上 下
140 / 297
第八局【運命の雀荘編】

9巡目◉アヤノの新天地

しおりを挟む

 麻雀『ファイブ』は区画整理で秋葉原に移転して、その際に名前も『虹色の牌』と変更。スタッフも多く変わってまるで違う雀荘になった。麻雀を打てる女子スタッフを多く採用した、今流行りの『ギャルじゃん』になったのだった。
 林アヤノはそこにいた。ファイブの移転時に半分くらいの人は辞めてしまったが彩乃はまだ働くことにしたのだ。
(ミサトちゃん… こっちにも来てくれるかなあ)
 井川ミサトはアヤノのファンだ。しかし上野ですら遠かったのにさらに乗り換えて秋葉原まで来てくれるだろうか、それだけが気掛かりだった。今日は土曜日だ。ミサトが来る可能性が高い日である。すると…

チン!

 エレベーターが開き、そこに乗っていたのはミサトだった。

「アヤノさーん! 新天地にも来ちゃいました!」
「いらっしゃいませ井川さん! ご来店ありがとうございますー」

(井川ミサト?)
(新人王の井川美沙都が来たの?)と周りの人達がざわついた。ギャル雀に来るような人は女流プロの追っかけも多いのでミサトのことは知られていた。むしろ、店員の方がそういった事に疎い場合も多く、アヤノもそのタイプで井川ミサトがプロ雀士だなどとは全く知らなかった。

(あー… お客さんには知られてるかあ。それはそうよね。タイトル獲得したんだから)

「井川さんってプロだったの?」どうやら客の話し声がアヤノにも聞こえたようだ。
「実はそうなんです、黙っててすいません」
「強いと思った… まあ、私の経験上、キレイな女性が男連れでもないのにフリー雀荘で遊んでたらそれは中国人女性か女流プロのどちらかなのよね。今回も当てはまっちゃったか」
「なんですかそれ」と言ってミサトは笑った。

 オーナーの五明さんも交えて楽しそうにミサトは打っていたが、結局その日を境にミサトの来店頻度は少なくなった。少し遠くなったのも原因のひとつだったが、それよりも気兼ねなく客打ち出来なくなったというのが大きな理由だったように思う。
しおりを挟む

処理中です...