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第八局【運命の雀荘編】
10巡目◉ダイヤモンド
しおりを挟む井川ミサトが今日は『ひよこ』に打ちに来た。
「お、いらっしゃいませ新人王さん。最近来てなかったじゃない、珍しいね」と店長に話しかけられた。
「もう、新人王はやめてください。ここではただの井川美沙都です。今日はバイトが14時までだったので半端に時間出来ちゃったんです」
「あー、そういえば小宮山君の所でバイト始めたんだっけ? 大丈夫? 頑張ってね♪」
「ありがとうございます。割と楽しくやってますので大丈夫ですよ。みなさん良い人なので」
「それなら良かった」
そう言うと店長は卓におしぼりを用意して、電源を入れた。
『ゲーム、スタート』
卓の電子音声が早く始めろとばかりにスタートだと声を上げる。
「じゃ、とりあえずやろっか!」
「そうですね」
————
一方、麻雀部では野本ナツミの参入以来三人麻雀が流行っていた。
近頃では4人集まっても三人麻雀をする程のハマりっぷり。更にそこに白ポッチ(ジョーカーのような役割をする牌。白にハンドドリルで穴を堀り、穴を赤く塗ったものを使用)を入れるなどもして様々なルールを楽しみながら研究した。麻雀は公式の王道ルールと言えるものが存在せず、公式ルールブックなどはないし、もしそれを作った所で個人店がそれに従う必要はないため浸透しないのは分かりきっている。なので様々なルールがあり、それがまた麻雀を奥深いゲームにしている。
そして、麻雀部は研究することを常に意識していた。ただ麻雀するのではない。遊びながらも新たな考え方、発見されていない道。今あるものの欠点などを探ることをやめない。そういう研究をする会なので今まで触れていなかった三人麻雀には新しい発見がたくさんあり面白かったのだ。
「今日のルールは白ポッチ永遠制でやろう」とユウが提案した。
「永遠制?」
「そう、いつもの白ポッチはリーチして一発目のツモ番のみオールマイティになるルールでしょう? でもね、リーチ後はいつツモってきてもオールマイティに取れる永遠制というルールもあるのよ」
「麻雀ってほんとに色々なルールがあって研究に終わりが来ないね」
「ほんとね」
東家 野本ナツミ
南家 佐藤ユウ
西家 中條ヤチヨ
抜け番 三尾谷ヒロコ
東1局から大物手がヤチヨに入る。
「ツモ!」
ヤチヨにしては力強い発声
ヤチヨ手牌
②②②③③④④④567西西 西ツモ ドラ西
「リーヅモ西三暗刻ドラ3… 裏3!」
「なにそれ! いきなり三倍満?! まあでもサンマじゃあることか」
親被りをしたナツミはそれでも冷静に次局は仕掛けて白ドラ1の2000をユウから出アガる。
次の局はユウがヤチヨからメンホン赤の満貫をアガる。そして迎えた南1局。ナツミの配牌は揃っていた。
ナツミ手牌
②②⑧⑧22448899白発 ドラ②
配牌で既にチートイツドラ2のテンパイをしている。第一打でリーチを宣言出来る『ダブルリーチ』状態である。問題はどちらに受けるか。普通なら発単騎にすべきだ。なぜならこのルールでは白ポッチ永遠制を採用しているのだから白待ちにしてしまうと待ち牌の枚数がツモの時に限り1枚少ないということになる。発単騎にしたら発3枚+白ポッチの4枚がアガリ牌となるのだ。その1枚差は大きい。
と言うことくらい理解するのはわけないのがこの麻雀部という面々だということをナツミはもう分かっていた。
なのでそこでナツミの選んだ単騎は…
「リーチ」
打発
裏をかいての白単騎!
(リーチに少しの間があったわね。待ち選択かしら? ダブリーはリーチかダマかで悩むことは少ないし。テンパイ理解に時間がかかるような素人でもないし、そして発切りリーチということは単騎選択の可能性が高そうね… 悩ましいけど発よりもいい待ちかな? と思えそうな待ちとは? 中張牌のノベタンとかかな? なんにしても…)
「これだけは無い!」
打白ポッチ
「ロン!」
ナツミ手牌
②②⑧⑧22448899白 白ロン
「裏2で24000!」
「なっ?」
「セオリーを理解する人には絶対に安全に見えましたよね。そう読むだろうと信じてました」
この作戦は絶妙だった。リーチ判断の時の選択の『間』の取り方。相手の雀力や守備判断力。そして、ツモ損するルールという点も加味した出アガリの為の身を切る罠。
「こういう罠を思い付くこと、今までは無かったです。相手のレベルも要求されますし。本当にこの麻雀部に入って良かった。今までよりもっともっと麻雀が楽しいです!」
輝く天性の才能同士がぶつかり合ってお互いを磨いていた。それはさながらダイヤモンドがダイヤモンドでしか削れないような。最上の選手同士の手合わせでしか誕生しない高等戦術が水戸の片隅にある民家で人知れず生み出され続けていた。
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