71 / 297
第四局【プロ雀士編】
14巡目◉マサルの新人教育
しおりを挟むスグルの働く鶯谷の雀荘『富士』に新人(と言っても48歳。雀荘経験はあるが過去に2度迷惑かける形で辞めている)が入った。
新人の名は久本カズオ。彼はそれなりに仕事をやった。まるっきりダメというわけでもない。だが、50分に出勤する奴だった。
別にそれ自体は責めることではない。従業員規定には55分には着替えて挨拶を終えた状態にするようにとあるのでギリギリ間に合っている。
……が、問題は反対番との交代の時に起きた。
新人のカズオはその日21時30分スタートの卓に着いていた。そこに、遅番のスグルが出勤する。
「おはようございます!」
するとカズオはこれはしめたとばかりに「ここ行けますよ!」と交代を主張してくる。東1局一本場21000点持ちの北家だった。つまり既に4000オールを引かれている。
優しいスグルはそこを交代するが、それを直後に出勤して状況を把握したマサルがカズオを呼び出す。
「久本さんはなんでここスグルに打たせてんだ。しかも失点しておいて。久本さんのいつもの出勤時間は50分なんだから30分スタートのゲームは交代してもらう訳にいかねえとは思わないのか?」
「…え」
「え、じゃねえ。いいか、この恩をスグルに返すまでは必ず30分に出勤してきなさい。今後50分に出勤とかさせねえからな。したら遅刻として扱う。当然ですよね」
「そんな」
「あなたはそうやって自分にだけやたら甘くしてきたから集団で不和をもたらして職場を転々としてきたんだよ。全て久本さん自身の責任だ。あまちゃんなんだよ。おれをあんまり怒らせるなよ。いいか、自分はもう歳だから生き方は変われないとかは絶対に言うな! おれはあなたのために今言うぞ。人生はまだ続くしあなたはずっとあなたとして生きなければならない。それはわかるな?」
「はあ…」
「なら、今変われ! この瞬間にだ。このまま生きてもつまんねえぞ。嫌なやつだ、わがままなジジイだ、はやく消えてくれと世界中から生きてることを嫌がられ、心底嫌われながら生きることになるぞ。存在が消えても喜ぶ人こそいても悲しいと思う人なんか1人だって居ない人間になるぞ。そんなカスのような人生を送るために一生懸命働いて無意味のように時間を過ごすぞ。それでいいのか?」
「…」
「もう一度だけ、久本さん、あなたのために言う。今、変われ」
久本カズオは顔を赤くし、俯きながら小さく「はい」と言った。
麻雀を打ちながらスグルはマサルの説教を聞いていた。
(いい人だな。ここまでハッキリ教えてくれる人は中々いない。まして歳上のおっさんに。おれはマサルさんから学んで行こう)と、この時思ったのだった。
10
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

声劇・シチュボ台本たち
ぐーすか
大衆娯楽
フリー台本たちです。
声劇、ボイスドラマ、シチュエーションボイス、朗読などにご使用ください。
使用許可不要です。(配信、商用、収益化などの際は 作者表記:ぐーすか を添えてください。できれば一報いただけると助かります)
自作発言・過度な改変は許可していません。
麻雀少女激闘戦記【牌神話】
彼方
キャラ文芸
この小説は読むことでもれなく『必ず』麻雀が強くなります。全人類誰もが必ずです。
麻雀を知っている、知らないは関係ありません。そのような事以前に必要となる『強さとは何か』『どうしたら強くなるか』を理解することができて、なおかつ読んでいくと強さが身に付くというストーリーなのです。
そういう力の魔法を込めて書いてあるので、麻雀が強くなりたい人はもちろんのこと、麻雀に興味がある人も、そうでない人も全員読むことをおすすめします。
大丈夫! 例外はありません。あなたも必ず強くなります! 私は麻雀界の魔術師。本物の魔法使いなので。
──そう、これは『あなた自身』が力を手に入れる物語。
彼方
◆◇◆◇
〜麻雀少女激闘戦記【牌神話】〜
──人はごく稀に神化するという。
ある仮説によれば全ての神々には元の姿があり、なんらかのきっかけで神へと姿を変えることがあるとか。
そして神は様々な所に現れる。それは麻雀界とて例外ではない。
この話は、麻雀の神とそれに深く関わった少女あるいは少年たちの熱い青春の物語。その大全である。
◆◇◆◇
もくじ
【メインストーリー】
一章 財前姉妹
二章 闇メン
三章 護りのミサト!
四章 スノウドロップ
伍章 ジンギ!
六章 あなた好みに切ってください
七章 コバヤシ君の日報
八章 カラスたちの戯れ
【サイドストーリー】
1.西団地のヒロイン
2.厳重注意!
3.約束
4.愛さん
5.相合傘
6.猫
7.木嶋秀樹の自慢話
【テーマソング】
戦場の足跡
【エンディングテーマ】
結果ロンhappy end
イラストはしろねこ。さん
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる