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第二部
復讐鬼の愛
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ちゃらり、と。
俺の首につけられた首輪から続く細い鎖が、揺れるたびに硬い音を鳴らす。
鎖の先はどこにも繋がっていない。
これはただの『飼い犬の証』だ。
「んひ、あ、あー!ああっ!ぐ、あ、あー!」
犬のように床の上で這いつくばらされ、俺は後ろから激しく犯されている。
イングラムは煙草を吸いながら、自分の良いように一方的な抽送を繰り返していた。今日は、機嫌が悪い。
「ん、か、イ、イク、いんぐ、ら、…さま、イくぅ、ううっ」
毎日のようにこの男のちん×に犯されていたせいで、俺の身体はこの男の形に馴染み乱暴な行為でも快楽を貪れた。
だが、俺は許可なくイク事を禁じられている。
「主人より先にイクのは許しませんよ。性奴隷は性奴隷らしく奉仕していなさい」
「あ!ひ、むり、ぃ、あ!ちん、×がぁ、良すぎ、あ、あー!あー!」
イクなと言いつつ、急に俺の良い場所ばかりを抉り始めたイングラムは、くっくと腹黒い含み笑いを零した。
もう今にもイキそうなのを、必死に堪える。俺は泣きながら床に額を擦り付けて、出来るだけ尻の快楽を意識しないように努めた。
もちろん我慢するにも限界がある。
ようはこいつがお仕置きをしたい時の口実作りだ。
俺を甘やかしたい気分の時は頃合いを見てイッて良いと許可して、よく我慢出来ましたと褒める。
逆に痛ぶりたい時は、わざと許可なくイかせてお仕置きをするのだ。
俺のねぐらが城の離れからイングラムの寝室に移ってから、もうすぐ二カ月が経つ。もう大体こいつの性癖は理解した。
「いっ…くぅ、たのむ、い、ああっいんっぐらむ、さまぁっ!」
今日は機嫌が悪いから、お仕置きの日だ。
一旦殆ど引き抜かれた性器が、ごりゅっと前立腺を擦り上げて最奥を貫く。
ぱぁん!と、肉がぶつかる音が響くほど強くだ。
「あ゛……あぁ……っあ~~~……」
目の前が真っ白になり、情け無い呻き声がだらしなく開いた口から漏れた。つま先から脳天に電流が走り、びくんびくんと跳ねる。張り詰め切った俺の性器からは、ぴゅるっと女が潮を噴くようにカウパーが噴き出した。
もう、俺の身体は射精は必要ないのだ。
体内の肉壁もビクビクと痙攣しながらイングラムの一物を絞る。イングラムは俺の腰を強く掴むと、雌イキをしている最中の尻を更に犯し始めた。
「い、ひ!あ゛あ!や、やめ!あぐ、ふ、あぐぅ、ううぅぅっ!」
「くっ、締まってっ……また許可なく、イッたようですね。堪え性のない、娼婦め」
「い、まぁ、イ、イって、ああ、あ゛、だめ、し、あ゛あ゛っ!しぬ、ぅ、ううぅ!んああぁっ」
強すぎる快楽に、俺は呼吸すらできずにもがく。今にも意識を飛ばしそうになのを、床に爪を立て必死に堪えようとした。
ただでさえ未だに雌イキをすると絶頂の波に翻弄されてしまうのに、イッている最中に奥をガンガン突かれば、流石に慣れた身体でも悲鳴をあげる。
コントロールの効かない強すぎる快楽に、俺は涙すら流して喘いだ。
「ひあ、あああっ!イ、あっ!ああっ」
「イった後はちゃんと礼を言いなさいと、教えたでしょう」
「ひ、んっ!い、いんぐらむ、さまぁ!あ、ああっい、淫乱な、しょお、ふのぉ、しりをぉっ、あ、はあ!あっ、あっ!いく、ああー!」
「娼婦の?続きはなんでした?言葉も忘れて本当に犬に成り下がったのですか?」
いつも通りくだらん戯言を言わされそうになるが、射精が近いのかイングラムが激しく突くせいで、もうまともに言葉が出ない。力が抜け自分の身体も支える事が出来なくなっている。
もう完全に上体を床にくっつけ、イングラムが掴んでいる腰だけがかろうじて浮いている状態だ。
こんな状態で『イングラム様。この淫乱娼婦の尻を性処理に使い、イかせてくださってありがとうございます』なんて言えるか。馬鹿らしい。
「くっ、そろそろ……出しますよ、射精します……んっ」
「あ、ああっ!んあ!あーー!」
最後に深々と俺の体内を穿ち、最奥でイングラムの性器は弾けた。
びくんびくんと跳ねて、熱い精子を送り込んでくる。
その感触に、俺はまた絶頂した。視界がチカチカ点滅して目の前に星が飛ぶ。喉からは獣の遠吠えのような声が出て、身体はまるで弓のように反り白銀の髪がバサバサと揺れた。足がつりそうなくらい、つま先がぎゅっと丸まりピンと張る。
かなり強烈な絶頂だった。
「っ、あっ……っ……あ……っあ゛……」
絶頂の波が過ぎれば、俺の身体はまるで糸が切れた操り人形のように、ぱたりと床に四肢を放り出す。余韻にぶるりぶるりと身体が震え、尻の中のイングラムのきゅうきゅうと締め付けていた。
「っ……ふぅ。射精して貰ったら、なんと言うのでした?」
「……あ、……イングラム、様の……精子を、排泄して、くださって、娼婦に、仕事をくださって……ありがとう、ございます……」
俺の髪を鷲掴みにして顔を上げさせ、イングラムは嗜虐的に嗤う。
こいつは、俺が自分を好きだと思っている。
だから、わざと酷く娼婦扱いをして、俺を傷付けようとしているのだ。
俺が悲しそうに目を逸らしてやると、体内に埋まったままのイングラムの性器はぴくりと震えた。
だが、今日はもう3発出した。口の中に1発、床に出して俺に舐めとらせるので1発。そして今の中出しでだ。
流石にもう終わりだろう。
ぬるりと萎えた性器が出ていく感触に、俺は呻き声を上げた。
イングラムの顔が近づいてくる。
俺は唇を開き舌を出して誘うが、キスはしようとしない。髪をサラサラと手のひらで梳いて弄んだだけだった。
いまだにキスはしようとしない。
キスをすれば、舌を噛み切ってやるつもりでいるのだが。
「勝手にイッた悪い娼婦には、お仕置きですね」
俺は快楽に震えたままの身体を、なんとか起き上がらせる。
膝と肘が痛い。これだから床で犯されるのは好きじゃないのだ。
ベッドかバスタブの中がいいのだがな。
「……好きにするがいい。どうせ、お前になら……何をされもよいのだからな」
そんな事を言って、俺はイングラムの素足に口付けをして見せた。
従順な飼い犬の姿に、イングラムは満足している。
「困りましたね。それでは、お仕置きにならない」
首輪から繋がる鎖を引いて、俺の顔を上向かせると、こちらを見下してイングラムは愉悦に浸る。
かつての皇帝をこうして見下すのは、さぞ気持ちいいのだろう。また、イングラムの一物は半勃ちになっている。
「……私の前で、他の男達に犯され輪姦されるのはどうです」
ああ。それはいいな。正直同じちん×だけでは飽きていたところだ。違う男もたまには食いたい。
是非そうして欲しくて、俺があのオルガに同じような事を言った時の、奴の顔を思い出し真似る。
「そ、それはやめてくれ、後生だ……俺は貴様に良く仕えているだろう。今更他の男になど……」
「私以外に抱かれたくないと?貴方は娼婦なのですよ?……明日、楽しみにしていてくださいね」
「う、うぐ……うぅ……嫌だ……」
怯え、嫌悪に震えて見せる。イングラムは満足そうだ。
俺はよほど演技が上手いのか、イングラムがこう見えて鈍いのか。今の所は俺の演技を見破られた事はない。
こう易々と騙せると、たまにチラッと『イングラムを殺した後は、舞台役者でもしてみようかな』と考える時がある。
イングラムは性欲と支配欲を満たされ、床に就くことにしたようだ。
俺の寝床は、イングラムの部屋の隅だ。俺用のベッドが置いてあり、衝立で仕切られている。
俺もその寝床に引っ込もうとしたが、鎖を掴まれ引きとめられた。
「……イングラム様?」
「いえ。……たまには、朝まで奉仕しなさい」
「朝までだと。貴様……まだする気か……」
思わず呆れた俺に、イングラムは首を振る。どういう意味が良くわからなかったが、促されるままにイングラムのベッドに横たわった。
すると、イングラムは俺を隣に寝かせたまま、スヤスヤと寝息を立て始めたではないか。
少し驚いたが、俺は内心嬉しくて堪らない。どうやら、俺に絆され始めたか。
これなら、寝首を掻ける。
武器さえあれば今すぐ……だが、首輪の鎖は首を絞めるのには短いし、部屋には刃物の類はない。
俺の腕力のみでイングラムを絞め殺すのは危険過ぎる。起きて抵抗されれば一巻の終わりだ。
やはり、キスをさせて舌を噛み切るのが一番良さそうに思う。
「……添い寝だけでなく、キスをしてくれ……イングラム……」
そう呟いて、俺はイングラムと同じ毛布に入り込み眠りについた。
イングラムを殺す、楽しい夢が見れそうな気分だった。
翌朝、俺が目を覚ますとイングラムはもういなかった。
あの男は中々精力的に働いているようだ。だが、侍女の話ではあまり国民の支持は得られていないらしい、
まあ、当然だな。長く続いたアイルザンの皇帝の座を謀反で奪い、皇族でない男がその座について反発が無いはずがない。いい気味だ。
俺は昨夜の情事の痕を風呂で流し、香水をつけて部屋に戻る。
そして、部屋の片隅の姿見を覗いた。
抱かれ慣れたせいか、最近くびれができはじめ腰回りもふっくらし、女のような身体つきに変わりつつある。
髪の色艶も良いし、顔もなんだか前より妖しい美しさが増した。
自分を客観視して、ふむと唸る。
毎日毎日精子を口から尻から飲まされているせいだろうか。雌っぽくなってきた。
首輪から繋がる鎖を、指で弄ぶ。
俺はイングラムの飼い犬で性奴隷だから、服は着させて貰らえない。
イングラムに精子を餌として与えられるだけの、惨めな雌犬の姿だ。
「あいつはこれを見たら……なんと言うだろうか」
思わず呟いて、隻眼の事を思い出した。
イングラムの部屋に移る前の最後の夜。隻眼は俺の部屋に来て、別れを惜しむように抱いて行った。
いつも通りケダモノのような精力で俺を嬲り、満足した隻眼は俺に話をしてくれた。
隻眼がイングラムを憎む理由を。
「マクスウェルはたまたま知り合いだったある属国の外交官に、オレを養子にと押し付けた。子供がいない夫婦で、ずっと望んでいるが出来ないという話を聞いていたからだ。オレは反発し、養い親に懐かなかった。だが、二人は本当に根気強くオレに向き合ってくれた……。素直になれぬまま、軍人になるため家を出た。たまに手紙を出すくらいで、ろくに顔も見せない親不孝をした。そして……一昨年、義父がスパイ疑惑で投獄された。そんなはずはないと抗議したが、聞き入れられず……父は処刑され、義母が後を追って……池に身を、投げた……」
思い出すのも辛いのだろう。最後の方は、途切れ途切れに、苦しげに顔を歪めていた。それでも、俺に語って聞かせるのは、俺がイングラムを殺すための、この男の武器だからだろう。
「義父が遺した遺書には、オレへの感謝と、深い愛情が書かれていた。遺されたオレの心配ばかり書いてあった。親不孝なオレを責める言葉も、家が困窮していたことも、脅されていた事も、そこには書かれていなかった。……俺には、母は二人。父は育ての父が一人いる。その父母を殺したイングラムを許せはしない。死んで、償ってもらう。お前には、その為に力を貸して欲しい」
断る理由は無かった。
隻眼の気持ちは、よく分かるからだ。愛しい人を殺した相手が、のうのうと息をしていると思うだけで、地獄の釜で煮られているような痛苦を覚えるのだ。この身を苛む憎しみは、復讐でしか癒せない。
俺は、イングラムを殺す。
隻眼と、俺自身の自由の為にだ。
※※※※※
その晩。
部屋に戻ってきたイングラムは、やけに憔悴していた。
いつもより帰りも遅かったし、何かトラブルがあったのだろう。
「おかえりなさい、イングラム様……疲れているならば、侍女に温まる甘い飲み物でも持って来させるか?」
「いいえ……いや、やっぱり貰えますか。うんと、甘くするように言ってください」
イングラムの上着をクローゼットに吊るして片付けてから、俺は侍女を呼び甘党のイングラムが好む甘いホットチョコレートを頼んだ。ブランデーを一垂らしするのも付け加える。
奴の味の好みも、もう熟知した。
「貴様がそんな面をしているのは珍しいな」
「ええ、まあ。……軍内には、今だにルイス・ディスターが提唱した軍事政権を夢見る夢想家が居ましてね。そういう輩は、すぐに私の揚げ足を取って……いや、貴方にする話ではありませんね」
ディスターは、オルガを手に入れる為にに謀叛起こした。
色に狂った皇帝を弑し軍事政権を設立するのだと、甘言を弄し軍将校らを操っておいて、実際はオルガを連れてさっさと逃げ出したのだ。
客として訪れた将校や高官達の話では、将校達がディスターの逃亡に呆気に取られている内に、このイングラムは金をばら撒きどさくさに紛れて玉座を手に入れたらしい。
ディスターにとっては、自分に従ってくれた同胞やアイルザン軍将校の誇り、自身の正義感よりも、オルガが大事だったのだろう。
それはこのイングラムには幸運だったろうが、運などいつまでも続きはしない。
「ディスターはオルガ・ローレンスタの肉体に狂った色情魔だ。奴が国を治めるよりは、イングラム様の方がまだマシだろうな」
これは割と本心だ。
だからだろう。イングラムの表情も少し和らいだ。寝台に腰掛けたイングラムは侍女の持ってきたホットチョコレートを飲んで、ふうっと溜息を吐く。
「そういえば、他の男を連れてくるんではなかったのか?」
「期待していたのですか?嫌らしい娼婦だ。貴方こそ、色情魔ではありませんか」
「ふん。聞いただけだ」
本当は期待していたが……そんな余裕はなかったのだろう。イングラムの疲れた横顔を見ると、そう感じた。
イングラムがホットチョコレートを飲む間、手持ち無沙汰な俺はとりあえず足元に座り込みイングラムの股間に顔を埋めた。
今日は風呂には入って来ていないようだ。珍しい。
久しぶりに雄臭い匂いを嗅いで、興が乗ってくる。前を寛げて萎えた性器を取り出すと、舌を絡めて匂いと味を堪能した。
「……汚いですよ」
「はっ……今更だな。貴様の部屋に来る前複数の客と寝ていた時には、わざと汚して来た馬鹿も居た。舌で綺麗にしてくれとな……それに……たまにはこういうのも興奮していいだろう」
萎えていた一物も、俺が匂いを嗅いだり下の袋まで舌を這わせて愛撫している内に、硬く芯を持ちはじめる。
「はぁ……イングラム様のちん×の匂い……」
わざとうっとりと呟いてやると、たらたら我慢汁が漏れ出した。素直なちん×は可愛いものだ。
ちゅうちゅうと我慢汁を吸い取り、美味しそうに飲み込んでやると、イングラムは熱い目で俺を見下ろしてくる。
そして、いきなり俺の胸元にホットチョコレートをバシャっと零して来た。
「熱っ……おい!火傷をしたらどうする!」
「冷めて来ていましたから大丈夫ですよ」
確かに、幸い火傷するほどではなかった。だが、熱い飲み物を俺にかけるなど、許せん。
胸元から下腹部に、チョコレートが垂れて汚れてしまう。ベタベタになってしまうなと苛立っていると、イングラムは鎖を引いて俺をベッドの上に乗るよう促した。
「待て。こんなベタベタではヤれな……んあっ」
イングラムは俺を組み敷くと、胸元のチョコレートに舌を這わせて舐めはじめる。この男にこんな事は初めてされた。
「甘くて、美味しいですよデイトリヒ」
そう言って、乳首をべろりと舐められて、ちゅっと吸われる。
つい、甘い吐息が漏れてしまった。
身体に付いたチョコの汚れは、全てイングラムの舌が拭い唇が吸い取る。
俺は身をくねらせながら、されるがまま喘いだ。
綺麗になった時には、俺は欲情しきってしまっていた。久しぶりに念入りに前戯された身体は火照り、尻はパクパク口を開けてこっちにもくれと強請っている。
「あ、……はぁ……イングラム、様ぁ……早く、ちん×を挿れてくれ……」
うつ伏せになり腰を上げ、その物欲しげな後孔を見せつけて誘う。そのまま挿れるかと思ったが、イングラムは俺の身体をひっくり返し、腿を掴んで足を開かせると正常位で覆い被さってきた。
「……顔を見せてください」
「あ、あーっ、入るっ…んあ!」
ぐぷぷっと、太い陰茎が俺の肉を割って身体の奥深くまで進入する。この挿入の瞬間は本当に気持ちいい。
「いやらしい顔をして……何人咥えこんだら、あのデイトリヒ様がこんな淫乱娼婦に……」
イングラムは俺の頬を撫でると、顔をじっと見下ろしながら激しく腰を振りはじめた。
ガツガツと恥骨がぶつかるほど強く揺さぶられ、前戯で蕩けた俺の身体は喜んでびくびくと跳ねる。
「ん、あっ!はあっ、い、いいっ!あーっ!い、イングラム、様ぁ!」
「可愛い、乱れた貴方はっ、可愛い。だから、悔しいのですっ!一体何人この中に出した……私以外のっ!何人の精子をこの尻で受け止めたんですか!」
「ふ、あぅ!わ、からなぁ、あん!ひゃ、百じゃ、ああっ!きかな…っ」
「100!?」
驚いたのか、イングラムの腰が止まる。
当然それくらいはいくだろう。下男どもや城に出入りしている下賤の輩まで俺の尻を使って精液を排泄していたのだからな。
初めて輪姦された夜だけで、十人以上の相手をさせられた。入れ替わり立ち替わり中に出されて犯されて。やっと解放された後、擦られすぎて閉じない血塗れの尻穴から、馬鹿らしい量の精子が溢れてきて憎悪と嫌悪に死にそうなくらいだった。
それからも、毎日毎晩男どもに嬲られてきたのだ。百人どころでは効かないだろうな。いちいち数えていないが、千人を超えていても驚かない。
「嫌に、なったか?俺を……こんな、下男どもの精液便所にまで堕ちた俺を、もう抱けはしないか?」
ゆるゆるとイングラムは首を横に振った。
ぎゅうと俺を抱きしめて、またゆっくりと抽送を再開する。
「ふっ!ああっ!奥、がぁ!いあ、ああっ!」
「初めからっ、私の寝室に囲えば良かった!ああっ、デイトリヒ」
「ひあ?ああっ!や、あっ!あっ?」
こいつは、まさか。
イングラムの悲しげな、後悔の色に染まった瞳が俺を見詰めている。
愛おしむように、全身にイングラムの手が這う。
ゾクゾクした快楽を覚えて、俺は甘い声を上げて身体を震わせた。思わず、イングラムの背中に手を回して抱きしめる。
胸板が密着した状態で一番奥をぐりぐり抉られ、俺はイングラムの肩に顔を埋めて喘いだ。
「んっ!はぁっ!あ、い、イクっ!いん、ぐらむっ、さ、ああ、あー!イっ!イクっ!」
イングラムの肩越しに俺の足がピンと伸びたのが見えて、すぐに激しい絶頂に視界は白く染まり何も分からなくなる。
「くっ、締まる……もう、射精もしないで、イキ狂えるほど……こんな身体になる前に、私が……私が……」
勃起した俺の性器からは、白濁混じりのカウパーはダラダラ垂れているが、射精には至らない。俺は射精まで時間がかかる。だが、隻眼の調教のせいで、尻を犯されるとすぐに雌イキしてしまうようになった。
イングラムはそんな娼婦として躾けられた俺の肉体を、喜んで貪っていたはずだ。
だが、今イングラムは俺に憐憫の目を向け、労わるように身体を撫でている。
「……デイトリヒ……好きです」
その言葉に、しばしぼうっとイングラムを見上げて、そういえば俺はこの男に惚れている設定だったと思い出す。
なんだか、上手くやれている自信がないが、俺は泣き笑いの顔をしてイングラムの腰に足を巻きつけた。
ボロボロと頬を涙が零れ落ちていく。これは演技の涙なのか、本物なのか分からない。
「出してくれ、イングラム様の精子が欲しい……娼婦のデイトリヒにではなく……ただのデイトリヒに、お前の精子をくれ……」
イングラムは頷いて、俺の首筋に吸い付いて痕を付けながら腰を揺さぶる。
今までとは違う。
耳朶を優しく噛まれたり、キスマークをつけられたり、まるで昔マクスウェルに抱かれた時のような、労りと愛情に満ちたセックスだ。
「あ、ん……あー、き、もちい、ふ、んんっ」
「ああ、私も……私も気持ち、いいよ。デイトリヒ……」
胸が痛む。
優しく触れる手が、俺を癒そうとしているのが分かる。何故急にこうなるのだ。貴様は傲慢なサディストだったろう。
俺の戸惑いなど、色狂いの俺の尻には関係が無いらしく、また絶頂感がこみ上げてきた。
「ああっ、はっ!い、イ、イき、そ…あー、もう、うあっ、イく…」
「……デイトリヒ、私を好きですか?」
「っ!す、好き…、い、ああ、いんぐ、……」
「私も、いつの間にか、貴方を……好きになってしまった」
イングラムは俺を強く抱きしめて、射精に向けて抽送を激しくする。ばちゅばちゅと湿った淫猥な音が、イングラムの囁きと共に俺の鼓膜を揺らす。
頭がイかれてしまいそうだ。
「あ、ああ!せ、セシルっ!セシルぅ!好き、好きだ、あ、あー!」
今まで呼んだ事のない、イングラムのファーストネームを連呼して、好きだと喚きながら俺はよがり狂った。
体内のイングラムの熱も、今にも弾けそうに張り詰める。
「っふ、う!デイ、トリヒ!愛してる、デイトリヒっ!私の、可愛い…デイトリヒ」
「ひぐ、い、あ!あああ!」
イングラムの背中に爪を立てて俺がイッたと同時に、熱い精子が腹の奥で噴き出した。びくびくと跳ねるイングラムの性器を、俺の身体が喜んで搾り精子を一滴残らず吸い取ろうとする。
密着したイングラムと俺の腹の間で、俺の性器も白濁を零していた。いつもより、早い。
「っあ……っ……あー……」
余韻に浸り声も出ない俺の頬に、イングラムの唇が触れる。
こんな気分だったのか。
マクスウェル、お前もこんな気分だったのか?
自分を愛してくれる男に、惚れたと嘘をついて抱かれる気分は。
こんな……胸糞の悪い……寂しい気分だったのか?
「これからは、私だけだ……デイトリヒ」
イングラムはそう言って、俺の唇に自分の唇を重ねた。
熱い舌が、歯列をなぞる。口を開き受け入れた。イングラムの舌は煙草の味がする。それを絡ませあい、二人分の唾液を飲み込む。お互いの髪に指を絡ませ頭を支え合いながら、じゅるじゅると淫らな水音を立て深く深く唇を貪りあって、そして、俺はイングラムの舌を口内深くまで吸い込んで。
噛み切った。
「……終わったか?」
隻眼の声に、俺は顔を上げた。
「酷い顔だ」
それは、そうだろう。
俺は寝台の上で、イングラムの亡骸の頭を膝に乗せている。口元からは大量の血が流れ、寝台は赤く染まっていた。
裏切りの絶望と死の恐怖に染まったイングラムの死に顔を、隻眼はちらりと見る。
「……思ったほど、すっきりとはしないものだ」
「当たり前だ……」
侍女に呼びに行かせた隻眼が来るまでと待っていたが、もういいだろう。イングラムの瞼を閉じ、口元も拭いて死に顔を綺麗にしてやる。
「……すまない。情が移っていたか」
隻眼の言葉に、俺は首を振る。
「多少はな。だが……そうではない。この男は死ぬべき男だった。殺した事に、後悔はない。だが……」
この死に顔には、見覚えがある。愛するものに裏切られ殺された哀れな男の顔だ。
父よ。今更、愛されていた事を知るなんてな。
「だが……俺は思い知ってしまった。マクスウェルも、俺も……俺の父もイングラムも……思い知ってしまった」
隻眼が俺の側に来て、そっと肩を抱いた。その胸板に顔を埋める。
「愛とは裏切り、そして、裏切られるものなのだと」
※※※※※
謁見の間には、ずらりとこの国の政治家や軍将校が並んでいる。
皆、困惑していた。
当然だろうな。
自分達が尻穴を散々性欲処理に使った男が、再び皇帝になるのだから。
玉座は空席だ。隣の王妃の椅子に、俺は薄衣の肌着一枚の姿で座っている。
「……この場に居ないものは、もうこの世の何処にも居ない。ここにいるのは……俺を抱いた事があるものだけだ。俺を抱かない男は処刑した」
騒めきが謁見の間を満たす。
俺の後ろに控えた隻眼がぎらりと睨みを利かせ、手にした槍の柄でドンと床を打つと、急にシンと静まり返った。
「王座が空いているだろう?知っての通り、俺はもう雌だ。誰でも好きに抱いていい娼婦だ。昼は国によく仕えて働き、夜はこの身を満足させ、俺に愛された男は、そこに座る事ができる」
顔を見合わせている男達は、どう反応したら良いのか分からないだろう。
まあ、それはそうだろうな。
まさか、皇帝が今まで通り娼婦の真似事をするなど理解出来ないだろう。
だが……俺はもう、男無しでは駄目だ。性欲処理に使われる快感が、俺の身体の隅々まで染み込んでいるのだ。
だから、それを利用しようと思う。
「なんだ。貴様等……あれだけ俺を抱いて、俺を愛していないのか?」
「愛しています!!」
真っ先に叫んだのは、財務大臣こと労働する豚だ。爛々と目を光らせ、丸々した頬を紅潮させている。
「ほう。なら……今夜は、お前にしよう。あとで部屋に来い。久しぶりに可愛がってやる」
やはり可愛い奴だ。
労働する豚に負けじと、他の男どもの目の色が変わる。
そうだ。貪れ。野心を、俺の身体を、愛を。
「デイトリヒ。そろそろ、時間だ。今度は国民へのスピーチだから、服は着ろ」
隻眼がこそっと耳元で言う。
隻眼は、俺の新しい近衛兵団の団長だ。
「ああ。分かった……そうだ。一つ聞きたい。貴様の養い親の姓はなんだ」
「……ブェルナルだ」
「よし、ならば貴様はブェルナルだ。マクスウェルを名乗るのは止めろ。貴様に伯爵位を授ける。新たにブェルナル伯爵家を作るのだ……養い親の家名を絶やすな」
ブェルナルは目を見開き、精悍な顔をくしゃりと歪めた。眦には、涙が滲んでいる。
復讐が終わった時より、嬉しそうだ。
「ありがとう……親友」
「気色の悪い事を言うな」
俺の肩を抱いて涙声で言うブェルナルに、本当は悪い気はしない。
親友。そうだ、我々は親友だ。
なあ、ブェルナル。お前だけが本当の友人だ。
マクスウェルの幻想はその名と共に、俺の愛を道連れにして潰える。
そして、俺はようやく……あの嘘つきな老人の偽りの愛から、あの堕ちた英雄から。
