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第一部
第四報◉長谷川さん
しおりを挟む12月1日はシフトの都合上どうしても上野店に応援で出て欲しいと言われていたし上野店所属の杜若も当然上野店に出勤するので渋谷店の小林麻雀教室(仮)は2日から開催することになってる。
他店応援の時はなにかと慌ただしいのでそんな日まで日報を書いたりはしない。そういう時は別の責任者が担当したりする。なので今回は渡辺副店長が渋谷店日報を久しぶりに書いた。小林日報はお休みだ。
「なんだ。今日は小林の日報は無いのか」
「残念ですね。会長」
「うむ。ところで上村。頼んでいた件はどうなってる?」
「アクアリウム公式マスコットキャラクター『シャークくん』のグッズ作成と販売の件ですね。それでしたら本日は試作品をお持ちしております」
ゴトッ
「これは?」
「シャークくん箸置きです」
それはいやにリアルな形状をしたサメの置物だった。背ビレには『西』と書いてある。シャークくんのシャーと東南西北のシャーをかけたのだろう。今までシャークくんの背ビレが見える絵は無かったので今回箸置きにした際に新しく加えた設定なのだろうが、明らかに変であった。
「おいおい、箸置きって。これマスコットキャラクターっていうかただのリアルなサメじゃないか。背ビレの西も字体が明朝体で気合い入ってるし。怖いっての」
「そうですか? でもほら口もとはニコリと笑ってるんですよ。可愛くないですか?」
鈴乃木会長はじっくりとシャークくんの箸置きとやらを見た。確かに少し微笑んでいるようにも見える。それに、よくよく見てみるとそのリアルさが逆に可愛く見えてきた。少し持ち上げてもみた。思っていたよりずっと重い。
「うおっ、これ重たいな。箸置きってこんなに重いものか?」
「いえ、会長は書の方も嗜むと聞きましたので箸置き兼文鎮にどうかと思いまして」
「採用!」
「ありがとうございます」
────
小林が上野店応援要請を受けたその日はバイトスタッフがほぼいなくて上野店の社員は休憩もろくに取れずに忙しく働いた。
応援スタッフに休憩を与えないわけにはいかないので上野店社員は小林の休憩を優先し自分の休憩を後回しにしてるうちに休めるタイミングを失ったのだ。
「蘭さん。この店はなんでこんなにバイトスタッフが同時に休むの?」
「偶然が重なっただけなんだけど、ただうちの主力バイトのうち2人は同じ所の劇団員でそれで同時に休みを取られてるってのはあるわね」
「なるほど」
「あと、私『さん』付けされるの嫌なの。年齢言ったわけでもないのに歳上扱いされてるみたいで。『蘭ちゃん』って呼んでよね。みんなそう呼んでるからぁ」
「失礼しました。そしたら蘭ちゃんさん…」
「アホか! 私はの◯らちゃんさんかっつーの」
「…のべ◯ちゃんさん?」
「いい、なんでもない。とにかく、『蘭ちゃん』って呼んでね! 以上!」
「ハーイ」
上野店と渋谷店ではさすがにお客さんが違う。近くの店舗ならどちらにも行ってるお客さんがいたりするものだがこうも離れていると初めて見るお客さんばかりである。
名前もわからない初対面の方ばかりなので小林は牌磨きや後片付けを手伝うことにした。これらの仕事はどこも同じだから。すると。
「あら~? 小林先生じゃない。上野店にも来るの?」
「長谷川さん! 上野店にも来ることあるんですね。僕はたまたま今日だけの応援なんですが」
「そうなのねー。私は孫に会いに来た帰りなの」
「そう言えばお孫さん藝大受かったって言ってましたもんね」
「そうなのよ。大変そうだけど、楽しそうにしてたわ」
「なら良かったですね」
「そうね。あらいけない! そろそろ帰らないと」
「旦那さんの夕食用意の時間ですか?」
「んーん。旦那と食事に行く約束してるの!」
「仲良しでいいですね。それではまた渋谷店で!」
「次の休みに旦那と行くわ~」
「お待ちしておりますー」
「ケンちゃん。今の人は?」
「ケンちゃんて……」
「いーじゃない。私も蘭ちゃんって呼んでもらうんだし」
「いいですけど、蘭ちゃんみたいな美人にそんな親しげに呼ばれたら、なんか恥ずかしいんです」
「アラ。そういうこと? ケンちゃんったらカワイーわぁ。で、今のご婦人は?」
「あの方は渋谷店の常連。長谷川春子さんです。旦那さんと一緒に休日だけいらっしゃる方で、来る度おれがいつも麻雀の基本を教えてあげてます」
「あらそうなの。じゃあ麻雀教室はもうやってたようなもんなのね」
「いや、1人に教えるのと複数人に同時に教えるのとは違いますよ」
「まあ、そうかもだけど。そこは私もいるし。大丈夫そうね」
「だといいけど」
そうこう話しているとまた忙しくなってきて2人はセカセカと働き始め、気がついたら退店の時間になっていた。
「お疲れ様でした」
「今日は応援ありがとうねー。お疲れ様ぁ」
「はい、ではまた明日。渋谷店で」
「また明日ねぇ」
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