コバヤシ君の日報

第一部

第二十七報◉デビュー戦

　リーグ戦第一節

　小林は絶好調だった。もちろん実力があるから勝つというのはあるが。例えば1回戦のこの手。

小林手牌
一一一九九②③③１３６６北

　安全性の高い北をキープしての進行だ。
　そこにツモ二と引き即座に採用。この反応速度が素晴らしい。ノータイム採用。それはつまり引く前からこの手の最終形に
一一一二三九九①②③１２３
をイメージしていたということ。しかしこの局、次の変化はツモ③だった。

変化1
一一一二九九②③③１３６６　③ツモ

　こうなると三暗刻が本線なので二はシュンツ使いしない方針となる。それであれば安全性比較の観点から見て二は②より先に切るべき牌となるので二切り。
　そしてさらに次の変化はツモ九！

変化2
一一一九九②③③③１３６６　九ツモ

　三暗刻テンパイだ。もちろんこうなると四暗刻まで見たいのでダマ。それはいい。

　数巡この形のまま小林は場を見渡した。

小林の読み（この局は全員押している。ソーズの４はもう品切れだ。１も減ってきた。そんな中でタテにしか使えないはずの２が顔を出さないのはおかしい。もしかしたらこの待ちはもう無いのかもしれない）

　そして──

変化3
一一一九九九③③③１３６６　⑦ツモ

　この時小林は（コレかもな）と思ったと言う。

打１

　なんと！　テンパイ破壊。さらに3巡後もツモ⑦

「リーチ」
打３
「ツモ！（一発）」

小林アガリ
一一一九九九③③③⑦⑦６６　⑦ツモ

（やってくれましたよ会長！　小林が、すごいことをしました！）
（だな、あんな手順は到底私にはできない）
（いや、私も一生ムリですよ）

　小林は常人にはとても作れそうにない役満を決めてリーグ戦第一節1回戦はじまりを制する。

　続く2回戦

「ポン」

小林手牌
七八九３３４６中中中（発発発）

（発中はつちゅんテンパネ親で3900ざんくか）
（７ちーそーは山にありそうです。リャンメンになるといいですけどね）
「チー」
打３

小林手牌
七八九６中中中（２チー３４）（発発発）

（チーして６単騎？）
（鳴く必要ありますかね……）

　すると小林の次のツモが2人にこのチーの意味を教えてくれた。

ツモ白

（2枚切れの白！）
（まさかこの変化を見越してたのか）

　白はあと1枚を狙い撃ちする地獄単騎だ。だが、これはプロリーグである。逆にこれがまったく出てない白だったらアガリは取れないだろうし、1枚切れであっても中盤を過ぎてしまってはプロからのアガリは難しい。地獄への変化だからこそ狙ってみる価値がある。競技プロに対するリスペクトを込めた選択だったのだと小林はこの時のことを後に語る。

打６

2巡後

「ロン。8000」

七八九白中中中（２チー３４）（発発発）　白ロン


　あまりのインパクトに鈴乃木も上村も小林の後ろから離れることができなかった。
　結局2人は上村が仕事で帰る時間になるまで小林の麻雀だけずっと見ていて、もう一つの目的であったはずの狭山学プロのことなどすっかり忘れていたのだった。（ちなみに、狭山プロもきっちり勝っていた）


小林賢プロ

リーグ戦第一節
①①②①で＋160.9
暫定首位

　このセンセーショナルなデビュー戦から小林の連勝街道は始まった──