107 / 297
第六局【規格外の新人編】
13巡目◉贅沢な生き方
しおりを挟む「はー、食べた食べた。ごちそうさまでした」
紙ナプキンで口元の汚れを拭うとメグミは先程の話の続きをし始めた。
「でえ、井川さんの何が凄かったかって大三元の局ね」
「あれは凄かったですよね!」とマナミも言う。
「うん、結果的にアガれたし。凄いのだけど。何が凄かったかはその結果の部分じゃないの」
「っていうと?」
「あの時、私は井川さんの対面の手を見てたわ。対面にいたのは私の同期だからちょっとだけ興味があったの。そんなに仲良しでもないんだけどね」
「そう言えば対面を見てましたね」
「うん、でもね。途中で遠くから見てるマナミの瞳孔が開いたの。動きも止まるし。カオリちゃんなんか『ぽかん』と口開いてるしで。何か起きてるって思って。自販機に飲み物買いに行くふりして移動してみた。対局者の周囲をグルグルするのはマナー違反だからね、さりげなく移動したのよ。そしたら大三元じゃないの」
「ど、瞳孔??」かなり離れて見ていたつもりだったがメグミはどんな視力をしているのだ。いや、それよりも。なぜ外野の反応に気付いたりできるのか。プロはこわいな。と思うマナミたちだった。
「少なくとも、私の同期はそれで気付いて止めたっぽいわね。本来なら一が止まる手ではなかったから」
「そんな、ごめんねえミサトぉ」
「いいわよ、おかげで大三元になったし、結果オーライよ」
「凄いのは井川さんのその雰囲気。全然分からなかった。少しも役満の空気にはなってなかった。たいした手じゃないよ、みたいな顔で。あんな演技はなかなか難しいわ」
「あの時は自分は5200を張ってると思い込ませていたので」
「どういうこと?」
「あの白仕掛けはマックス16000ミニマム5200のつもりで鳴き始めた手でした。なので5200だと思い込んで打つことで役満を悟らせない空気作りを心掛けていたんです」
この子は本当に10代か?! あまりのことに成田メグミは言葉を失った。
「………天才… いや、それ以上…。気をつけてよ財前姉妹。あんたら、この子にきっと追いつかれるよ。こんな新人は見たことない」
「それは楽しみね」とカオリが言い
「ふふ、望むところよ!」とマナミが言う。それは言葉通り楽しみだし、望んでいるから。ミサトは強くなきゃ! それでこそ、ライバル!
「ミサトは私達の中でいっちばんストイックで凄いんだから」とメグミにミサトのことを自慢するかのように話すカオリ。カオリは仲間が褒められるのが一番嬉しいのだ。
「しかし、3ラスから始まるなんて思わなかったわよー。プロで活躍出来ますようにって鹿島神宮にもう一度祈願に行ったのにな!」
「えっ、ミサトが?!」
「神頼みとか興味無いって言ってたじゃん!」
「ん、まぁ…… そうなんだけど。なんとなくね」
「らしくないことするからー!」
「ハハハ! ほんとね!」
全員食べ終えて飲み物もこれ以上入らないくらいおかわりしたので4人はここらで茨城に帰ることにした。
「ねえ、アンタ達。がんばりなさいよ。せっかく自分が好きなことのプロ選手になれたんだから妥協しないでがんばるの。たいした成果を出してない私が言ってもって思っているでしょうけど。それはそれよ、私のことは放っておきなさい。アンタ達の話だから」
「はい!」
「いい返事! あのね、私達はなにか仕事をして生きていくしかないの。専業主婦だって家庭内の仕事をしてるには変わりないし。でも、ほぼ全員と言えるくらいの多くの人が働きたいと思って働いているわけじゃなくて妥協して働いてるの。でも、アナタ達は違う。夢のような未来が待っているわ。『好きな事をして生きて行く』って言う、贅沢な生き方が許されるの」
「贅沢な生き方…」
「そうよ。みーんな頑張って生きているの。やりたくないことをやったりしてね。でも、アナタ達は好きな事だけを頑張ればいい。そう言う特権を手に入れたのよ。麻雀好きが麻雀プロになるってそう言うことだから。私はプロになって幸せなことばかりよ。自分がヤダと思う仕事はしないしね。私からのアドバイスは『いつも麻雀を好きでいなさい』ってこと。それさえ出来るなら、幸せはあなた達から離れないわ」
そう言うと、メグミは自分にも言い聞かせるように
「好きな事を仕事にする。そんなに幸せな生き方は他にないんだから」
と言った。
それには、『だから、私も頑張ろう』というメグミ自身への鼓舞も含まれていた。
10
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
麻雀少女激闘戦記【牌神話】
彼方
キャラ文芸
この小説は読むことでもれなく『必ず』麻雀が強くなります。全人類誰もが必ずです。
麻雀を知っている、知らないは関係ありません。そのような事以前に必要となる『強さとは何か』『どうしたら強くなるか』を理解することができて、なおかつ読んでいくと強さが身に付くというストーリーなのです。
そういう力の魔法を込めて書いてあるので、麻雀が強くなりたい人はもちろんのこと、麻雀に興味がある人も、そうでない人も全員読むことをおすすめします。
大丈夫! 例外はありません。あなたも必ず強くなります! 私は麻雀界の魔術師。本物の魔法使いなので。
──そう、これは『あなた自身』が力を手に入れる物語。
彼方
◆◇◆◇
〜麻雀少女激闘戦記【牌神話】〜
──人はごく稀に神化するという。
ある仮説によれば全ての神々には元の姿があり、なんらかのきっかけで神へと姿を変えることがあるとか。
そして神は様々な所に現れる。それは麻雀界とて例外ではない。
この話は、麻雀の神とそれに深く関わった少女あるいは少年たちの熱い青春の物語。その大全である。
◆◇◆◇
もくじ
【メインストーリー】
一章 財前姉妹
二章 闇メン
三章 護りのミサト!
四章 スノウドロップ
伍章 ジンギ!
六章 あなた好みに切ってください
七章 コバヤシ君の日報
八章 カラスたちの戯れ
【サイドストーリー】
1.西団地のヒロイン
2.厳重注意!
3.約束
4.愛さん
5.相合傘
6.猫
7.木嶋秀樹の自慢話
【テーマソング】
戦場の足跡
【エンディングテーマ】
結果ロンhappy end
イラストはしろねこ。さん

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる