似てないな! へえぇー。しかも麻雀大会で優勝してんの? すごいねー!」
「スグルさん元気してますかねえ」
「ひとことも連絡来ないし、忙しく元気にやってるんじゃないか? 便りが無いのは良い便りと言うしね」
「ロン!」
ユウが面子選択で払った方を被らせてアガリを逃し、その後ミサトに放銃していた。
店長がヒソヒソとマナミに話しかける。
(佐藤さんは今の放銃ひそかに痛かったんじゃないか? 普通にしてるけど、アガリ逃したもんな)
(いえ、ユウの3巡目を見てください。1を捨ててます。その上で34払いか⑥⑦払いかの選択だったわけですから、情報少ないあのタイミングで払うべきは34で確定です。わざわざ本命と読まれるヒントを漏らしている受けを残すのが正解なわけがありません。ユウはこういった逆を選択するのは絶対に合理的ではないと自信を持って言える場合の裏目引き程度では「痛い」なんて思わないと思います。私もそうですし)
(そうか、なるほど…)
(私たちの『麻雀部』には竹田杏奈という読みの天才がいて、彼女の教えによって私たち全員が備えている力があります。それは「まず自分で自分の捨て牌を読む」ということ。その上で良いなと思う方を捨てて打牌を選んでいます。つまり、捨て牌は作品を作る上で出た木屑なのではなく、捨て牌も合わせて作品。という意識を持っているということですね)
そうマナミから聞いて、ふとユウの表情を見ると、裏目を引いて満貫を放銃したとは思えないくらい楽しそうに麻雀をしていた。
(痛いどころか、楽しそうにしてる… 強いなあ)
(あ、ユウがいい笑顔してますね、あれはもしかしたら痛かったのかも。キツイ時ほど笑う子なんで)
(そんな18歳いるの!?)
麻雀部の少女たちがあまりにも強いハートを持っていて何度も何度も驚かされる店長なのであった。
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