4 / 6
西団地いちの漫画オタク
4話◉倉庫
しおりを挟む手を繋いで帰った日に僕らを目撃していたはずのクラスメイト達はその事を茶化したりはしなかった。
どうやら僕の気持ちも佐藤さんの気持ちもみんなにはお見通しだったらしい。でも、1人くらい茶化しそうなものだと思うけどコイツら大人だなと思って感謝した。
けど、当の本人たちはまだまだウブもいいとこなのであれ以来まだ手を繋いでない。一度繋いだなら大丈夫だろ? と言うかも知れないけど恥ずかしいんだ。何がと言われても恥ずかしい。中学生なんてそんなもんだ。少なくとも僕達はそんな関係だった。
少しだけ変わったのは。あれからというもの、行きも一緒に並んで歩くようになった。しばらくはそれだけだった。
————
ある日の帰り道。「いいもの見せてあげようか」と言って佐藤さんは僕を先導する。そこは団地の倉庫だった。
『佐藤』と書かれた表札のあるその倉庫を彼女が開ける。
「これを見せたくて今日は倉庫の鍵を持ってきたの」
ギイイイ…… と開くとその扉の先には無数の漫画本が積まれていた。カチッ! と白熱電球のスイッチを入れて佐藤さんは扉を閉めた。
「すごいでしょ」
「驚いた。こんな倉庫の使い方してる家庭あるの? 本しか無いじゃないか」
倉庫内というのは普通なら一輪車を入れたりホッピングを入れたりローラースケートやスケボーやサーフボードなど大きなサイズの遊び道具が詰め込んであるものだが佐藤家の倉庫にはそれらは一切なくて本だけが積まれていた。
「倉庫というより書庫だな」
「そういえばそうかもね。でも、これでもかなり減ったのよ。本当はこの倍はあったんだから。だからここに残ったのはどうしても処分したくない名作揃い。どれも面白い作品ばかりだよ」
右奥の一角だけおそらく手作りの棚がありそこはとくに綺麗に整頓されていた。棚には【SUGURU】と名前が掘ってあるのでお父さんかお兄さんの作ったものなんだろう。
「手作りの本棚…… 麻雀漫画がたくさんあるな」
「そこはお兄ちゃんの漫画を置くとこなの。お兄ちゃんが麻雀大好きだからね。その影響で私もハマってて。これとかおススメよ」
「ちょっとだけ読んでいい?」
「どーぞどーぞ」
………
……
…
夢中で読む僕。
彼女も読んでいた。かと思ったがよく見たらチラチラと頻繁に僕を見てた。
「ねえ、やっぱり構って。漫画は持って帰っていいから」
「佐藤さんて谷川が好きなんじゃないの?」
「ドキー! なんで知ってんの?」
「噂で誰かから聞いた」
「谷川くんねー。うん、ちょっとだけね。でも、谷川くんは2番目かな。仕方ないじゃん。1人だけ好きなんてこと難しくない?」
「素直なんだね。じゃあ僕が?」
「1番好きよ。当然じゃない」そう言って頬にキスをしてきた。
「大好き」
夢だろうか。
「え… 聞き間違いかな、もう一度いい?」
すると佐藤さんは今度は唇にキスをして
「大好きって言ったの!」と怒るように頬を膨らませたあと少しニコッとして悪戯っぽく抱きついてきた。
「なんで? 僕でいいの? え? どこがそんな好きなの?」
本当に分からない。なんで僕なんだろう。
「女の子みたいな顔してるのに、誰よりも男で、強いの。知ってるから」
そう言うと佐藤さんはまた僕の唇にそっとキスして。少し昔のことを話し始めた。
「中学1年生の夏休み。東の三角公園のお祭りにクラスのみんなが集まった時あったでしょ。ソラちゃんが太鼓叩くから応援しようって」
「ああ、あったね。カッコよかったよね首藤ソラ」
僕たちは1年生の時からずっとクラスが同じだった。ちなみに首藤ソラは1年生の時に同じクラスで班も同じだったみんなに人気のある元気な女の子である。
「その日、あなたを好きになった」
「?」
「あの日女の子がチンピラみたいな下品な3人組に絡まれて、腕を引っ張られてて、すごく困ってるのを見かけたわ。かわいそうだなと思ってたら、そこにあなたが現れて…… チンピラの顔にお祭りの水風船を『パン!』とぶつけて。
『おい。やめろ』
って言ったの。私見てた。いつも声の小さいあなたとはまるで別人のような、大きく、怒りのこもった声だった」
「あー! あれね。見てたんだ。カッコ悪かったでしょ、すぐにボコボコにされて壁に頭ぶつけて血ぃ出してたし」
「全然カッコ悪くない! 高校生みたいなおっきな男たちに恫喝されても全然平気な顔して、女の子の方見て(さっさと逃げてくれ)ってシッシってやってるのなんて…… 勇敢で感動したの。腕力で勝てるわけない相手に…。だからすぐ警備員さん呼ばなきゃって思って」
「ああ! だから警備員さんが来るの早かったんだ。助けてくれてありがとう」
人助けはするもんだな。とその時思った。まあ、あの時は単純にイラッときて動いただけだったし、逃げてもらえればそのあとは僕も逃げちまえばいいやで、勝つわけないケンカを挑んだが、あいつらすげえ乱暴だった。岩壁に頭打ってイテーなあってイライラしてたけど。見てる人もいるんだな。
「あの時のアナタはまるで漫画の主人公だった。私はちょっと漫画の読みすぎなのかな。その時からあなたは私の憧れのヒーローになったの」
「漫画は間違いなく読みすぎではある」
そう言って2人で笑っていたら人の足音が近づいてきたのでヤバっと思って静かにした。
「もう遅いし帰ろっか」
「…そうね」
倉庫の周りに人の気配が無くなるのを待って、僕達は外へ出た。
今思えば、この時あと少し一緒にいれば良かった。だって僕達の関係にはもう時間が少ししかないなんて、そんな事はまだ知らなかったから…。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
麻雀少女青春奇譚【財前姉妹】~牌戦士シリーズepisode1~
彼方
大衆娯楽
麻雀好きな女子高生が様々な仲間やライバルに出会い切磋琢磨していく様を彼方流本格戦術を交えて表現した新感覚の麻雀小説。
全ての雀士の実力向上を確約する異端の戦術が満載!
