恋をする

波間柏

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21.恋した先は

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「それで全部?」
「多分」

 私は気を失っている間に体験した数々をランスに話した。窓からは朝日が差し込んでいる。

ついに朝になってしまった。

 ソファーに座った私達の周りは凄いことになっていた。

 あの石の解除と私の魔力の暴走で、ランスが帰る為に溜めていた力を使い、すぐ結界とやらを張ってくれたらしいけれど。

 丸テーブルに置いたはずのコーヒーカップは床に落ち割れ、観葉植物の鉢は倒れ土が床に散らばっており、貝のモビールは砕けていた。

 片付けなきゃ。でも、そんな体力は残ってない。

「ホノ」

 ほんやりとしてたのか、ランスに呼ばれ彼のほうに視線を向ける。

相変わらず真剣な表情だ。

「もし、俺とザーキッドへ行くとしたら何が気になる? 何が心残り?」

 夢じゃないなら選択肢なんてないはずなのに彼は優しい。

心残りな事。

 寝不足と疲労感で、働かない頭で考えてみる。

「…その異世界に何の資格も知識もない私が行って生活できるのか。友達の花音や来年受けようとしていた資格の試験。永代供養だけど母や祖父母の眠るお墓」

一番は。

「──この家」

 私にとってこの別荘は、今はいない人達との思い出が沢山つまっている。ランスが、急に立ち上がったかと思ったら、今度は私を抱き上げた。

「な、何?」
「とりあえず聞きたい事は聞けたから。ホノは一度寝て」

 ずんずん階段を上がり私の部屋に入るねと言い、ベッドにおろされた。

 こんな状態じゃ寝れないよ。そう思ったら手を握られた。

「寝るまでいるから目を瞑って」

 私は、寝れる気分ではないけれど疲れて文句も出ないので仕方なく従い目を閉じた。手を握られ緊張するかと思ったら、なんだか安心感がある。

温かい大きな手。

 私は、いつの間にか寝ていた。はっと目を覚ましたら周りは真っ暗だった。急いで起き上がり電気をつけ、時間を確認する。

 もう夜の9時だ。急いでシャワーを浴び、少しスッキリしたところで下へ降りる。

「嘘」

 リビングは、何もなかったかのように綺麗に元に戻っていた。キッチンではランスがお茶をいれている途中らしく、こちらに気付きニッコリ笑う。

「顔色がよくなってよかった」

 なんかスッピンで申し訳なくなってくる。

「少し食べれる? どうぞ」

 お腹すいたと言ったら、おにぎりとお味噌汁が出てきた。

「おにぎりの中身は、鮭、おかか、梅干しで味噌汁の具は、大根、豆腐、ワカメ」
「…美味しい」
「よかった」

 微笑む彼。おにぎりはご飯部分に少し塩を使っている。お味噌汁もだしをとってあった。

一度見せただけなのに完璧だ。

間違いない。

 ランスはとても良いお母さんになるだろう。

「あれから色々考えたり調べてみたが」

 カウンターテーブルに座る私の隣で湯飲みを持つ彼はなんかジジくさい。

「まず、ザーキッドに行った際には基礎知識は学べばいいし生活は仕事をしたいなら、確実にその魔力だと魔術士で食べていけるというか、国が君を手放さないだろう」

 まあ訓練は必要だけどと付け加える彼。

「住む所は、一緒に暮らしたいけれど正式に婚約してからになるから暮らすのはヒュラルの屋敷かな」

なんか、ひっかかる。

「何故そこでヒュラルさん?」
「ヒュラルは、父親が急死して現在ターナ家の当主だよ。ヒュラル・ヴィ・メルト・ターナ。ホノの血縁者だし、彼は魔術に優れているから教わればいいと思う」

…えっ。

 あの派手美女が親戚? 私の動揺なんて気づかないランスは話は続く。

「それと隣国に平和を保つ為に嫁ぐはずだった消えたひいおばあ様の後の状態だけど」

そう。

 見せられた映像の中で後半に曾祖母が気にやんでいた場面があったのだ。

「確か歴史書には隣国との戦はなかったけれど、その時期内乱、クーデターが起きて王は倒されたはずだ」

 そっか。よかったというべきなのか微妙だけれど。

「あと、友達とは恐らく二度と会えなくなるし、お墓は運べるなら持っていけるけど難しい。試験は、向こうと此方では全く違うから諦めるしかない」

ですよね。

「で、最後にこの家だけど。庭は難しいけれど家ごと転移できると思う」
「嘘?!」
「本当」 

 被せるように言われた。つい興奮してランスに近づきすぎ、慌てて離れようとしたら逆に引寄せられた。

「地下のこの家の中心部に盤をはめ込む箇所があった。ひいおばあ様とおじい様は何か予感していたのかもしれない」

ランスにひたと見つめられて。

「…明日一緒にきてくれる? ホノと生きたい」

なんで不安そうに聞くの?

 ランスは、急に私から離れると目の前で片膝を床につけた。彼は、私に彼と同じ瞳の色のピアスを片方耳から外し私に渡した。

見上げてくる視線が強すぎるよ。

「ホノの国では指輪だけど俺の国では、プロポーズには自分の瞳の色のピアスに魔力を溜め片方渡すんだ」
「えっ?」
「こんな不安な気持ちの時のホノに狡いのは分かっているけれど、誰にもホノを盗られたくない」

頭が追い付かない。

「俺の家柄では、まして爵位を継がない俺が、公爵家の君とは、まったく釣り合わないけれど。いつか他の男の隣にいるホノを見るのは嫌なんだ」

……なんか、こんなちっぽけな私がお姫様になった気分です。

 なんて言っていいか言葉がでず、無言で彼が差し出してきたピアスを久しく何もない耳につけた。

 途端に体が宙に浮き、気づけば持ち上げられていた。

高い高いのように。

怖い!

「降ろして!」

そのまま強く抱きしめられた。

「スッゴイ嬉しい!」

なんか、もう君に負けたよ。
ううん、私もなんか嬉しい。




*~*~*


次の日の夜。
夜空には満月が輝いている。

私は昼間ずっと大忙しだった。

 お墓参りに行き、出来る限りの手続きをこなし、できないのは海外にいる花音にメールでお願いした。

 彼女はズボラだから、まだメールに気がついていないだろうけれど。お金も彼女に送り、残りは寄付した。

あぁ。

花音は、信じてくれるだろうか?

 きっと彼女も来たことがあるこの別荘がなくなっているのを見たら驚愕するだろうな。他の誰も信じてくれなくていいから、花音だけは、信じて、そして私を忘れないで欲しいな。

「ホノ」
「うん。行く」

 家の窓は月の力を取り入れる為に全て開け放たれている。

 私とランスは地下に降り、中央のはめられた盤に近づいた。

「盤に触れて」

 ランスに言われて恐る恐る手を盤に伸ばす。もう逃げ場はないのに、往生際が悪く私は震えていた。

不意に手が温かくなる。

 盤に置いた私の手の上に被せるようにランスの手が置かれていた。

「絶対、大丈夫」

 なんの根拠もない彼の言葉。でも、信じられる気がした。

「飛ぶ」

 ランスの言葉の直後、強烈なオレンジ色の光に包まれる。

一人じゃない。
隣にはランスがいる。

 私は、新たに動き始めた人生を信じ目をつぶった。





~ END ~


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