解き放たれるのだ。
堕ちた英雄 完
俺の首につけられた首輪から続く細い鎖が、揺れるたびに硬い音を鳴らす。
鎖の先はどこにも繋がっていない。
これはただの『飼い犬の証』だ。
「んひ、あ、あー!ああっ!ぐ、あ、あー!」
犬のように床の上で這いつくばらされ、俺は後ろから激しく犯されている。
イングラムは煙草を吸いながら、自分の良いように一方的な抽送を繰り返していた。今日は、機嫌が悪い。
「ん、か、イ、イク、いんぐ、ら、…さま、イくぅ、ううっ」
毎日のようにこの男のちん×に犯されていたせいで、俺の身体はこの男の形に馴染み乱暴な行為でも快楽を貪れた。
だが、俺は許可なくイク事を禁じられている。
「主人より先にイクのは許しませんよ。性奴隷は性奴隷らしく奉仕していなさい」
「あ!ひ、むり、ぃ、あ!ちん、×がぁ、良すぎ、あ、あー!あー!」
イクなと言いつつ、急に俺の良い場所ばかりを抉り始めたイングラムは、くっくと腹黒い含み笑いを零した。
もう今にもイキそうなのを、必死に堪える。俺は泣きながら床に額を擦り付けて、出来るだけ尻の快楽を意識しないように努めた。
もちろん我慢するにも限界がある。
ようはこいつがお仕置きをしたい時の口実作りだ。
俺を甘やかしたい気分の時は頃合いを見てイッて良いと許可して、よく我慢出来ましたと褒める。
逆に痛ぶりたい時は、わざと許可なくイかせてお仕置きをするのだ。
俺のねぐらが城の離れからイングラムの寝室に移ってから、もうすぐ二カ月が経つ。もう大体こいつの性癖は理解した。
「いっ…くぅ、たのむ、い、ああっいんっぐらむ、さまぁっ!」
今日は機嫌が悪いから、お仕置きの日だ。
一旦殆ど引き抜かれた性器が、ごりゅっと前立腺を擦り上げて最奥を貫く。
ぱぁん!と、肉がぶつかる音が響くほど強くだ。
「あ゛……あぁ……っあ~~~……」
目の前が真っ白になり、情け無い呻き声がだらしなく開いた口から漏れた。つま先から脳天に電流が走り、びくんびくんと跳ねる。張り詰め切った俺の性器からは、ぴゅるっと女が潮を噴くようにカウパーが噴き出した。
もう、俺の身体は射精は必要ないのだ。
体内の肉壁もビクビクと痙攣しながらイングラムの一物を絞る。イングラムは俺の腰を強く掴むと、雌イキをしている最中の尻を更に犯し始めた。
「い、ひ!あ゛あ!や、やめ!あぐ、ふ、あぐぅ、ううぅぅっ!」
「くっ、締まってっ……また許可なく、イッたようですね。堪え性のない、娼婦め」
「い、まぁ、イ、イって、ああ、あ゛、だめ、し、あ゛あ゛っ!しぬ、ぅ、ううぅ!んああぁっ」
強すぎる快楽に、俺は呼吸すらできずにもがく。今にも意識を飛ばしそうになのを、床に爪を立て必死に堪えようとした。
ただでさえ未だに雌イキをすると絶頂の波に翻弄されてしまうのに、イッている最中に奥をガンガン突かれば、流石に慣れた身体でも悲鳴をあげる。
コントロールの効かない強すぎる快楽に、俺は涙すら流して喘いだ。
「ひあ、あああっ!イ、あっ!ああっ」
「イった後はちゃんと礼を言いなさいと、教えたでしょう」
「ひ、んっ!い、いんぐらむ、さまぁ!あ、ああっい、淫乱な、しょお、ふのぉ、しりをぉっ、あ、はあ!あっ、あっ!いく、ああー!」
「娼婦の?続きはなんでした?言葉も忘れて本当に犬に成り下がったのですか?」
いつも通りくだらん戯言を言わされそうになるが、射精が近いのかイングラムが激しく突くせいで、もうまともに言葉が出ない。力が抜け自分の身体も支える事が出来なくなっている。
もう完全に上体を床にくっつけ、イングラムが掴んでいる腰だけがかろうじて浮いている状態だ。
こんな状態で『イングラム様。この淫乱娼婦の尻を性処理に使い、イかせてくださってありがとうございます』なんて言えるか。馬鹿らしい。
「くっ、そろそろ……出しますよ、射精します……んっ」
「あ、ああっ!んあ!あーー!」
最後に深々と俺の体内を穿ち、最奥でイングラムの性器は弾けた。
びくんびくんと跳ねて、熱い精子を送り込んでくる。
その感触に、俺はまた絶頂した。視界がチカチカ点滅して目の前に星が飛ぶ。喉からは獣の遠吠えのような声が出て、身体はまるで弓のように反り白銀の髪がバサバサと揺れた。足がつりそうなくらい、つま先がぎゅっと丸まりピンと張る。
かなり強烈な絶頂だった。
「っ、あっ……っ……あ……っあ゛……」
絶頂の波が過ぎれば、俺の身体はまるで糸が切れた操り人形のように、ぱたりと床に四肢を放り出す。余韻にぶるりぶるりと身体が震え、尻の中のイングラムのきゅうきゅうと締め付けていた。
「っ……ふぅ。射精して貰ったら、なんと言うのでした?」
「……あ、……イングラム、様の……精子を、排泄して、くださって、娼婦に、仕事をくださって……ありがとう、ございます……」
俺の髪を鷲掴みにして顔を上げさせ、イングラムは嗜虐的に嗤う。
こいつは、俺が自分を好きだと思っている。
だから、わざと酷く娼婦扱いをして、俺を傷付けようとしているのだ。
俺が悲しそうに目を逸らしてやると、体内に埋まったままのイングラムの性器はぴくりと震えた。
だが、今日はもう3発出した。口の中に1発、床に出して俺に舐めとらせるので1発。そして今の中出しでだ。
流石にもう終わりだろう。
ぬるりと萎えた性器が出ていく感触に、俺は呻き声を上げた。
イングラムの顔が近づいてくる。
俺は唇を開き舌を出して誘うが、キスはしようとしない。髪をサラサラと手のひらで梳いて弄んだだけだった。
いまだにキスはしようとしない。
キスをすれば、舌を噛み切ってやるつもりでいるのだが。
「勝手にイッた悪い娼婦には、お仕置きですね」
俺は快楽に震えたままの身体を、なんとか起き上がらせる。
膝と肘が痛い。これだから床で犯されるのは好きじゃないのだ。
ベッドかバスタブの中がいいのだがな。
「……好きにするがいい。どうせ、お前になら……何をされもよいのだからな」
そんな事を言って、俺はイングラムの素足に口付けをして見せた。
従順な飼い犬の姿に、イングラムは満足している。
「困りましたね。それでは、お仕置きにならない」
首輪から繋がる鎖を引いて、俺の顔を上向かせると、こちらを見下してイングラムは愉悦に浸る。
かつての皇帝をこうして見下すのは、さぞ気持ちいいのだろう。また、イングラムの一物は半勃ちになっている。
「……私の前で、他の男達に犯され輪姦されるのはどうです」
ああ。それはいいな。正直同じちん×だけでは飽きていたところだ。違う男もたまには食いたい。
是非そうして欲しくて、俺があのオルガに同じような事を言った時の、奴の顔を思い出し真似る。
「そ、それはやめてくれ、後生だ……俺は貴様に良く仕えているだろう。今更他の男になど……」
「私以外に抱かれたくないと?貴方は娼婦なのですよ?……明日、楽しみにしていてくださいね」
「う、うぐ……うぅ……嫌だ……」
怯え、嫌悪に震えて見せる。イングラムは満足そうだ。
俺はよほど演技が上手いのか、イングラムがこう見えて鈍いのか。今の所は俺の演技を見破られた事はない。
こう易々と騙せると、たまにチラッと『イングラムを殺した後は、舞台役者でもしてみようかな』と考える時がある。
イングラムは性欲と支配欲を満たされ、床に就くことにしたようだ。
俺の寝床は、イングラムの部屋の隅だ。俺用のベッドが置いてあり、衝立で仕切られている。
俺もその寝床に引っ込もうとしたが、鎖を掴まれ引きとめられた。
「……イングラム様?」
「いえ。……たまには、朝まで奉仕しなさい」
「朝までだと。貴様……まだする気か……」
思わず呆れた俺に、イングラムは首を振る。どういう意味が良くわからなかったが、促されるままにイングラムのベッドに横たわった。
すると、イングラムは俺を隣に寝かせたまま、スヤスヤと寝息を立て始めたではないか。
少し驚いたが、俺は内心嬉しくて堪らない。どうやら、俺に絆され始めたか。
これなら、寝首を掻ける。
武器さえあれば今すぐ……だが、首輪の鎖は首を絞めるのには短いし、部屋には刃物の類はない。
俺の腕力のみでイングラムを絞め殺すのは危険過ぎる。起きて抵抗されれば一巻の終わりだ。
やはり、キスをさせて舌を噛み切るのが一番良さそうに思う。
「……添い寝だけでなく、キスをしてくれ……イングラム……」
そう呟いて、俺はイングラムと同じ毛布に入り込み眠りについた。
イングラムを殺す、楽しい夢が見れそうな気分だった。
翌朝、俺が目を覚ますとイングラムはもういなかった。
あの男は中々精力的に働いているようだ。だが、侍女の話ではあまり国民の支持は得られていないらしい、
まあ、当然だな。長く続いたアイルザンの皇帝の座を謀反で奪い、皇族でない男がその座について反発が無いはずがない。いい気味だ。
俺は昨夜の情事の痕を風呂で流し、香水をつけて部屋に戻る。
そして、部屋の片隅の姿見を覗いた。
抱かれ慣れたせいか、最近くびれができはじめ腰回りもふっくらし、女のような身体つきに変わりつつある。
髪の色艶も良いし、顔もなんだか前より妖しい美しさが増した。
自分を客観視して、ふむと唸る。
毎日毎日精子を口から尻から飲まされているせいだろうか。雌っぽくなってきた。
首輪から繋がる鎖を、指で弄ぶ。
俺はイングラムの飼い犬で性奴隷だから、服は着させて貰らえない。
イングラムに精子を餌として与えられるだけの、惨めな雌犬の姿だ。
「あいつはこれを見たら……なんと言うだろうか」
思わず呟いて、隻眼の事を思い出した。
イングラムの部屋に移る前の最後の夜。隻眼は俺の部屋に来て、別れを惜しむように抱いて行った。
いつも通りケダモノのような精力で俺を嬲り、満足した隻眼は俺に話をしてくれた。
隻眼がイングラムを憎む理由を。
「マクスウェルはたまたま知り合いだったある属国の外交官に、オレを養子にと押し付けた。子供がいない夫婦で、ずっと望んでいるが出来ないという話を聞いていたからだ。オレは反発し、養い親に懐かなかった。だが、二人は本当に根気強くオレに向き合ってくれた……。素直になれぬまま、軍人になるため家を出た。たまに手紙を出すくらいで、ろくに顔も見せない親不孝をした。そして……一昨年、義父がスパイ疑惑で投獄された。そんなはずはないと抗議したが、聞き入れられず……父は処刑され、義母が後を追って……池に身を、投げた……」
思い出すのも辛いのだろう。最後の方は、途切れ途切れに、苦しげに顔を歪めていた。それでも、俺に語って聞かせるのは、俺がイングラムを殺すための、この男の武器だからだろう。
「義父が遺した遺書には、オレへの感謝と、深い愛情が書かれていた。遺されたオレの心配ばかり書いてあった。親不孝なオレを責める言葉も、家が困窮していたことも、脅されていた事も、そこには書かれていなかった。……俺には、母は二人。父は育ての父が一人いる。その父母を殺したイングラムを許せはしない。死んで、償ってもらう。お前には、その為に力を貸して欲しい」
断る理由は無かった。
隻眼の気持ちは、よく分かるからだ。愛しい人を殺した相手が、のうのうと息をしていると思うだけで、地獄の釜で煮られているような痛苦を覚えるのだ。この身を苛む憎しみは、復讐でしか癒せない。
俺は、イングラムを殺す。
隻眼と、俺自身の自由の為にだ。
※※※※※
その晩。
部屋に戻ってきたイングラムは、やけに憔悴していた。
いつもより帰りも遅かったし、何かトラブルがあったのだろう。
「おかえりなさい、イングラム様……疲れているならば、侍女に温まる甘い飲み物でも持って来させるか?」
「いいえ……いや、やっぱり貰えますか。うんと、甘くするように言ってください」
イングラムの上着をクローゼットに吊るして片付けてから、俺は侍女を呼び甘党のイングラムが好む甘いホットチョコレートを頼んだ。ブランデーを一垂らしするのも付け加える。
奴の味の好みも、もう熟知した。
「貴様がそんな面をしているのは珍しいな」
「ええ、まあ。……軍内には、今だにルイス・ディスターが提唱した軍事政権を夢見る夢想家が居ましてね。そういう輩は、すぐに私の揚げ足を取って……いや、貴方にする話ではありませんね」
ディスターは、オルガを手に入れる為にに謀叛起こした。
色に狂った皇帝を弑し軍事政権を設立するのだと、甘言を弄し軍将校らを操っておいて、実際はオルガを連れてさっさと逃げ出したのだ。
客として訪れた将校や高官達の話では、将校達がディスターの逃亡に呆気に取られている内に、このイングラムは金をばら撒きどさくさに紛れて玉座を手に入れたらしい。
ディスターにとっては、自分に従ってくれた同胞やアイルザン軍将校の誇り、自身の正義感よりも、オルガが大事だったのだろう。
それはこのイングラムには幸運だったろうが、運などいつまでも続きはしない。
「ディスターはオルガ・ローレンスタの肉体に狂った色情魔だ。奴が国を治めるよりは、イングラム様の方がまだマシだろうな」
これは割と本心だ。
だからだろう。イングラムの表情も少し和らいだ。寝台に腰掛けたイングラムは侍女の持ってきたホットチョコレートを飲んで、ふうっと溜息を吐く。
「そういえば、他の男を連れてくるんではなかったのか?」
「期待していたのですか?嫌らしい娼婦だ。貴方こそ、色情魔ではありませんか」
「ふん。聞いただけだ」
本当は期待していたが……そんな余裕はなかったのだろう。イングラムの疲れた横顔を見ると、そう感じた。
イングラムがホットチョコレートを飲む間、手持ち無沙汰な俺はとりあえず足元に座り込みイングラムの股間に顔を埋めた。
今日は風呂には入って来ていないようだ。珍しい。
久しぶりに雄臭い匂いを嗅いで、興が乗ってくる。前を寛げて萎えた性器を取り出すと、舌を絡めて匂いと味を堪能した。
「……汚いですよ」
「はっ……今更だな。貴様の部屋に来る前複数の客と寝ていた時には、わざと汚して来た馬鹿も居た。舌で綺麗にしてくれとな……それに……たまにはこういうのも興奮していいだろう」
萎えていた一物も、俺が匂いを嗅いだり下の袋まで舌を這わせて愛撫している内に、硬く芯を持ちはじめる。
「はぁ……イングラム様のちん×の匂い……」
わざとうっとりと呟いてやると、たらたら我慢汁が漏れ出した。素直なちん×は可愛いものだ。
ちゅうちゅうと我慢汁を吸い取り、美味しそうに飲み込んでやると、イングラムは熱い目で俺を見下ろしてくる。
そして、いきなり俺の胸元にホットチョコレートをバシャっと零して来た。
「熱っ……おい!火傷をしたらどうする!」
「冷めて来ていましたから大丈夫ですよ」
確かに、幸い火傷するほどではなかった。だが、熱い飲み物を俺にかけるなど、許せん。
胸元から下腹部に、チョコレートが垂れて汚れてしまう。ベタベタになってしまうなと苛立っていると、イングラムは鎖を引いて俺をベッドの上に乗るよう促した。
「待て。こんなベタベタではヤれな……んあっ」
イングラムは俺を組み敷くと、胸元のチョコレートに舌を這わせて舐めはじめる。この男にこんな事は初めてされた。
「甘くて、美味しいですよデイトリヒ」
そう言って、乳首をべろりと舐められて、ちゅっと吸われる。
つい、甘い吐息が漏れてしまった。
身体に付いたチョコの汚れは、全てイングラムの舌が拭い唇が吸い取る。
俺は身をくねらせながら、されるがまま喘いだ。
綺麗になった時には、俺は欲情しきってしまっていた。久しぶりに念入りに前戯された身体は火照り、尻はパクパク口を開けてこっちにもくれと強請っている。
「あ、……はぁ……イングラム、様ぁ……早く、ちん×を挿れてくれ……」
うつ伏せになり腰を上げ、その物欲しげな後孔を見せつけて誘う。そのまま挿れるかと思ったが、イングラムは俺の身体をひっくり返し、腿を掴んで足を開かせると正常位で覆い被さってきた。
「……顔を見せてください」
「あ、あーっ、入るっ…んあ!」
ぐぷぷっと、太い陰茎が俺の肉を割って身体の奥深くまで進入する。この挿入の瞬間は本当に気持ちいい。
「いやらしい顔をして……何人咥えこんだら、あのデイトリヒ様がこんな淫乱娼婦に……」
イングラムは俺の頬を撫でると、顔をじっと見下ろしながら激しく腰を振りはじめた。
ガツガツと恥骨がぶつかるほど強く揺さぶられ、前戯で蕩けた俺の身体は喜んでびくびくと跳ねる。
「ん、あっ!はあっ、い、いいっ!あーっ!い、イングラム、様ぁ!」
「可愛い、乱れた貴方はっ、可愛い。だから、悔しいのですっ!一体何人この中に出した……私以外のっ!何人の精子をこの尻で受け止めたんですか!」
「ふ、あぅ!わ、からなぁ、あん!ひゃ、百じゃ、ああっ!きかな…っ」
「100!?」
驚いたのか、イングラムの腰が止まる。
当然それくらいはいくだろう。下男どもや城に出入りしている下賤の輩まで俺の尻を使って精液を排泄していたのだからな。
初めて輪姦された夜だけで、十人以上の相手をさせられた。入れ替わり立ち替わり中に出されて犯されて。やっと解放された後、擦られすぎて閉じない血塗れの尻穴から、馬鹿らしい量の精子が溢れてきて憎悪と嫌悪に死にそうなくらいだった。
それからも、毎日毎晩男どもに嬲られてきたのだ。百人どころでは効かないだろうな。いちいち数えていないが、千人を超えていても驚かない。
「嫌に、なったか?俺を……こんな、下男どもの精液便所にまで堕ちた俺を、もう抱けはしないか?」
ゆるゆるとイングラムは首を横に振った。
ぎゅうと俺を抱きしめて、またゆっくりと抽送を再開する。
「ふっ!ああっ!奥、がぁ!いあ、ああっ!」
「初めからっ、私の寝室に囲えば良かった!ああっ、デイトリヒ」
「ひあ?ああっ!や、あっ!あっ?」
こいつは、まさか。
イングラムの悲しげな、後悔の色に染まった瞳が俺を見詰めている。
愛おしむように、全身にイングラムの手が這う。
ゾクゾクした快楽を覚えて、俺は甘い声を上げて身体を震わせた。思わず、イングラムの背中に手を回して抱きしめる。
胸板が密着した状態で一番奥をぐりぐり抉られ、俺はイングラムの肩に顔を埋めて喘いだ。
「んっ!はぁっ!あ、い、イクっ!いん、ぐらむっ、さ、ああ、あー!イっ!イクっ!」
イングラムの肩越しに俺の足がピンと伸びたのが見えて、すぐに激しい絶頂に視界は白く染まり何も分からなくなる。
「くっ、締まる……もう、射精もしないで、イキ狂えるほど……こんな身体になる前に、私が……私が……」
勃起した俺の性器からは、白濁混じりのカウパーはダラダラ垂れているが、射精には至らない。俺は射精まで時間がかかる。だが、隻眼の調教のせいで、尻を犯されるとすぐに雌イキしてしまうようになった。
イングラムはそんな娼婦として躾けられた俺の肉体を、喜んで貪っていたはずだ。
だが、今イングラムは俺に憐憫の目を向け、労わるように身体を撫でている。
「……デイトリヒ……好きです」
その言葉に、しばしぼうっとイングラムを見上げて、そういえば俺はこの男に惚れている設定だったと思い出す。
なんだか、上手くやれている自信がないが、俺は泣き笑いの顔をしてイングラムの腰に足を巻きつけた。
ボロボロと頬を涙が零れ落ちていく。これは演技の涙なのか、本物なのか分からない。
「出してくれ、イングラム様の精子が欲しい……娼婦のデイトリヒにではなく……ただのデイトリヒに、お前の精子をくれ……」
イングラムは頷いて、俺の首筋に吸い付いて痕を付けながら腰を揺さぶる。
今までとは違う。
耳朶を優しく噛まれたり、キスマークをつけられたり、まるで昔マクスウェルに抱かれた時のような、労りと愛情に満ちたセックスだ。
「あ、ん……あー、き、もちい、ふ、んんっ」
「ああ、私も……私も気持ち、いいよ。デイトリヒ……」
胸が痛む。
優しく触れる手が、俺を癒そうとしているのが分かる。何故急にこうなるのだ。貴様は傲慢なサディストだったろう。
俺の戸惑いなど、色狂いの俺の尻には関係が無いらしく、また絶頂感がこみ上げてきた。
「ああっ、はっ!い、イ、イき、そ…あー、もう、うあっ、イく…」
「……デイトリヒ、私を好きですか?」
「っ!す、好き…、い、ああ、いんぐ、……」
「私も、いつの間にか、貴方を……好きになってしまった」
イングラムは俺を強く抱きしめて、射精に向けて抽送を激しくする。ばちゅばちゅと湿った淫猥な音が、イングラムの囁きと共に俺の鼓膜を揺らす。
頭がイかれてしまいそうだ。
「あ、ああ!せ、セシルっ!セシルぅ!好き、好きだ、あ、あー!」
今まで呼んだ事のない、イングラムのファーストネームを連呼して、好きだと喚きながら俺はよがり狂った。
体内のイングラムの熱も、今にも弾けそうに張り詰める。
「っふ、う!デイ、トリヒ!愛してる、デイトリヒっ!私の、可愛い…デイトリヒ」
「ひぐ、い、あ!あああ!」
イングラムの背中に爪を立てて俺がイッたと同時に、熱い精子が腹の奥で噴き出した。びくびくと跳ねるイングラムの性器を、俺の身体が喜んで搾り精子を一滴残らず吸い取ろうとする。
密着したイングラムと俺の腹の間で、俺の性器も白濁を零していた。いつもより、早い。
「っあ……っ……あー……」
余韻に浸り声も出ない俺の頬に、イングラムの唇が触れる。
こんな気分だったのか。
マクスウェル、お前もこんな気分だったのか?
自分を愛してくれる男に、惚れたと嘘をついて抱かれる気分は。
こんな……胸糞の悪い……寂しい気分だったのか?
「これからは、私だけだ……デイトリヒ」
イングラムはそう言って、俺の唇に自分の唇を重ねた。
熱い舌が、歯列をなぞる。口を開き受け入れた。イングラムの舌は煙草の味がする。それを絡ませあい、二人分の唾液を飲み込む。お互いの髪に指を絡ませ頭を支え合いながら、じゅるじゅると淫らな水音を立て深く深く唇を貪りあって、そして、俺はイングラムの舌を口内深くまで吸い込んで。
噛み切った。
「……終わったか?」
隻眼の声に、俺は顔を上げた。
「酷い顔だ」
それは、そうだろう。
俺は寝台の上で、イングラムの亡骸の頭を膝に乗せている。口元からは大量の血が流れ、寝台は赤く染まっていた。
裏切りの絶望と死の恐怖に染まったイングラムの死に顔を、隻眼はちらりと見る。
「……思ったほど、すっきりとはしないものだ」
「当たり前だ……」
侍女に呼びに行かせた隻眼が来るまでと待っていたが、もういいだろう。イングラムの瞼を閉じ、口元も拭いて死に顔を綺麗にしてやる。
「……すまない。情が移っていたか」
隻眼の言葉に、俺は首を振る。
「多少はな。だが……そうではない。この男は死ぬべき男だった。殺した事に、後悔はない。だが……」
この死に顔には、見覚えがある。愛するものに裏切られ殺された哀れな男の顔だ。
父よ。今更、愛されていた事を知るなんてな。
「だが……俺は思い知ってしまった。マクスウェルも、俺も……俺の父もイングラムも……思い知ってしまった」
隻眼が俺の側に来て、そっと肩を抱いた。その胸板に顔を埋める。
「愛とは裏切り、そして、裏切られるものなのだと」
※※※※※
謁見の間には、ずらりとこの国の政治家や軍将校が並んでいる。
皆、困惑していた。
当然だろうな。
自分達が尻穴を散々性欲処理に使った男が、再び皇帝になるのだから。
玉座は空席だ。隣の王妃の椅子に、俺は薄衣の肌着一枚の姿で座っている。
「……この場に居ないものは、もうこの世の何処にも居ない。ここにいるのは……俺を抱いた事があるものだけだ。俺を抱かない男は処刑した」
騒めきが謁見の間を満たす。
俺の後ろに控えた隻眼がぎらりと睨みを利かせ、手にした槍の柄でドンと床を打つと、急にシンと静まり返った。
「王座が空いているだろう?知っての通り、俺はもう雌だ。誰でも好きに抱いていい娼婦だ。昼は国によく仕えて働き、夜はこの身を満足させ、俺に愛された男は、そこに座る事ができる」
顔を見合わせている男達は、どう反応したら良いのか分からないだろう。
まあ、それはそうだろうな。
まさか、皇帝が今まで通り娼婦の真似事をするなど理解出来ないだろう。
だが……俺はもう、男無しでは駄目だ。性欲処理に使われる快感が、俺の身体の隅々まで染み込んでいるのだ。
だから、それを利用しようと思う。
「なんだ。貴様等……あれだけ俺を抱いて、俺を愛していないのか?」
「愛しています!!」
真っ先に叫んだのは、財務大臣こと労働する豚だ。爛々と目を光らせ、丸々した頬を紅潮させている。
「ほう。なら……今夜は、お前にしよう。あとで部屋に来い。久しぶりに可愛がってやる」
やはり可愛い奴だ。
労働する豚に負けじと、他の男どもの目の色が変わる。
そうだ。貪れ。野心を、俺の身体を、愛を。
「デイトリヒ。そろそろ、時間だ。今度は国民へのスピーチだから、服は着ろ」
隻眼がこそっと耳元で言う。
隻眼は、俺の新しい近衛兵団の団長だ。
「ああ。分かった……そうだ。一つ聞きたい。貴様の養い親の姓はなんだ」
「……ブェルナルだ」
「よし、ならば貴様はブェルナルだ。マクスウェルを名乗るのは止めろ。貴様に伯爵位を授ける。新たにブェルナル伯爵家を作るのだ……養い親の家名を絶やすな」
ブェルナルは目を見開き、精悍な顔をくしゃりと歪めた。眦には、涙が滲んでいる。
復讐が終わった時より、嬉しそうだ。
「ありがとう……親友」
「気色の悪い事を言うな」
俺の肩を抱いて涙声で言うブェルナルに、本当は悪い気はしない。
親友。そうだ、我々は親友だ。
なあ、ブェルナル。お前だけが本当の友人だ。
マクスウェルの幻想はその名と共に、俺の愛を道連れにして潰える。
そして、俺はようやく……あの嘘つきな老人の偽りの愛から、あの堕ちた英雄から。
解き放たれるのだ。
堕ちた英雄 完
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