40 / 55
第二部
第十一報◉ホームレス山口
しおりを挟む山口幹雄はアクア上野店の客だった。と言っても月に一度しか来店しないが。ただ、月に一度は必ず行って半荘4回くらい0.3レートで遊んだ。
山口は上野公園にダンボールを敷いて暮らしており、肌は黒く焼けて髪は汚く伸びて髭はもみあげとくっついていた。
しかし、そのままで来店したりは当然しない。雀荘に遊びに行く時は先にサウナに行くし髭はある程度整えて、髪を切りはしないがゴムで縛った。
服装も外出用(いつも外にはいるが)の自分なりに一番上等なものにして、同卓者に不快感を与えないよう配慮してから行く。
ただ、月に一度小ぎれいにするのは雀荘に行くのが目的ではなく。本当の目的は友人と会うことにあった。
山口には毎月決まって会いに来てくれる友人がいた。25日の給料を受け取るとその友人は近日中に必ず山口の所へ手土産を片手に訪れた。彼に会う時に汚いままではいたくないという気持ちから毎月一度はきれいにする。そのついでにせっかくだから麻雀をやろうということで近場の低レート店であるアクア上野店に訪れるのだ。
しかし、
「おい、ぐっさん。知ってるか? 一昨日だかに大火事があって『24』は全焼して閉店だってよ」
「ええ!? 24が閉店?!」
今回は困ったことにいつも利用している『TOKYO24』というサウナが火事で閉店してしまった。
幸い、火事による死者や重体の人は出なかったようだが、あまりにも大きな火事となってしまい建物は見る影もない姿となったらしい。
こうなってしまった以上、このサウナの閉店はやむを得なかった。
(そんな……。あそこは安い上にサービス豊富で気に入っていたのに。残念だ。……たしか、上野は2号店でTOKYO24はどっかにもうひとつ店舗があるってライターに書いてあったよな)
「サウナのライターどこだ。TOKYO24のライター……。タマコ見てないか?」
タマコというのは山口が飼っている猫である。
「にゃあ」
ライターは猫の足元にあった。
「おお! ありがとうタマコ。それだよそれ。どれどれ、あー渋谷か。(少し遠いけど銀座線でならこの時間は空いてるし、乗り換えもないな)よし、行ってみるか。タマコ、留守番よろしくな」
山口は久しぶりに電車に乗って遠出してみることにした。
────
車内は空いていたが山口は最後尾車両の隅っこに立っていた。まだ自分の身体が汚いから。多少でもマシにしてからと考えて公園の水道で水を出してある程度きれいにしたつもりだが、その程度で大丈夫なわけがないことはわかってた。
「ママー。なんか変な臭いする」
「シー! そういうこと言わないの!」
子供は素直だ。申し訳なさそうに母親は少し山口の方を見て頭を下げたが、どう考えても山口が悪い。
山口も少し頭を下げて別車両に移動した。2両目は2人しか乗っておらず、ここならいいな。と、山口はホッとした。それでも山口は車両の隅に立つようにして、なるべく迷惑にならないよう心がけた。(乗ってこないでくれ。近くに乗るな)と電車が駅に着く度に祈ってた。たった30分程度の移動が永遠にも感じられた。
そして、
「ふぅー。着いたー!」
山口は渋谷に到着した。
11
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
麻雀少女激闘戦記【牌神話】
彼方
キャラ文芸
この小説は読むことでもれなく『必ず』麻雀が強くなります。全人類誰もが必ずです。
麻雀を知っている、知らないは関係ありません。そのような事以前に必要となる『強さとは何か』『どうしたら強くなるか』を理解することができて、なおかつ読んでいくと強さが身に付くというストーリーなのです。
そういう力の魔法を込めて書いてあるので、麻雀が強くなりたい人はもちろんのこと、麻雀に興味がある人も、そうでない人も全員読むことをおすすめします。
大丈夫! 例外はありません。あなたも必ず強くなります! 私は麻雀界の魔術師。本物の魔法使いなので。
──そう、これは『あなた自身』が力を手に入れる物語。
彼方
◆◇◆◇
〜麻雀少女激闘戦記【牌神話】〜
──人はごく稀に神化するという。
ある仮説によれば全ての神々には元の姿があり、なんらかのきっかけで神へと姿を変えることがあるとか。
そして神は様々な所に現れる。それは麻雀界とて例外ではない。
この話は、麻雀の神とそれに深く関わった少女あるいは少年たちの熱い青春の物語。その大全である。
◆◇◆◇
もくじ
【メインストーリー】
一章 財前姉妹
二章 闇メン
三章 護りのミサト!
四章 スノウドロップ
伍章 ジンギ!
六章 あなた好みに切ってください
七章 コバヤシ君の日報
八章 カラスたちの戯れ
【サイドストーリー】
1.西団地のヒロイン
2.厳重注意!
3.約束
4.愛さん
5.相合傘
6.猫
7.木嶋秀樹の自慢話
【テーマソング】
戦場の足跡
【エンディングテーマ】
結果ロンhappy end
イラストはしろねこ。さん
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
私と継母の極めて平凡な日常
当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。
残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。
「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」
そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。
そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。
※他のサイトにも重複投稿しています。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる