コバヤシ君の日報

彼方

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第二部

第十伍報◉覚悟を読む

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 蘭とヒロトの企画した麻雀教室の『テスト会』は思った以上にうまくいって第2回第3回と開催されることになっていた。
 テストがあると思うことで今まで以上に(覚えておかなければ)という意識が生まれ、それにより生徒たちはきちんと覚えようとメモ書きするようになった。これまでのような同じ事を何度も教えるということにならなくなったことに蘭とヒロトは驚いた。


◆◇◆◇

 一方、渋谷2号店も若者相手に青澤と小林が麻雀教室をやっていたが、青澤の麻雀は奥が深すぎて小林が解説しないと理解できない内容となっており小林1人で大変だった。
 その日の日報が青澤の読みの高度さを物語っていた。
 
────

日付
3.21

店舗名
渋谷2号店

担当責任者
小林

フリー売上
129300

セット売上
44900

フードメニュー売上
2590

その他売上
0

計176790

備考欄・報告事項

 こんにちは、小林です。昨日は実践形式で麻雀教室を行うこととなり、お客さんの中でもかなり上手い2人を入れて青澤SVに見てもらいました。これはその時の思考回路です。

東1局

東家 小林賢
南家 小宮山源さん
西家 海藤充悟
北家 佐々木剛太プロ

立会人 青澤SV

 この日は1号店から海藤君をレンタルしてました。私は海藤君とメンバーツー入りしてます。

 親の私の配牌は悪くなく、とりあえず第1打で発を捨てるとそれを見た南家がいきなりポン! 

 その躊躇ないポンに私は違和感がありました。しかし、嫌な予感を感じているにしても手を進めたいので2巡目にすんなり手が進み、打中。
 正直言ってこの中切りはかなり本気の勝負です。というのも南家の小宮山さんというお客さんはバランスのとれた打ち手です。攻守において優れている小宮山さん。彼が東1局0本場から親の第1打を即ポンなんてするパターンはほぼないはずなんです。
 満貫以上のニオイがプンプンします。いや、それどころではない可能性も。
 なので、意を決して中を捨てるも無事通過。
 すると同巡に西家の海藤君が打白とするではないですか。瞬時に私は思いました。
(あっ、これは鳴かれる! 中が通った以上白はほぼ鳴かれてしまう。今三元牌を捨てるなら中にしてくれたら助かったのに。発、白と晒されてはもうリーチが打てない状況になってしまう。せっかく親で先制リーチを打てそうな手が来ていたのにやりにくい場にされたな)と。

 しかしポンの声は入りませんでした。そこで私はホッとしてしまったんですね。でも、そうじゃなかった。
 私のその時の顔を見た青澤SVはその時の全てを見抜いていましたね。

「何をホッとした顔をしてるんだ。神経を尖らせろ」と言われました。この麻雀教室は立会人の青澤SVには思ったことを気付いたタイミングで言ってもらうことにしています。

(だって三元牌通ったから助かったじゃないですか)と私はコソッと青澤SVと会話しましたが、どうやら私の思考回路は浅かったようです。

「わかってない。サンゴだって18歳から働いてる優秀な従業員だぞ。あいつが白をなんとなくで切ると思うのか?」

 そうでした。私たち従業員は従業員制約がある。オーラスにラスからラスのアガリとか、地獄単騎リーチとか、もろ引っ掛けリーチとかだ。いまのアクアリウムにはそういう制約はないにしろ私も海藤君もそういう時代を生きてきたメンバーだ。つまり、大三元のパオをさせてはならないし2種類の三元牌をポンしてる人がいて大三元がまだ否定されてない場合はリーチ不可という制約が身に染み付いているはずだ。要するに、ここでの白切りには私が切った中以上の『大勝負!』という覚悟があるはずなのだ。

 という思考に至るまでには少し時間がかかっちゃいましたね。
 つまりは──私の放銃です。

「ロン」

 海藤君の倒したその手は跳満でした。

海藤手牌
アカ六六七七③③アカ⑤⑦⑦66 伍ロン ドラ6

  タンヤオチートイ赤赤ドラドラ

「ヘタクソ。剛太はきちんと降りてたぞ」
「すいません。ギリギリで気付いたんですけど間に合いませんでした。こう、慣性の法則で切っちゃってましたね」
「言い訳はいらん。なぜ押してはいけないか、解説はいらないな?」
「ええ、僕にはね。でも今回は麻雀教室なんで、観戦者のみんなにわかるよう説明しましょう」

 覚悟を読みとり相手の勝負手に気付く。それがたった1枚の白切りからわかる。という話をしたら麻雀教室はおおいに盛り上がりました。今日の教室も大成功です。


────

オマケのクイズ

 海藤君ですが、青澤SVには「サンゴ」と呼ばれています。それはなぜでしょう!

 ヒントは上野店の狭山学プロ。彼はプロ師団では『クク』のあだ名で通っています。これは海藤君と少し共通していますね。
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