上 下
48 / 297
第三局【付喪神編】

9巡目◉芸術家

しおりを挟む

 家に帰るとマナミはすぐに風呂に向かった。気持ちは分かる。私達はもう麻雀に集中し過ぎていて冷や汗やら脇汗やら手汗でびっしょりだった。早く流したい。
 特に背中が気持ち悪い。こんなに濡れるものか? 私は運動をしたわけでもないのにここまでの汗をかいたのは初めてだった。

 風呂場からシャワーの音とマナミの鼻歌が聴こえてくる。優勝してごきげんなのだろう。歌ってるのは意外にもクラシック曲。『芸術家の生涯』だ。
 たしかに、マナミの麻雀は芸術性の高いものだった。特に今日の最後のアガリなど芸術以外のなにものでもない。
(そういうのを心掛けてるのかな。だとしたら常時打点が高いのもうなずける)
 カオリはベッドの上に着替えとタオルを用意してマナミが上がるのを待ちながら今日起きた不思議なことを思い出していた。そして、そんな力を持ってしても優勝を逃したということがたまらなく悔しかった。けど、悔しいからって落ち込んでるだけの弱い女ではないのが財前カオリである。
(そうだ、今日womanが言ってたこと教えてもらう前にひとつずつ自分で考えてみよう。456のオーラス1巡目仕掛けに対して113から1を捨てなさいっていうのから始まったのよね。あれはどういうことなのかな)
「おまたせ~! カオリも入るでしょ?」マナミが機嫌良さそうに出てきた。
「うん、マナミ」
「ん?」
「……今日はおめでと!」
「ありがとう!」
 そう言うとマナミは自室(という名のロフト)に入りカオリは風呂場へと向かった。
 
しおりを挟む

処理中です...