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トワ、これから 2
しおりを挟む「ラゼル! お疲れ様」
逆転の勝利ともいえるあの日から一年、待ち望んだ華燭の典、その当日の夜。
大公家の広間で盛大な披露宴が行われた。
大公家の一員となった俺の紹介を招待客へ一通り終えた後、新婚部屋へと早々に引き上げ、仕事上の上官に捕まった今日のもう一人の主役であるラゼルをまだかまだかと首を長くして待っていた。
夜もふけた頃、扉の開く音がして俺の待ち人が姿を現した。
「まだ起きていたのか」
「だって」
ラゼルは上着を脱ぎ、盛装の堅苦しいタイや袖口のカフスを外して衣服を緩めている。
「お前も疲れただろう。もう休め」
それを手伝おうと近寄る俺にラゼルは素っ気ないことを口にする。
「今日は初夜だよ!」
「…俺はお前と子供を作るつもりはない」
ラゼルはそう言うけど俺は食い下がる。
「でも跡取りがいないとこの大公家が無くなっちゃうよ」
「別に俺の代で潰れてくれても構わない。大公位というものはそんなものだ」
ごく真っ当な俺の主張にラゼルは頑として首を縦に振らなかった。
「いやだ。俺はラゼルの子供を産みたいよ」
「必要ない。お前が大人しくしていることがこちらの望みだ」
「でも大公閣下…義父上は期待してる。アルファ性持ちの子供を産めることがせめてもの救いだって言われた。俺だって馬鹿じゃない。この婚姻はその利点で取引されたものだって理解してる。だから俺に役目を果たさせてよ。俺、ラゼルの子供を産みたい」
「俺にその気は無いと…」
「ラゼルがその気にならないってなら俺がその気にさせてあげる」
最後まで言わせなかった。
俺はしゅるりと着ていたガウンの腰紐を解いた。布地を肩から滑らせて足元へと脱ぎ落とす。
「トワ…」
ラゼルが息を呑んだのが聞こえた。
全裸になった俺はラゼルをそばの長椅子へ押し倒し上へ乗り上げた。
「ラゼルは何もしなくていいよ。俺が動くから」
「嬉しい。ラゼルのこんなになってるよ。俺で感じてくれてるんだね。ちょっと自信なかったから安心した」
着衣の前だけはだけさせたラゼルへ俺は丁寧に愛撫を施した。
俺の指はたくましい胸にある突起や引き締まった腹筋、その真ん中の臍を辿って、下腹部へと絡んでいく。
そこはすでに熱を持って存在感を増していた。漲る先端からは滲み出る先走り。
ラゼルも期待してくれている。
俺は大切なものを扱うようにそっと両手で握り込む。触れた瞬間大きな脈動が手に伝わった。どうしよう、すごく愛おしい。
「自信なんかあるだろう…。お前が他人からどんな目で見られているかなんて俺は嫌というほど近くで見てきた」
ラゼルは片手で顔を覆っているからどんな表情かはわからない。けど声が掠れてその低音が俺の耳を刺激した。
「…俺嫌われてるからね。誰も近寄らない。オメガなのにアルファに避けられる色気無しだ」
事実を口にするのなんかどうって事ない。今は目の前にある幸せにどっぷり浸りたい。そう思う俺なんだけどラゼルは必死な形相で否定してきた。
「違うっ、お前はいつも欲望の対象として見られてきたんだ。お前の外見がどれほど人を惑わすものなのかお前が自覚してないだけだ。お前は気が付かなかったかも知れないが俺がどれだけ手を回したと思っている」
「手を回した…?」
粛々と事を進めている最中だからこっちに集中して欲しいんだけど。俺にしたって経験も無く知識を総動員しての行為だ。初挑戦で緊張してるから集中させてほしい。ラゼルに不満を伝えようとしたけど思いがけない言葉に手を止めてしまった。
「っ、お前はとかく問題を起こしがちだ。学院の秩序を守るために仕方なく」
なんだ、そんなことか。
「うん。ラゼルはいつも人の為に忙しく動いていたよね。そうせざるを得ない立場だって知ってるけど、それでも自分の身を削ってまで出来る事じゃ無いって思ってる。それをラゼルは難なくこなしちゃうからすごいなって。尊敬してるよ」
俺はにっこり笑う。
ラゼルはいつもみんなの規範であり続けた。俺が一番近くで見ていたんだ。俺が知っていて当然。
「トワ、お前という奴は…」
ラゼルは怒ったみたいに言葉を搾り出した。
「わ、ラゼル⁈」
ラゼルは急に立ち上がり俺の腕を掴んで続き間の寝室へと引っ張る。
月明かりでほのかに照らされるベッドの上に放り投げられたかと思えばラゼルが俺の上へと乗り上げてきた。
さっきとは立場が逆に入れ替わった格好。
