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第伍局【少女たちの挑戦編】
5巡目◉勝利者は一人だけ
しおりを挟むその半荘は萬屋マサルのダントツだった。誰にも捲られることはないだろうという点差をつけてオーラスを迎えたマサル。そこに3着目につけている久本カズオがどう見ても2着すら捲らない安仕掛けで逃げを決めに来てた。
打点はあっても2000か3900。満貫を狙えば2着を捲れるが、ラス目が千点差以内のすぐ近くにいるのでリーチ棒を出さない方針として考えた結果『ラス落ち回避のみを優先』とさせて安仕掛けで3着キープ狙いとなったのだ。
その時のカズオは(安いのは分かるように二色晒したからこれなら萬屋が放銃してくるな)とほくそ笑んでいた。
それを見たマサルはむしろカズオを徹底マークした。絶対にあがらせない。そう誓った。そして、長引いた末にラス目が追いついた。
「リーチ!」
そこに対してマサルはカズオに現物の打⑦。
「ロン!」
見事なメンタンピンだった。これをツモって裏乗せれば2着という仕上げ。
「3900」「はい」
「……2卓ラストです。優勝C席会社失礼しました。着順CDAです!」
「2卓の皆様よりゲーム代いただきましたありがとうございます!」「「ありがとうございます!」」
「それではゲームお待ちの2名様お待たせ致しました」
待ち席で待っていた人を卓にご案内して立番に戻るとカズオがマサルに質問してきた。
「さっきのオーラス。僕の当たり牌持ってなかったんですか? 差し込みしてくると踏んだんですけど」
「持ってたさ。いつでも差せた。4種類以上持ってたからどれかは当たりだっただろうな」
「え? じゃ、じゃあなんで打ってくんないんですか」
「態度が悪いからだ」
「ええ?」
「久本の考えていることはお見通しなんだよ。安いの見せておけば差し込みしてくるだろって。ほくそ笑んでたんだろ。甘いんだよ。そんな奴に差し込んでみろ、久本は3着で負けてんのに勝った気分になるだろ。勘違いすんな勝利者は1人だ。せっかく3着という敗北を与えたのに勝った気になられちゃたまんねえよ。そういう『気持ち』の面でも格付けするためには差し込みはやっちゃいけねえんだ」
「じゃあどうしたら良かったんですか?」
「久本の態度次第だった。お願いします、差し込みして下さいという懇願するような露骨な待ちをしていれば(それなら本命の1枚くらい捨ててやろうか?)という気にもなる。だけどあの時、どうせ打ってトップなんだから危険牌たくさん試してくれるはずだとほくそ笑んでたろ。そんな所に従業員同士で何発も危険牌捨てて差して3着キープさせるなんてこと責任者がやれると思うか? 人間読みが浅すぎなんだよ久本は」
「う、スイマセン」
「ネット麻雀だって同じだぞ。相手は機械じゃない。画面の向こうに心がある人間がいるんだ。そこを感じて戦略を選ばないといけない。そういうのが久本は勉強不足に思う。もっと考えて打つんだな。さて、あとは片付けしたらほとんど暇だし今日はもう大丈夫だから半で上がっていいですよ。お疲れ様」
「え? ラッキー。ありがとうございます♪」
卓上の着順コントロールは相手の気持ちまで看破してる人にしか出来ない。そういう学びを得た久本だったが、同時に自己中な自分には一生無理なことでもあるなと自覚のあった久本なのだった。
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