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不適切な友達
しおりを挟む「君、なんでフリュウにちょっかいかけてるの?」
目の前の光景に我が目を疑う。
学院正門を抜けてすぐ。登校時間の学院生たちが賑わう正面通路にちょっとした人集りができていた。
学院生同士の揉め事かなと思ったけど俗世に関わらないと決めているので気にせずに通り過ぎようとした。
けどやっぱりまだ修行が足りない。ほんの少し残った俺の好奇心が横目で騒ぎの元を確認してしまう。
そこに見えたのはド派手な金髪頭と、そいつより二回りは小さい背丈のふわふわした淡い赤味がかった金髪の学院生。ちっちゃい方が金髪頭相手になにやら押し問答をしているようだ。
その人物を見た途端俺はつい足を止めてしまった。
だって、こいつって…。
「トワ、助けてくれ。こいつしつこくてさ」
ド派手な金髪頭はもちろんフリュウ。珍しく弱りきった声で俺に助けを求めてくる。それに気づいた片方がこちらを振り返る。
「ヴァレリア先輩、初めまして、ですよね? 僕はアルトバイム家のハヤナ。ここの一回生です」
そいつは不敵に微笑んだ。
君の事はすっごく知ってる。
見た目の雰囲気は可憐な花のように儚げなハヤナ・アルトバイム。ウチと肩を並べる三大公爵家のひとつ、アルトバイム公爵家の三男だ。俺と同じ希少種オメガで前回の人生においてラゼルに纏わりつき当時の俺に地団駄を踏ませた憎っくき怨敵。それが何故かフリュウの腕にしがみついている。その身体の寄せ方はどう見ても好意があるようにしか見えない距離。
どうして? なんで?
「あ、うん。それでなんで君、こいつにくっついてるの?」
ラゼルが本命じゃなかったの?
俺は覚えているぞ。難攻不落と言われた当時のラゼルの隣で、父上からラゼル接近禁止令が下されていた俺を勝ち誇った笑顔で挑発してきた事を。顔に似合わない性悪だ。俺はあの屈辱を死んでも忘れない。実際一回死んだけど忘れてないし。それほど俺にとってハヤナ・アルトバイムは忌まわしき恋敵だった。
それがなぜ今回はフリュウにコナをかけているんだ? いやいや、何よりも彼の初登場ってまだ先のはず。同じ学校に通っているのだからすれ違ったりした事はあるだろうけど、俺に本格的に関わるのは半年ほど後のことだ。
「僕、サラバンド先輩に惚れたんです。僕が上級生に絡まれて困っているところを助けてくれたんです。すごく格好良くて一目惚れです! 僕はオメガだしアルファのサラバンド先輩と吊り合うと思いますよね!」
「………」
状況が飲み込めず二の句が継げないぞ。
「トワ、こいつを剥がしてくれ」
フリュウの情けない懇願。
「君の力だったらわけないでしょ?」
「加減がわからんっての! うっかり力入れたら怪我させそうだし。こいつお前より細えんだよ!」
「紳士だねぇ」
俺のことは割と雑に扱ってると思ってたけど、フリュウなりに気を遣ってくれてたのかな。
「わかったら、トワ、協力してくれ」
「絶対離れない」
及び腰のフリュウの腕にしっかり手を巻き付けるハヤナ・アルトバイム。
「いいじゃないの。お似合いだよ、二人とも」
「お前、この前助けてやっただろ! その恩を今返せ!」
広場での野良犬の件かな。
俺はちょっとだけ考えたけどすぐに首を横に振った。
「やだよ。人の恋路を邪魔する奴は馬になんとやらって言うじゃない。じゃあ遅刻しちゃうし俺は行くね」
彼を大切にしてあげてねと手を振って先を急ぐ。
俺的にはハヤナがラゼルと関わらなければその他のことはどうでもいい。二人が関わったばかりに俺は大公家に嫁ぐ事になったのだから。広場での事もフリュウに捕まらなければ起きなかった事故だ。俺が感謝する必要なんてないんじゃないかなぁ、と理論武装完了。
え? これでハヤナ・アルトバイムの件は回避できちゃったの?
前回、あれほど揉めに揉めた相手。だから油断はできないけど、とりあえずは様子見かな。
「おぅ、トワっち」
後ろからアハトの挨拶。最近、よく声を掛けてくるようになった。挨拶程度だけど。
「おは…」
よう、と続けようとしてできなかった。だってアハトの隣には。
「おはよう、トワ」
「ラゼル!」
つい声を張り上げてしまった。
何日振りかの登校。
ラゼルはいつもより晴れやかな顔をしていた。気のせいか周りの空気もキラキラ輝いている、というのは俺の目の錯覚かな。だって長い間顔を見れなくてすごく寂しかったのだ。その反動だな。
「お、嬉しそうな顔」
アハトがすぐにからかってくるけど構ってる場合じゃ無い。それに嬉しいのは本当のことだしね。
「元気にしてたの? 今日からまた登校できるの?」
「心配かけたな。俺はどこも悪くないよ。家の事で少しゴタついてた。けどようやく目処が立ちそうだから、久しぶりにここへ顔を出してみようと思ったんだ」
「そう。大変だったんだね。問題が解決しそうなら良かった。ラゼルが元気そうで安心した…」
俺はラゼルを見上げる。ラゼルはほんわかした笑顔で視線を合わせてくれる。最近本当に俺への対応が変わった。
でも嬉しい。
目を見て微笑み掛けて貰えるだけで幸せで、我ながらお安いと思うけど。
「あれフリュウじゃん。小さいのに絡まれてる。あいつ一個下の奴だよな」
道脇でまだああだこうだやりあっているフリュウとハヤナ・アルトバイム。二人の掛け合いは賑やかで周りの目が向けられている。
「ハヤナ・アルトバイムだな」
ラゼルがその名前を口にする。
貴族社会って割と狭い世界。学院外での付き合いもあるし、他学年でもなんだかんだでお互い顔と名前が一致する顔見知りが多いんだ。ラゼルは国の貴族を束ねる大公家の人間だからそれこそ国中の爵位持ちの顔を覚えているだろうし。
一方の俺はと言うとヴァレリア家はアルトバイム家とは敵対勢力なんで、顔は見知っていても付き合いなんて無い。次男が俺の一個上の学年に在籍している事も知っているが、学院内でも関わりを持たないように距離は取っていた。そもそも俺はラゼル以外の人間に興味が無かった。敵だろうが味方だろうがそれは徹底していた。ラゼルを独占する事だけで頭を占められてそれ以外の事は俺の全てから除外されていたのだ。正直言うと、何かと構ってきた学院生時代のフリュウのことすらあまり印象に残ってないという有様だ。
今考えてみると本当に不自然な状態だったな…。
「朝から元気だね~。でもなんであいつらイチャついてんの? あいつら知り合いだったんだ?」
「上級生に絡まれてるところをフリュウが助けてあげたんだって。それで一目惚れしたとかで」
俺の説明にアハトは興味深々に耳を傾けてくる。
「へぇ。フリュウ、ラッキーじゃん。トワっち程じゃないけど別嬪って言われてるもんな。でもトワっち、放っておいていいの?」
「なんで?」
そんな事を俺に聞かれても。
「全然脈無しか! あいつ不憫~」
即答の俺にアハトが腹を抱えてウケている。
「ま、トワっちにはこいつが合ってるよ」
ラゼルの肩をぽんと叩く。
なんだよ、その訳知り顔は。
「そういう事いうのやめてよ。ラゼルだって迷惑してるだろ」
腕を組んで抗議したんだけど。
「お前となら俺は一向に構わない」
ラゼルが真面目腐った顔でそんな事を言う。
「おぉ~、男らしい」
「もうっ、ラゼルまで俺をからかわないでって」
アハトは無責任に口笛吹くし、もう、なんなの、この会話。
「あいつら賑やかだな~」
そんな風に騒いでたけど、すぐそばで俺たち以上に騒がしくしている二人のおかげで今の会話は誰にも聞かれてなかったのは良かった。今更ラゼルと噂とか、もう勘弁だよ。
フリュウはまとわりつくハヤナを扱いかねて辟易した様子だ。けどハヤナは負けてない。掴んだ腕にしっかり抱きついて笑顔で迫っている。
…誰かを彷彿とさせるなぁ。
「ちょっと前までのお前らみたいだな」
それ、本人に言っちゃうか。
触れてほしく無いところへ触れてくる怖いもの知らずのアハトは俺の顔が凍りつく前に一人でさっさと先に行ってしまった。本当、要領のいい奴。
「アハトってあんな性格だったんだね。もっと大人だと思ってた」
アハトの後ろ姿に毒付く俺にラゼルは緩く笑った。
「お前も元気にしてたみたいだな。ずっと大人しかったとアハトに聞いた」
お騒がせ人間みたいに言わないでよ。ラゼルが絡んでなければ俺は真っ当な人間だってば。
「家でごたついてたって言ってたけど、チトセさんは元気だよね?」
失礼な事を言われてる気もするけど、とりあえず目下の心配事を口にした。
ハヤナ・アルトバイムが前回よりも早めに俺の前に現れたように、ラゼルがこの時期に学院を長期間欠席するなんて前回の人生ではなかったし、確実に違う未来を進んでいる。そうなってくると夫人の身辺が気がかりだ。大公家でのごたつき。夫人も何かしら現状に変化があったのかも知れないと思えば訊かずにはいられなかった。
「…病気はないな。もとから覇気のない人だが何か病を患っていたりはしない」
怪訝そうな顔。それもそうだろう。ピンポイントで大公夫人の事を聞かれれば不思議に思うのは当たり前だ。
「そう…」
俺はラゼルの顔を見上げた。
「あのね、ラゼル。チトセさんが馬車に乗る時は気をつけてあげてほしいんだ。目的地が近くても絶対に御者を使って乗るように。あと、山道は通らないように。遠出をする時は遠回りになってもきちんと整備された安全な公道を使うようにって」
大公夫人が事故に遭った時、一人で馬車に乗っていたのだ。不思議な事に夫人自ら御者台で手綱を引いていた。小型の馬車だから、女性でも制御できない訳じゃないけど上流階級の貴婦人がというのは珍しい。そして夫人はその為に命を落とした。
「わかった。伝えておく」
「あの、ありがとう」
意外なほど素直に頷かれて俺の方がたじろぐ。疑問も抱かず受け入れてもらえたのは良かったけど俺の説明なんて不審なところばかり。最悪、以前のように冷たくあしらわれるかと覚悟もしていた。
「母もお前に心配してもらえるのは嬉しいだろう。お前のことを可愛がっていたし、お前も母に懐いてくれていた。ありがとう。母は感謝していたよ」
なんだろう。
ラゼルの言い回しに引っ掛かりを感じる。なんだかお別れの言葉みたいだ。
「あの、本当にチトセさんは元気なんだよね?」
違和感を拭えなくて念を押すみたいに再度確認をしてみた。
「元気だ。ただこの街の空気が合わないようだから領地へ移ることにした。今はその準備で慌ただしくなってる」
「え? そうなの?」
「領地までは大きな道を通って帰るように言っておくよ」
前回、夫人はずっと王都の大公家を離れなかった。俺がラゼルと婚約する前も後も、大公夫人としての公の場での務めを果たしていた。
俺とラゼルが結婚に至る因果に夫人は直接関わってないから安心は出来ないけど、また一つ俺たちの未来が変わったと思って良いのかな?
「お前は優しいな」
「急に何?」
物思いに耽っている俺にラゼルの脈絡のない言葉。唐突にどうしたのだ。
「嫌ってる人間の親の心配をするなんてお人好しだと思ってな」
やるせなさそうな笑顔のラゼル。なんだか自嘲気味だ。
俺はラゼルのそんな態度に戸惑うけど、ちょっとだけ勇気を振り絞った。
「嫌いなんて嘘だよ。あの時は本当に混乱しちゃっててあんな事言ったけど、ラゼルを嫌いになんかなれないよ」
図書室での一件。後日、捨て台詞の釈明だけで終わって、好きだ嫌いだまでは触れなかった。
それ以降はラゼルもその事を特に気にかけている様子は見せず、それからすぐにラゼルが長期の欠席に入ったから、この話は宙ぶらりんのままだった。まさかラゼルの方から話を振ってくるとは思わなかった。
「トワ……」
「ラゼルは俺の一番の友達だよ」
そうなんだ。
これが俺が出した結論。
嫌いになれない、でも、好きになってはいけない。友達という形なら無理に気持ちを抑えなくても済む。これが俺にとって一番楽でいられる選択。変に意識するから余計に空回りするんだ。
「憎んでもない?」
「どうして憎むの?」
冷たい態度のことを言われているなら俺が悪化させたのだから何も思わない。
ただ切ないだけ。
でもどうしてラゼルは俺に憎まれていると思っているのだろう。二人の仲を壊した戦犯は俺なのに…。
「そうか。ありがとうトワ。お前は俺にとっても大切な友達だ」
ラゼルは大きく息を吐いてどこか安心したように微笑んだ。
それは俺がラゼルに告白をしようと自宅の庭園へ呼び出す以前の、まだ二性持ち異性として意識し合う前の、仲の良かったあの頃に戻ったかのような何の隔たりも無い綺麗な笑顔だった。
ラゼルは俺の気持ちに寄り添うような言葉をくれる。俺の事を大切な友達だと言ってくれた。ごく普通の気のおけない関係。そう宣言された事で俺の肩の荷は降りた気がする。
ラゼルと別の道を歩む未来。この国を破滅へと導くロゼアラは産まれてこない。
また一つ未来が変わりそうな現在に安堵するけれど、とてつもない寂しさが俺を襲った。でもそれは甘んじて受け入れようと思った。
「ここは確かにいい場所だな」
「遠いのが難だけどね」
学院敷地内の俺の避難場所へラゼルを連れてきた。裏庭の更に奥の用務倉庫の側。手入れはされているけど申し訳程度にぽつんと設置されたベンチ以外は何もない閑散とした場所だ。学院生はわざわざここへは出向いたりしない。手入れの行き届いた立派な中庭があるからね。ここは学院の喧騒が届かなくて静かだ。
ラゼルがここへ来たいと希望した。アハトから聞いて興味を持ったようだ。食堂で昼食を終えてから二人して足を向けた。
俺は俺でちょっと複雑だ。
あくまでこれは友達付き合い。そう思えば意識せずに二人きりになれた。…と言うやせ我慢中だ。頭はラゼルの事を割り切っているのに心が追いついてない。自業自得とはいえ前回あんなに酷い扱いをされていたのに俺って健気すぎない?
それでも意固地にラゼルを拒絶するのも友達といった手前おかしな気がするから、ラゼルの要望に応えたんだ。
「それでチトセさんの準備の方は順調に進んでいるの」
いつものベンチにラゼルと隣同士で座ってみる。ごく自然に会話が始まった。話題は当然大公家の近況。
「ああ。荷物は必要最低限だし、その他のものは向こうで揃えることにした」
「大公閣下はここに残るんでしょう? きっと寂しくなるよね」
ラゼルのご両親の馴れ初めは結構有名なんだ。なんでも大公閣下の一目惚れで男爵家の娘だった夫人を電撃的に娶ったのだ。全く色恋沙汰に無縁だった閣下。それが熱烈な求婚の末に短期決戦での祝言。格差婚と言う事もあり社交界では一時その話で持ちきりだったらしい。そんな逸話を残すラゼルのご両親だから離れて暮らすなんて身を切る思いだろう。
大公家へと嫁いだ時も俺たちの前では毅然としていた閣下だけど、夫人に対する当たりは優しかったのを覚えているし。
それでも閣下には王都での重責がある。それを投げ打って夫人と共に領地へ籠るなんて想像できない。
「きっとすぐにまた一緒に暮らせるさ」
ラゼルは自分に言い聞かせるようにベンチに深く腰掛け大きく開いた脚の間で組んだ両手を更に握り合わせて空を見上げた。
「…眠たいの?」
「ああ、悪い。ずっと睡眠不足気味で」
心地よい風が吹いて、日差しも穏やかな昼下がり。昼寝にはちょうどいい陽気。何となく俺もぼんやり空を見上げていたらその横でラゼルが小さく欠伸をする音が聞こえたのだ。
「珍しいね。ラゼルがそんな風に気を抜くのって」
いくら寝不足といえど、ラゼルが人前で隙をみせる事なんて無かった。
「ここは誰もいないしな。お前の甘い匂いもして落ち着く…」
なんてことを言ってくれるんだ!