笑いあり涙ありの麻雀少女ファンタスティック青春ストーリー!!
第一局【女子高生雀士集結編】
第二局【カオリ覚醒編】
第三局【付喪神編】
第四局【プロ雀士編】
第伍局【少女たちの挑戦編】
第六局【規格外の新人編】
第七局【新人王編】
第八局【運命の雀荘編】
第九局【新世代編】
第十局【激闘!女流リーグ編】
第十一局【麻雀教室編】
第十二局【雀聖位編】
第十三局【支援編】
第十四局【師団名人戦編①】
第十伍局【師団名人戦編②】
第十六局【決勝戦編】
約束~牌戦士シリーズ短編~
彼方
恋愛
これは田舎の駅前雀荘で伝説化するほどの戦績を上げた男の、麻雀とは関係のないほんの1日を切り取ったもの。
よーく読んでみると牌戦士シリーズ2と繋がっています。
作画:野村カスケ
ししくらちひろの麻雀辞典【アイスありありガム多め!】
彼方
大衆娯楽
ロン!そんなションパイの字を切るのは甘いんじゃないの?
ひーん、だってアンパイもうなくて字かスジくらいしか…これでも重なるまで待って捨てたのになあ。
字よりは中スジのほうがいいんじゃない?あ、赤いのか。なるほど積んでる。
もうトンじゃうよお。
ロン!タンヤオサンショクイーペードラドラ!ラストい!!
ヴァアアン!!残り2000点しかなかったのにやりすぎだよおおおお!!!
このような会話は麻雀業界では日常的にされるものです。しかしながらここでいくつの専門用語が使われたでしょうか?カタカナは全て専門用語ですね。
麻雀の専門用語を知るには場数を踏まないと難しいので麻雀は専門知識の有無により初心者か否かを見抜けてしまいます。
昨今の麻雀配信をしている方たちも専門用語の使い方ひとつで精通している人かどうか簡単にわかりますね。まあ、使わないで済む専門用語は使わないのが一番優しいわけですが。
わかったつもりで分からない事があるのが専門用語の難しい所。ここではちひろちゃん通称『肉ちゃん』が専門用語を教えてもらいながら成長していき、それを読者も学んでいけるような作りになります。
かつて、見た事のない麻雀専門用語特化小説の始まりです!
登場人物紹介
肉倉千紘
ししくらちひろ
本編の主人公
通称『肉』
ネガ子
ねがこはねがこ
麻雀勉強中
まき
優しくてかわいい30代女性。いつも爪がキレイ。
サキちゃん
まだ無名の麻雀打ち。生物学的には男性。その実力は?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
麻雀少女激闘戦記【牌神話】
彼方
キャラ文芸
この小説は読むことでもれなく『必ず』麻雀が強くなります。全人類誰もが必ずです。
麻雀を知っている、知らないは関係ありません。そのような事以前に必要となる『強さとは何か』『どうしたら強くなるか』を理解することができて、なおかつ読んでいくと強さが身に付くというストーリーなのです。
そういう力の魔法を込めて書いてあるので、麻雀が強くなりたい人はもちろんのこと、麻雀に興味がある人も、そうでない人も全員読むことをおすすめします。
大丈夫! 例外はありません。あなたも必ず強くなります! 私は麻雀界の魔術師。本物の魔法使いなので。
──そう、これは『あなた自身』が力を手に入れる物語。
彼方
◆◇◆◇
〜麻雀少女激闘戦記【牌神話】〜
──人はごく稀に神化するという。
ある仮説によれば全ての神々には元の姿があり、なんらかのきっかけで神へと姿を変えることがあるとか。
そして神は様々な所に現れる。それは麻雀界とて例外ではない。
この話は、麻雀の神とそれに深く関わった少女あるいは少年たちの熱い青春の物語。その大全である。
◆◇◆◇
もくじ
【メインストーリー】
一章 財前姉妹
二章 闇メン
三章 護りのミサト!
四章 スノウドロップ
伍章 ジンギ!
六章 あなた好みに切ってください
七章 コバヤシ君の日報
八章 カラスたちの戯れ
【サイドストーリー】
1.西団地のヒロイン
2.厳重注意!
3.約束
4.愛さん
5.相合傘
6.猫
7.木嶋秀樹の自慢話
【テーマソング】
戦場の足跡
【エンディングテーマ】
結果ロンhappy end
イラストはしろねこ。さん
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる