上 下
191 / 297
第十一局【麻雀教室編】

4巡目◉ユウの笑顔

しおりを挟む

 その日、マナミが『ひよこ』でバイトしていると今日はユウとミサトが偶然にも同卓になった。
「あら、誰かと思えばミサトじゃない。麻雀部ウチ以外で同卓したのは初めてね」
「ユウもフリーで打つようになったのね。フリー雀荘はどう? 色んな人がいて面白いでしょう?」
「そうね、とっても楽しいわ」

 ユウの麻雀は相手がどう出るか見極めながら刀を構えるような、中間距離ミドルレンジを得意とする麻雀だった。間合いに入れば切り捨てられるという圧力プレッシャーが同卓者にかかる。

(相変わらず、すごい存在感。何度やっても圧力がビリビリ来るわ。まるでサムライね… だが!)

「ポン!」

 受けの構えをしつつもその間合いへと飛び込んで行くミサト。
(マナミならバチバチにぶつけて喧嘩を挑むんでしょうけど、私は受けつつ進むやわらの雀士だ。危険度の高い牌を出さない方針で前に進む!)

 ミサトの麻雀は受けの構えでチャンスを掴んだらドガン! と一撃必殺の柔の麻雀。

 マナミの目にはまるで日本刀を構えたユウのふところに柔道家のミサトが踏み込んで行ったような幻覚が見えたという。そしてその雰囲気は店長も感じていた。

「マナミさん。あの井川さんの上家に今座ってる若い子は誰なの? さっき話してたけど」
「ああ、あの子は佐藤優。私たち姉妹やミサトと一緒に高校生の頃から毎日麻雀を研究した仲間です。そう言えば私が最初に彼女を誘ったんでした。懐かしいな。今ではタイトルホルダーにまでなっちゃって」
「研究って、例の『麻雀部』って呼んでるやつかい? え? タイトルホルダー?!」
「そうです。それ、彼女の家のことなんですよ。厳密にはスグルさんの部屋。タイトルは最近新しくできたUUCコーヒー杯ですね。あれ優勝したのは彼女です」
「佐藤… 佐藤ってあの子スグルの妹ってこと? 似てないな! へえぇー。しかも麻雀大会で優勝してんの? すごいねー!」
「スグルさん元気してますかねえ」
「ひとことも連絡来ないし、忙しく元気にやってるんじゃないか? 便りが無いのは良い便りと言うしね」

「ロン!」

 ユウが面子メンツ選択で払った方を被らせてアガリを逃し、その後ミサトに放銃していた。


 店長がヒソヒソとマナミに話しかける。
(佐藤さんは今の放銃ひそかに痛かったんじゃないか? 普通にしてるけど、アガリ逃したもんな)
(いえ、ユウの3巡目を見てください。1を捨ててます。その上で34払いか⑥⑦払いかの選択だったわけですから、情報少ないあのタイミングで払うべきは34で確定です。わざわざ本命と読まれるヒントを漏らしている受けを残すのが正解なわけがありません。ユウはこういった逆を選択するのは絶対に合理的ではないと自信を持って言える場合の裏目引き程度では「痛い」なんて思わないと思います。私もそうですし)
(そうか、なるほど…)
(私たちの『麻雀部』には竹田杏奈という読みの天才がいて、彼女の教えによって私たち全員が備えている力があります。それは「まず自分で自分の捨て牌を読む」ということ。その上で良いなと思う方を捨てて打牌を選んでいます。つまり、捨て牌は作品を作る上で出た木屑きくずなのではなく、捨て牌も合わせて作品。という意識を持っているということですね)

 そうマナミから聞いて、ふとユウの表情を見ると、裏目を引いて満貫を放銃したとは思えないくらい楽しそうに麻雀をしていた。

(痛いどころか、楽しそうにしてる… 強いなあ)
(あ、ユウがいい笑顔してますね、あれはもしかしたら痛かったのかも。キツイ時ほど笑う子なんで)
(そんな18歳いるの!?)

 麻雀部の少女たちがあまりにも強いハートを持っていて何度も何度も驚かされる店長なのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

始業式で大胆なパンチラを披露する同級生

サドラ
大衆娯楽
今日から高校二年生!…なのだが、「僕」の視界に新しいクラスメイト、「石田さん」の美し過ぎる太ももが入ってきて…

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

処理中です...