もうすぐ発情期に入るみたいでいつもより匂いが強くなっているかも。それでも人より少ない筈なんだけど、やっぱりアルファには見抜かれるのか。
「そう。このベンチで少し仮眠する? 俺はそこの花壇に移るよ。時間が来たら起こすから」
内心の動揺を隠して場所を譲ろうと腰を浮かせかけたら、手を握られて引き戻されその場に再び座らされる。
「お前はここ。膝貸して」
ラゼルはそう言うとゴロンと横になって俺の太腿の上に頭を乗せてきた。
「ちょっ、ラゼルっ⁉︎」
「ん、気持ちいい…」
ラゼルは仰向けになって目を細めそのまま眠りの態勢に入ろうとする。ラゼルの体温と重みと微かに香るフェロモン。あまりに無防備だ。俺はすっかり困ってしまった。
「でも…、俺たち友達なんだろう? 友達はこんな事」
「するな」
え? そうなのか? 友達同士で膝貸すの?
「寝不足で弱っている友達に膝を貸してやるのも友達なら普通のことだな」
ラゼルは最もらしく主張する。
俺は友達付き合いはピンと来ない。ぼっちだったから。だから俺は素朴な疑問を口にしたんだけど。
「じゃあアハトとも膝の貸しあいっこするの?」
「気色悪い事言うな」
めちゃくちゃ怖い目で睨まれてぴしゃりと怒られた。理不尽。
「いや、でも…」
「ごめん、本当に眠たい…」
それだけ言うとラゼルは俺の膝を枕に寝落ちした。
嘘だろ?
うわぁ。すやすや寝息立ててもう意識がない。安心しきってるんだ。
ラゼルの寝顔なんて前回の結婚生活を通しても拝めることは無かった。だって俺たち部屋別だったし。だからこんな至近距離でラゼルの寝顔を見るのは初めてだ。
ラゼルの髪の毛は綺麗な艶々の黒色だ。母君のチトセさん譲り。瞳の色も同じくチトセさんの黒だ。縁取るまつ毛も長くてラゼルの端正な顔を更に引き立てている。眉毛もキリッとしてて男らしい。でも寝顔は少しあどけないな。
俺はここぞとばかりまじまじとラゼルの寝顔を堪能するけれど、ラゼルが俺の気配で目を開くことはなかった。
ラゼルが外で警戒解くのなんて初めてかも。それが俺の前だからというのなら、こんな特別扱いは身体に悪い。自尊心を刺激されまくって気分は上がる一方だ。ラゼルから仄かに立ち上る香りも俺を居た堪れない気持ちにさせる。
…友達ってこれであってるのか?
そんな自問が頭をよぎる。
駄目だ。ぼっち歴が長すぎて友達の定義が俺の中で行方不明だ。
もどかしい疑問に頭を占領される俺をよそにラゼルは俺の膝の上で幸せそうに微睡んでいる。
俺が執着を無くせばこんなにも自然体で居てくれる。それは俺に対して信頼を向けてくれているようで新鮮な気持ちになった。
でも友達としてはこの距離はやっぱり不適切な気がする。ラゼル自身、アハトとは冗談でもこんな真似はしないと俺にキレたもん。
俺にだけ許された特別な距離。
どうしても都合の良い方に取ってしまう自分が憎い。
心も身体も浮かれだして、これはちょっとまずいかも。予兆を感じて俺は空を仰いだ。
後で予備の抑制剤、飲んどこう…。
それまで持ちますように、と誰とは無しに祈ったのだった。
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