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第二部
第八報◉本気でやれる相手
しおりを挟む月曜日
「おはようございます」
「おーす」
小林が出勤すると既に青澤が来ていた。青澤は遅刻をしない。そういう所は真面目であった。まあ、社会人として当たり前のことではあるのだが、ここアクアリウムにとってはかなり珍しい存在であった。(アクアリウムの連中はなぜか基本的に時間にルーズである。それはどの店舗でも責任者であろうともなぜか同じ、早めの出勤が普通とされる麻雀業界ではかなり珍しいこと)
「今日で9連勤か。お疲れ、明日から3連休していいからな」
「ほんと、誰かさんのおかげで疲労困憊ですよ。それで? 昨日は忙しくて話を聞くどころじゃなかったけど、例の佐々木剛太さんとは仲直りできたんですか?」
「ああ、アイツな。応援の甲斐あって優勝したからさ、話しかけやすかったよ。負けたらすぐキレるからな」
「へえ! すごい、連覇じゃないですか。で、連絡先は?」
約束を守ったか? という確認で小林は証拠の提出を求めた。
「千葉県の個人雀荘で働いているんだってさ」
「ふうん。で、連絡先の交換は」
「いや、アイツも勝利者インタビューとか色々あったからな……」と言って青澤は小林から目を逸らす。
「あー! 腑抜け! 青澤腑抜けSV! 約束はどうした約束は!」
そう言うと小林は『佐々木剛太麻雀』で検索して千葉県のどの雀荘で働いているかを特定した。
「えーとなになに、千葉県津田沼リーチ麻雀『陽』佐々木剛太プロ常勤の店、ここだ。もちろん行ってミッションクリアしてきますよね?」
「えっ、津田沼までわざわざ行くのか?」
「トーゼンですよ! 貴重な休みを譲ったんだから約束は守ってくれないと。なあに7時間半も歩けば着きますよ」
「歩くのか!?」
「あ、自転車使います? そしたら2時間40分くらいだと思いますが」
「いや、普通に総武線使わせてくれ。……俺が悪かったから」
「では、次の休みを使って必ず津田沼『陽』に行って彼と連絡先を交換し、また以前のように剛太さんと仲良しになってきて下さい。これはおれとSVとの約束です」
「おう……」
◆◇◆◇
「てなわけだからよ。剛太、お前が連絡先を交換してくれないと困るんだ。まったく変な部下を持っちまったよ。でも、いい奴なんだけどな」
「何だそりゃ! 小林賢ってそんな面白い男だったのか。いや、小林賢は俺も知ってるよ。実技試験の時は俺が採点したからな。減点箇所無しの満点だったが、面白い奴なんだな。OK、わかったわかった連絡先な」
そう言うと佐々木剛太は青澤と連絡先を交換した。
「お互い、つまらんことでケンカしたもんだ。これからは何切るの議論をするのはやめにするか?」
「いや、議論はしてもいいだろ。ただ、そんなことでケンカ別れになるのはよそう」
「できるか? お互いキレやすいしなあ」
「キレてもいいさ。ただ、次の日まで持ち越すのはやめようぜ」
「ま、数少ない理解者だからな」
「お互いにな」
そう言うと2人は握手を交わした。
「剛太」
「ん?」
「連覇おめでとう」
「ああ、ありがとう。まあ、相手が弱かったよ。おまえの方がはるかに強い」
「はは、そりゃそうだろ。ま、安心しろ。いずれうちの小林がおまえの玉座を奪いに行くからよ。いま、俺が鍛えてるからな。お前に退屈はさせない」
「ふっ、それは楽しみだ。……よし、そしたら久しぶりにやろうか。今オーラスでラス半2軒だ。本気でやれる相手がいなくて退屈してたんだよ。青澤。衰えてたりしたら承知しないぜ」
麻雀とは本気でやるためには強い相手がいなくてはならないゲームである。最上級の選択もそれを気付く相手がいないのでは無意味。本気の麻雀を受けれる受け手がいないことには本気を出すこと自体がムダやロスとなる。
いわば野球のピッチャーとキャッチャーの関係。剛速球を投げるにはそれを受けれるキャッチャーが必要ということだ。久しぶりに本気が出せると言って剛太と青澤は喜んで卓に着き、その日は一晩中お互いの本気をぶつけ合ったのだった。
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