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第十局【激闘!女流リーグ編】
1巡目◉最推し
しおりを挟む「今期の女流リーグは豊作ねー」そう言って機嫌を良くしているのは女流リーグ覇者の白山シオリだった。今日は本部で事務仕事を頼まれており、シオリは雑務を引き受けていた。覇者とは言えシオリもまだまだ新人であり、こういう仕事を振られることもある。プロリーグに参加するだけがプロ雀士の仕事ではないのだ。
「成田さんとこから有望株がバンバン出て来ましたからね!」と言うのは師団の中堅選手、B1リーグの富士山ケンタロウだ。
「あの子たちは華があるわよね。みんなそれぞれ個性的で魅力があるわ。麻雀の実力はまだ知らないけど、メグミも含めて全員昇級したらしいじゃないですか」
「そうですよ。それに、あともう1人女の子が昇級してましたよ。福島弥生って言ったかな。あの子はちょっと白山さんに顔が似てるかも。余白が多いっていうか、サッパリしてるっていうか」
「それ、私も思ってた。なんか似てるなって。ていうか余白って… 失礼ね!」
「いや、日本人顔っていうのかな。綺麗ですよとても」
「顔が余白だらけで片付いてて綺麗ってこと? フン。いいわよ、こんな私でも好きでいてくれる男性はいるんですからね!」
(そりゃいるだろ。美人だし)と思ったが、面倒だと思ったので富士山はそれ以上言わなかった。
(全く失礼しちゃうわ。…余白かー。そうなのよね。眼鏡でもかけてみようかしら。最近視力も落ちてきたし)
「とにかく、今期の新人は期待大ね。そもそも昇級者7人中5人女性なんてきっと前代未聞の事ですよね。女性の時代が来る予感がしませんか」
「そうだねえ。麻雀界が変わりつつあるのかもしれないね。とてもいい兆候だと思うよ。………よし出来た! これが次回の女流リーグ1回戦の卓組みだ」
「どれどれ… ふうん。水崎は1回戦で杜若さんと当たるのか。あの人は強いのよねー」
水崎というのはシオリの同期でライバルと言われている実力派女流だ。シオリは水崎に敗れて新人王戦は敗退している。
「きみでもそう思うのかい」
「少しは思いますよ。だけど、どんなに強かろうと勝つのは私だけどね」
「ひぇ。恐ろしい女子じゃ、くわばらくわばら」
「なによ、もう!」
その日、白山シオリは帰りに眼鏡屋さんに行った。
(フレームが存在感あるやつがいいな。余白を埋めてくれるやつ。…余白って。ふふふっ)
今になって余白という表現が面白くなってきてしまい笑いが込み上げるシオリ。
(やば、眼鏡見ながらニヤニヤして、変な人だと思われたかな。や、だって。富士山さんが変なこと言うから、余白… プッ!)
自分の顔を鏡で見てはそこにある余白が面白くなってしまう白山シオリなのであった。
————
一方、杜若アカネは成田メグミの昇級を受けて心から喜んでいた。
「良かった! メグは強いもん! Cにいつまでも居るのはおかしいのよ! すぐに私のいるBに… いや、追い越してAに上がってしまいなさい。私も頑張ってAになるから! ね!」
「それはいいですね。一緒に師団王座決定戦に残りましょう」
師団王座決定戦とは日本プロ麻雀師団のプロリーグの頂点を決める戦いの事。A1リーグのリーグ戦で1位~3位になった3人と前期王座が戦って頂点を決める戦いだ。リーグ戦というのはそこを目指して行うものだと言っていいだろう。
「そうそう、私からメグに昇級のお祝いに用意したプレゼントがあるんだった。渡し忘れてたんだけどさ」
「えー、なになに? なんだろ」
「これ」
それは『駒と恋するアヤメさん』というラノベの最新6巻とそれの限定サイン入りクリアファイルだった。クリアファイルに描かれている男性には背中に『龍王』と書いてあった。
「えーーーー!! なになになんで?! なんで『駒恋』てか、え? なんでアカネさんが私の推し『龍王ヒビキ』を知ってんの!? え? なんで!?」
「なんでって… ほんとあんた呑んだら記憶飛ぶのね。もう、外で酔い潰れるまで呑むのはよしなさいよ。私やあなたの旦那さんだっていつも迎えに来れるとは限らないんだから。子供小さいと置いて行くことも出来ないしね。つい、この間だって私が家まで送ったんだからね」
「へ?」
「てか結婚する前から年間3回は送ってるのよ。推しくらい知ってるわ。あなた、家の鍵のキーホルダーにしてるじゃない。もう住所も覚えちゃったくらいには送ってるんです!」
「えっえっえっ!?」
上野で呑んだ日、記憶がないけどまさか? と思ってケータイの履歴を見たらアカネに電話をかけた履歴があった。
「…まことに申し訳ありませんでした。あと、こちらの宝はなぜ?」
「それ、握手会と限定サイン入りクリアファイルを貰える新刊発売日がリーグ戦最終節と被ってたから時間的にも諦めてたでしょ?」
「うん!」
「だと思って私が行ってきたの。ついでに私も1巻は買ってみたわ。面白いし、これまさかと思ったけど私が好きだったラノベの挿し絵を描いてた人の次回作だったのね」
「そう! 神絵師の『ののろま』様! 『三山アオ』先生原作の最高のコンビ!」
「6巻はもう持ってるとは思うんだけど、それカバー裏にサイン入ってるから欲しいでしょ? 1冊は布教用にしてもいいし」
「有り難く頂戴致します。本当に、奇跡のような… 感謝です。師匠。一生ついて行きます」
「じゃあもう辞めるとか言わないでね!」
(あれ? アカネさんに言った覚えないんだけどな。酔い潰れた日に言ってたのか。お酒はもう控えよう…)
「はい… もう、言いません」
するとアカネはニッコリと笑って
「良かった。私の推しはね、あなたなの。推しに辞められたら悲しいわ」
メグミは真っ赤になった。
「わっ、わたっ… 私の推しだってアカネさんですぅ!」
「ヒビキでしょ」
「最推しはアカネさんだもん! 師匠のことが大好きだもん!」
「あらあら、子供みたいね。はいはい、ありがと。私も、大好きよ」
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