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第七局【新人王編】

1巡目◉所作

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 メグミの助手として麻雀研究会に参加したことで僅かだが、ちゃんとカオリに給料が出た。確かに雑用として動き回ったがその分の給料が貰えるとは考えていなかった。
(キチンとしてるんだな…)と感心したし嬉しかった。金額どうこうではなくて。初めて、雀荘の打ち子以外のプロ雀士らしい仕事をしたなと思ったから。
 
————

 一方、その頃ミサトは東京まで行ってフリー雀荘巡りをしていた。
 ミサトはフリー雀荘というものは『ひよこ』しか経験が無かった。『ひよこ』のみんなは優しいし、アットホームな店なので麻雀部のみんなとやってる時と同じような感覚でいたが、リーグ戦に出て初めて痛感したことがあった。

 みんな早い——と

 知らなかった、自分は遅かったんだ。所作も私以外はみんな流れるような美しい所作。どこのタイミングで考えてるのかまるでわからない。
 これではダメだ。他の人に比べて動作が素人すぎる。
 パッと見で弱そうと思われたら8割のハンデを背負うくらい不利になるのが麻雀である。それは実践経験の浅いミサトの最大の欠点であった。
 
(東京で鍛えよう。きっと、東京の人達はパッパパッパと切る気がする)そう思い立ち、ミサトは休日に1人で上野へと向かった。


(所持金も多くないし、とりあえずここに入ってみよう)

「いらっしゃいませえ」

 ミサトが入った店には若くて背の高い女子メンバーが働いていた。
『麻雀ファイブ』御徒町店。

「代走お願いします」
「はい、代走入ります」
 代走とは、プレイヤーがなんらかの事情で(電話やトイレなど)席を立ちたい時に従業員に一時的な交代を頼む事である。

 その時、背の高い女子メンバーが代走に入ったのだがあまりにも所作が美しく、それこそ座った姿が脳天から指先まで凛としていて1枚の牌を切るというそれだけの動作にミサトは目を奪われた。
「はあぁ~…」自分とはまるで違うその所作の華麗さに思わず声が出る。

(あの子に牌の扱い方を教えて貰いたい)
 その女子メンバーの名札にミサトは目をやる。

『林彩乃』

 これが後に、お客様人気ナンバー1女子メンバーとしてアマチュアでありながら追っかけやファンを大勢動員しアイドルさながらの活躍をする女子メン『アヤノ』との出会いだった。
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