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第六局【規格外の新人編】
9巡目◉試される時
しおりを挟む財前姉妹が暫定1位2位という衝撃的なデビューを飾っている時、井川ミサトだけが絶不調だった。なんと、ミサトはラスラスラスと三連ラスを引いて身も心も打ちのめされていたのだ。
しかし、そんな時だからこそ真価が問われる。この今日の最終戦でどんな麻雀が打てるか。
3回ラスになろうとリーグ戦は始まったばかり、5節あるうちの1節目なので20回戦のうちの3回にしか過ぎない。ここは気持ちを切り替えて行くのが正解だが、初めてのリーグ戦でラスしか取れない状態から復活できるか。不調を抜け出せるか。マイナスイメージを持たないで戦えるのか。まだ学生のミサトにそんな精神力があるのか。
いまミサトの器が試される。
ひとつだけ幸運だったことがあるとすればミサトの卓も5人打ちなので三回戦終了後に一旦抜け番だということ。この抜け番でどこまで気力を持ち直せるか。
(くそぅ… 大好きな麻雀が…… いま、こんなにつらい。分かってる。楽しいばかりじゃないって。いま、私は、試されている…!)
(まさか、あのミサトが3ラス食らうなんてね)
(ミサトならきっと持ち直すわよ)
と、マナミとカオリは先に対局を終えて遠くから観戦していた。
(がんばれ!)
(がんばれ!)
ミサトの卓の五回戦。まだミサトにチャンスは来ていなかった。苦戦が続くミサト。
ミサト手牌 切り番
一一四六八⑤⑧⑨455白白中 ドラ⑤
ミサトはここから⑧を切った。ピンズはドラを活用した面子をひとつ持てばいい。それより役牌の重なりで打点を作る手順だ。
すると中が重なる。打⑨
(字牌切らなくて良かったわね)
(これでもだいぶ悪いけどね)とマナミとカオリが遠目に見守る。
一一四六八⑤455白白中中
ここに白が出る
「ポン」
打四
(四切りか…)
(役役トイトイドラドラを目指してるのかな)
(なるほど)
一一六八⑤455中中(白白白)
そこにツモ中ときた。
打六
ツモ発
打八
ツモ発!
打⑤
(ちょっとちょっとちょっと!)
一一455発発中中中(白白白)
ミサトは精神を研ぎ澄ましていた。
(落ち着け、悟られるな。私の手は白トイトイだ。そう自分自身が思い込んでいないと必ず仕草に出る。大三元はついでだ。白トイトイを作ろうとしている。そのついでにできたものだ。そう思い込め。5200だ。5200)
自力でついにミサトは3を引く。
(ありがたい。最後を鳴いてしまうと先に捨てた⑤から違和感を感じて三元牌が止められる可能性もあった。あとは、気配を消すだけね…)
しかしそこはさすがのプロリーグ。そう簡単には出てこない。発も一も誰も出さないまま流局寸前まで来てしまう。
(これが、ラストチャンス…! ツモりたい。お願い…… この手だけは… お願い… します!)
祈りを込めて手を伸ばすその姿にカオリもマナミも自分を重ねてもはや涙目になりながら応援していた。
(ミサトっ! ミサトっ! 発を引いてっ!)
(お願いっ!! 山に残っていてっ…)
「………………ツモ…」
一一345発発中中中(白白白) 発ツモ
「8000.16000」
(ミサトーーーーーー)
(ミサト良かったーーー)
カオリはもう泣いていた。ただこの一局。32000点を取った。それだけと言えばそれだけのことで。まだ、マイナスは消えてないし勝負の途中でしかないが。物凄く嬉しかった。
そこからミサトは調子を戻してダントツトップで五回戦を制する。
小さな牌という物の絵柄を合わせただけ。ただそれだけのことに少女達は涙を流していた。それは彼女達の人生の紛れもない青春だった。
井川ミサト
一回戦4
二回戦4
三回戦4
四回戦抜け番
五回戦1
①⓪⓪③トータルスコア△48.9P
暫定27位
それは全体人数38人の中で突き抜けて最下位かと思われた三回戦終了時から考えたら上出来な着地点であった。
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