ラゼルは俺の両手を掴んで俺の頭上で拘束した。
「お前は動くな。俺がやる。痛くても我慢しろよ。加減はしない」
いつもと同じくらい鋭いけどいつもよりも熱っぽい目元。
「う、うん。ラゼルが与えてくれるものなら何だって嬉しいから俺に遠慮しないで」
「もう黙っていろ。気が散る」
ラゼルの手が俺の脚を割った。
※ ※ ※ ※
「大公家はどうしてそんな回りくどい事をしたのでしょう」
おっと。今はアスターと真面目な話をしている途中だった。うっかり嬉し恥ずかしの初夜のことまで思い出してしまった。頭の中のエロエロな記憶は一時封印しなければ。
「だからそれは俺を監視するため…」
「ラゼル様には相愛の本命がいたんですよね。それを蹴ってまでする必要のある事ですか? 監視というならアルトバイム様への傷害で、領地で蟄居させるなり他に色々方法があったでしょう」
蟄居って、ええと、自邸に閉じ込めて謹慎させる事、だよな。アスター、お前難しい言葉知ってるなあ。
「トワ様は他国の権力者の元へ輿入れさせることもできる国にとって有益な駒でもあるのです。むしろ騒ぎの種だといわれるトワ様を遠くへやった方がルサ国は一石二鳥だったのではないでしょうか。それをせずにわざわざ手元に置くなんて深慮遠謀な大公閣下の考えだとは思えません」
「義父上…閣下の案じゃないんだ。これはラゼルが言い出したことなんだよ」
夫人の一周忌の準備をしていたあの時、俺を庇うラゼルに大公閣下が放った一言。俺はその時初めて俺を伴侶にしたのはラゼルの意思だったのだと知った。
「やっぱりラゼル様はトワ様の事を」
「俺もそう思った。けどそれは早合点だったんだ」
俺に何かしらの期待を持たせて大人しくさせておくラゼルの常套手段。
俺はどれだけその甘い毒に騙され苦しめられたのだろう。
アスターに昨日から過去の話を聞いてもらっている。
過去の行いを吐き出すことで気持ちが楽になれた。しでかしてきた愚かな振る舞いも含めて全部知ってもらうことで俺の中で何かしらの区切りになったからだ。
ただ自分のために聞いてもらっていた事だけど、言葉足らずや説明不足でアスターから質問をされるというやりとりが頻繁に起こった。そんな時はできるだけ事細かく説明しなおしたんだけど、その作業が俺に新たな側面に気づかせる。
第三者目線での気付きというのか、アスターの質問のような指摘に俺はハッとすることがある。
俺が不自然に思うことは、アスターにとっても不自然に感じているということ。
俺は魔法に掛かっていたから間違っているのは全て自分だと思っていた。だけどアスターはそうは言わない。
「トワ様の話を聞けば聞くほどラゼル様の人物像がブレてしまいます。私にはトワ様よりラゼル様の方がよっぽど不可解に思えます」
その過程で、よりおかしいのは俺ではなくラゼルだとアスターは感じているようだった。
そうやって指摘されてはじめて俺は自分の感覚が他の人とずれていなかったと確信を得たのだけど、それと同時に以前からうっすらと気づいていたラゼルへの違和感を強く意識することにもなった。
※ ※ ※ ※
その後は相変わらずの日々を送っていた。
俺はこれと言った騒ぎも起こさず大人しく平穏な学院生活を過ごしていた。フリュウやハヤナが何かと構いに来るのが少し手間なくらいだ。
でも変わったこともある。
ラゼルがあの日を境に俺の前から姿を消した。
たまに学院内ですれ違うこともあるけど、一言二言挨拶みたいな会話をして立ち去る。ごく普通の友達みたいな関係。友達にはなれないと宣言された後の方がよっぽど友達の距離だった。
以前と違ってあちらから積極的に俺に会いにきたりしない。俺も破滅の未来回避の為に関わらないようにしてるから、ラゼルとの交流は劇的に減った。
これはいい兆候だ。
こうやって関係が切れていけば、この国の将来は安泰だ。
俺は上っ面だけそんな殊勝なことを考えていたが、内心は寂しくてしょうがない。
だって俺が望んでいたこととはいえ、これは立派な失恋なんだ。
俺はラゼルと出会ってからずっとラゼルだけに心を向けていたから、そのよりどころを失った今、夜もまともに寝れなくなってしまうというていたらくに陥っていた。自分から離れようとしていた癖にいざラゼルの方から距離を取られると繋がりが切れた実感をこれでもかと思い知らされてうちひしがれる日々だ。憔悴して元気のない俺をフリュウは心配してか以前のようなぐいぐい来るような強引な真似をしなくなったのは助かってるけど。
「なあさ、今度の休み、一緒に遊ぼうぜ。いい穴場見つけたんだ。お前を連れて行きたい」
それでもたまにこうやって俺をどこかへ連れ出そうと誘ってくる。
昼休憩は最近自分の教室で過ごすことが多くなった。ハヤナたちの件があり、僻地とはいえ不特定多数が気軽に出入りできる公共の場より、限られた人間しか入ってこない自分の教室のほうが安全だと気がついたからだ。
自分の席で静かに本を読んでいた俺にかまわず話しかけるフリュウ。俺は開いているページから目を離さず返事をした。
「そんな治安悪そうなところに行けるわけないだろ。悪くなくても行かないけどね」
「全然危なく無いって。俺、一人でも大丈夫なとこ」
観劇とかそう言うのじゃない。こいつは昔から賭け事とか好きだった。血が滾るらしい。俺は好きじゃない。
「カードは好きじゃないよ。そもそも賭け事自体悪だ」
「なんだ、その身につまされたようないい方。なんか後ろ暗いところがあんのか?」
「君じゃあるまいし無いっての」
俺は済ました顔をして流したけど、内心は冷や汗ダラダラだったりする。
俺は前回酷い目にあったことがある。ラゼルに当てつけるように家を留守にして夜会だとか夜な夜な何処かの集まりに参加していたんだけど、そこで余興でよく賭け事が繰り広げられていた。寂しさを埋める為、手を出した。俺は初心者でカモにされた。初めは勝たせておいて最後に大損するように持って行かれて、俺は多額の借金を負ってしまった。…よくある話だよな?
心配させたくないから実家には頼れなくて、でも自分名義の所持金だけでは補填できなくて、結局債権者がラゼルの方へ話を持って行き俺の借金を回収して行った。
ラゼルは何も言わなかった。
ただロゼアラにもっと関わるようにとだけ伝えてきた。
俺が何をしても怒らない。無関心だ。ロゼアラにはそうやって心を配るのに俺には何も無い。捻くれていた俺はラゼルにロゼアラの事を言われる毎に更に反発して、意地になってロゼアラを顧みることが無くなっていった。悪循環の泥沼に俺は嵌っていった。
痛い目を見て賭け事から手を引いたけど、俺はやっぱり家にいることが辛くてその後もフラフラ遊び歩いていた。
「いいじゃねぇか。どうせお前、暇なんだろ? 言っておくが賭場なんかにゃ行かねぇよ。お前をそんなところに誰が連れて行くかってんだ。心配でおちおち賭けなんかできねぇよ」
「目を離した隙に俺が何かトラブルでも起こすとでもいうのか? 失礼だな!」
「そうじゃねぇ。と言いたいところだがその通りだ。お前はもっと自分の容姿の威力を自覚しろ。周りが迷惑だ」
なんか怒られた。納得いかない。俺が何をしたっていうんだ。
なんて嫌な奴。
その上、ラゼルと俺が付き合いが無くなったのをそれとなく嗅ぎ取ってるんだろうけど、暇人みたいに言われるのも心外だ。
「そもそも暇じゃないよ。この本が見えないの? これは領地運営のいろはを網羅した我が家に伝わる秘伝の指南書。領地運営について本格的に勉強を始めたんだ。覚えることがいっぱいで遊んでる暇なんて全然無い」
「あ? 領地運営? お前、公爵家継ぐのか?」
フリュウが口を開けた間抜け顔をした。
驚かれるのも無理はない。やむにやまれぬ事情がない限りオメガが家を継ぐなんてことはないのだから。
「俺が継がないで誰が継ぐんだ」
御多分に洩れず俺もそう思われているんだろうけどフリュウへの牽制もあってそういう立場をとっている。
両親からは最悪親戚から養子を取るから好きにしていいとは言われている。ラゼルとの未来が無くなったし、俺自身も生涯独身の決心をしている。養子を取るのはもはや既定路線。それを踏まえた上で俺は公爵家の仕事を一通り出来るように勉強中なのだ。養子に家を継いでもらっても、お手伝いくらいはしたいのだ。……その見返りに養ってもらおうという魂胆である。
誰とも極力関わらないようにしようとすれば、引きこもりが一番妥当な選択なんだけど、やっぱり独りでは限界がある。できるだけ自給自足の生活を心がけるつもりだけど、生きていく上でまったく誰とも関わらないっていうのは無理な話だ。だから当主となる養子を窓口にして俺は隠遁の身のままいろいろ便宜を図ってもらう皮算用。必要最低限の人との関わりで俺はこの人生を生き抜いてやるのだ。
領地の片隅に棲家を築いてそこで一生を過ごそう。その内、父上も母上も王都での役目を終える時が来る。その時は家族三人水入らずでのんびり余生を送るのだ。親孝行もできるし名案でしょ?
「ふーん。じゃあ俺が入婿になってやる」
「は?」
「跡継ぎが要るだろう? 俺、種馬になってやってもいーぞ。アルファだしお前んとこの親も反対しないんじゃないか」
「君ね。自分の立場わかってる? 何のために王都へ呼ばれたのさ」
そう言えばこの件はなあなあのまま。フリュウも初めの頃みたいに意地になって俺に聞き出そうとはしないし。本人が言ってた通り過敏になってただけで、どうでも良いのだろう。
「知んねーよ、そんなの。お袋のことが無けりゃ好きに生きてるっての」
いろいろ複雑なのはどこの家庭も一緒だ。けどさ。どんなに不本意だろうと一度自分で決めたことなんだからそんな無責任な発言はいかがなものだと思うぞ。ロゼアラにうつつを抜かす前の前回のこいつの方が責任感があった気がする。
「君の父君も前途多難だな」
「…まぁ、そのうちバレる事だしいいよな。トワ、耳を貸せ」
悪戯でも企んでいるような顔でちょいちょいと人差し指で招かれる。
「実はハール殿下、今順調に回復してるんだ」
え?
「お前は俺がどうしてこの国に呼ばれたか知ってるみたいだから、兄貴の現状も知ってると見てる。噂通り病に伏せってたけどここ最近はみるみる元気になって医者を驚かせてるぜ」
ハール殿下が健康になった?
「つまり俺はお役御免ってことだ。万一の代替には変わりないけど、少なくとも今は役目が変わってきてる。つまり今の俺はそこそこ自由だ」
そこでフリュウはニカっと歯を見せて笑う。
「んなわけで、俺お前んとこに婿に行くわ。よろしくな!」
「お断りだよ」
「じゃあ誰か他の奴、婿にするのか?」
俺の事情を知らないフリュウは俺が婿をもらって後継を作ると思ってる。話がややこしくなるから独身でいる事を言ってないが、食いつかれてめんどくさくなった。
「そうなるね」
「もう相手が居るのか? まさか、あいつ…は無いか。一人息子だし婿には出せないもんな」
もう、放って欲しいな。
「今のところ誰って候補は居ないよ。卒業までまだ一年もあるし。今は学業に専念する時だよ。君も俺なんか構ってないで苦手科目の一つでも予習したら?」
けんもほろろに毒付いてたけど頭の中は一回目の時のことで一杯だ。
ハール殿下が回復してきている。
前回の人生ではそんな兆候はなかった。確実に未来は前回とは違う方向へ動き出しているのだ。
「あのねフリュウ」
「なんだ?」
「もし、俺っぽい筆跡で手紙が届いても信じないでね。俺、君に用がある時は直接口頭で伝えるから」
「何だよ急に」
「わからなくてもいいから覚えておいてくれるだけでいい」
それでもやっぱり不安はある。
あの事件のきっかけとなった手紙がフリュウの元へ届くのは四ヶ月先。あの内容は、俺がラゼルから離れた今、現状と大きく食い違っているから、どうなるかわからない。けど一応用心のために潰しておきたい。転ばぬ先の杖だ。
「デートの誘いならいつでもいいぜ」
どこまでも自信過剰な奴だな。
「はいはい。もうそろそろ自分のクラスに帰りなよ」
「なんだよ。まだいいじゃねぇか」
「俺は勉強に集中したいんだ」
「お前は俺と少し話すだけの時間を無駄にしたくらいで落ちこぼれるような馬鹿なのか」
あー言えばこー言う。
「なんでもいいから自分の教室へお帰り」
追い払うようにしっしっと手を振る。
「うわっ、可愛くねぇ」
「可愛くなくて結構だ。俺の迷惑だから早く」
「そんなこと言って本当は俺の魅力に夢中な癖に。お前、ちょいちょい俺にトキめいてるじゃん」
「だ、誰が…!」
ニヤニヤしてる。ムカつく。
何も言えなくなって俺は途方に暮れた。
確かに指摘される通りついうっかりフラッと流されそうになるけれど! でも別にフリュウに傾いたわけじゃない。ただ俺に経験値が足りなかっただけなんだよ!
俺って誰かから真剣に告白なんてされた事ない。いつも興味本位の半笑い混じりのもの。高飛車で鼻持ちならない希少種だから珍しがられるだけ。あんな風に迫られる事なんて、悔しい事にラゼルからだって無かったから、初めての事に必要以上に狼狽えただけなのだ。少し冷静になれば過剰反応だったと反省中だ。
でもそんな事、フリュウは知ったこっちゃないだろう。気があると思われても仕方ないし、理由はともかく少しでも心が揺れたなんて浮気したみたいでそれも情けなくて。
「隣のクラスの奴はさっさと帰れよ」
「そうだそうだ。ここは俺たちの教室だ。いつまでも騒いでんじゃないよ」
得意げな顔をするフリュウにぐぬぬと二の句がつげない俺に助け舟が現れた。
「あ?」
「ホラ、お帰りはあちらからどうぞ」
目をすわらせるフリュウにも動じず迫害し始めた。
びっくりだ。普段は俺に近づく事もなかったクラスメイト達。
「なんだよ、お前ら」
「俺ら? 強いて言うならヴァレリアのクラスメイトで将来の婿候補かも知れない人材かな」
その一が高らかに宣言した。
「「はあ?」」
俺とフリュウの声が見事に重なった。
「俺たち幸い長男じゃないし、そんな道も悪くないと思っていた所だ。ヴァレリアにその気があるなら俺たちは歓迎する」
と、その二。
「お前はヴァレリアとの会話を聞く限り家の後継みたいだしな。選定外だ。一昨日来たまえ」
その三が出入り口を指差す。
フリュウの身分を知らないからか皆強気だ。
「なんだよ気持ち悪いな! さっきまで無関係な顔してた癖に」
俺も思わずうんうんと心の中でフリュウに同意した。
その三は勝ち誇ったように笑顔になって胸を張る。
「余所者はさっさとこの場から去りたまえ」
「俺も同じ学院の生徒だぞ⁈」
といいながらも大人しく三人に囲まれて教室の外に連行されるフリュウ。なんだこれは。
「あの、ありがとう。助かったよ」
口を挟めず成り行きを見守るだけの俺は戻ってきた三人に唖然としながらもお礼を言った。
「あいつしつこいからな。一度俺たちの方からきっちり言っておこうとは思ってたんだ」
「ヴァレリアももっと厳しく言ってもいいと思うぜ。ああ言う奴は調子に乗らせるとどこまでもつけあがるタイプだからな」
それは否定しない。
「アルファだからって偉そうにしてるのも気に食わない」
「今日は助かったよ。これからは君達の手を煩わさないよう一人で対処するから」
ちょっと、警戒。婿うんぬん、本当に狙ってるとしたら洒落にならないじゃないか。
「あ、そんな顔しなくても大丈夫。さっきの婿候補ってのはあいつに対してのこれまでの意趣返しだから」
みなまで言うなとでも言うように片手で押しとどめる仕草で補足を始めるその一。
「ヴァレリアにはこれまで世話になったからそのお礼もある」
お礼って、何かしたっけ俺? 騒ぎを起こして迷惑をかけることはあったけど。
「お前の周りは常に騒がしかった。正直迷惑だった。ただこの顔は遠くで眺める分には害もなくて大変有難いものだったんだ」
「俺たちの目を癒してくれてありがとうヴァレリア。俺、お前と同じクラスになれて幸せだった」
「本当にな。こんな男だらけのむっさい空間でお前はひとときの安らぎだった。俺は三回生に上がるのが恐ろしい」
「このまま持ち上がってくれねーかな」
左様で。こんな需要もあったんだな俺って。でもそれはそれで何となく居心地悪いって言うか気色悪いな~。俺でおかしな妄想しないでね。手遅れかもだけど。
中身は三十過ぎた大人だから、純真な心なんて持ってないんだよ、俺だって。
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