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第一章【史上最強雀士コテツ編】

八打目◉あなたとの合作

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「コテツくんとずいぶん仲良くなったみたいだね」とマネージャーのマサルが言う。
「そうですね。彼の麻雀は面白いです。聞く話聞く話全部が奇想天外な発想で… 例えば、僕らは麻雀は人生の縮図だと思ってましたよね」
「ああ、そういう風に感じることはよくあるな」
「でも彼には人生の方が麻雀の縮図なんです。そのくらい大きな麻雀観を持っていて思考の複雑さや緻密さだけでなく大きなものの考えかたまで聞いたことない次元の麻雀を彼はやります。面白いんです」
「ほう」
「自分の麻雀は遊園地のアトラクションで言えば高い所に真っ直ぐに上がって落ちるだけのやつみたいな感じだったかもしれません。でも、彼の麻雀はカリブ海の海賊やスプラッシューマウンテンでした」
「なるほど~。アキラもなかなか面白いことを言うじゃないか。昨日の休みに彼女とランドでも行ってきたのか?」
「あ、バレましたか。そういえばお土産ありますよ」

カランコロン

 お土産のクッキーを食べていたら牛鈴カウベルが鳴る。来店だ。
「いらっしゃいませ!」
 入ってきたのは見た事がある人物だった。現代麻雀の今月号の表紙になっている現女王の白山シオリだった。

「待ち合わせまで時間があって。1回だけ打ちたいんだけど。早く終われば2回出来るわ」

「わかりました! と言ってもまだ店を開けたばっかりでお客さんも来てないしこの時間は2人体制だから… ちょっとだけ待ってください。あ、お飲み物は何に致しますか? フリードリンクとなります」

「じゃあ待たせてもらうわ。アイスティーをガムシロ入りで下さい」

「かしこまりました。お待ち席ご新規さんまでアイスティーガム入りお願いします!」

「当店は初めてですよね。ルールの説明をさせていただきます」


カランコロン

 一通りのルール説明が終わったタイミングでちょうどコテツが現れた。アキラがあらかじめ呼び出しておいたのだ。

「うお! なんだこの美人は! …いや、なんか見たことあるな…… あーーーー!! 女王様じゃん!」

「うるさいよお前は」とアキラとマサルに同時に言われた。

 シオリはニコリと笑みを見せて。「さあ、やりましょうか」と卓に着いた。

「でも意外だなぁ、白山プロってもっとなんていうか仕事中しか麻雀しないイメージだった」
「失礼だぞコテツ!」とアキラ
「いいの、よくわかるわね。どうしてそう思うの? もっと聞きたいわ」
「あ、当たりでした? 打牌選択がね。とんでもなく冷静だなってイメージがあるんです。麻雀に対する感情が冷えてるというか。正しい選択には違いないんだけどそれをノータイムで選ぶことが普通なら無理なんじゃないかな。それが強味になっての女王だとも思っていたし。だから仕事として割り切ってる打ち手なんだとばかり思ってて。なんかすいません気持ち悪いですよね見知らぬ人間が自分の心理までこんな熱心に研究してるとか。
 だからこんなのは通すって確信しているし」
 と言いドラの発を切る。シオリはリャンメンチーを入れていたがシオリの麻雀ならここはかわしの手を作る、2着よしでオーラスをラス落ちしない位置で迎えるための仕掛けでありリャンメンチーから入ってドラシャボや単騎とかで強引に勝負をかけるような打ち手ではない。現状維持のための軽くて良形の仕掛けにほぼ間違いなかった。

 シオリは驚きのあまり口がポカンと開いていた。考察が当たり過ぎている。

(何者だろうかこの青年は。私より私の麻雀を見ている)

「ツモ… 300.500」

「そうなの。私には麻雀に情熱はないの。ここだって待ち合わせ場所から近いから来ただけ。よく道に迷う方だし遅刻はしたくないけどタクシーはお金がもったいないから早めに来たら予想以上に早く着いただけなの。でも……」

「ツモ3000.6000」

シオリ手牌
二三四四四③③③南南白白白 南ツモ

「こういうとき最近はたまに麻雀楽しいって思う事もあるわ」

 きっちり上手に上を捲るアガリだった。シオリのトップでゲーム終了。

「あなたの言ったこと憶えておきます。お名前聞いていいかしら」
「南上コテツです。みなみの上って書いてナンジョウ」
「南。じゃあさっきのツモ白ダブ南三暗刻はあなたと私の合作ね! また来るわ! 南上くんありがとう」


 シオリは席を立つと足早に階段を降りて行った。

「何でオマエばっかりモテるんだよ~」とアキラが悔しそうにする。アキラはプロに詳しいタイプだった。ミーハーな所のあるアキラからしたら羨ましくてしょうがなかった。
「彼女の麻雀をよく分析してるからだろうな。なんにしてもコテツくんのおかげで楽しんでもらえたし、また来るって言ってたぞ! 良かった良かった」とマサルが言う。

 コテツは2人の話は耳に入らず、南上くんありがとう! の軽やかな明るい声が何回も脳内再生されていた。

(はっ! また来る! また来るって言った!)

「マネージャー、おれ今日からここで働きます。働かせてください」

 こうして富士2号店に新たなメンバーとしてコテツが加わった。
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