上 下
9 / 14

9.街へ遊びに

しおりを挟む

「色が統一されていて綺麗というか可愛いなぁ」

 街の屋根は赤茶色で壁はクリーム色の建物が大小並びカフェや洋服屋さんらしきものが軒を連ねている様子にわくわくする。

「行きたい店などはありますか?」
「あり過ぎて迷います」

 今日は、初めて街に来ていた。いわゆる異世界体験日である。チラリと隣を見上げれば、白シャツ姿でラフな格好のフェリスさん。イケメンオーラが凄い。ずっと眺めていられそう。

「まだお腹はすいてませんよね。ならば遠い場所から見ていきますか」

 ハッ!これでは変態、いやストーカー予備群ではないか。

「はい!」

 あまり聞いていなかったが、返事だけは元気にしておく。

「あと、本当に大丈夫ですか?」

 大丈夫とは何だろう。あ、体調とか持ち物などかな。

「えっと、お金も少しだけどあるし靴も侍女のメイリーさんに聞いて疲れにくい靴を選びました。あとは、昨日は早めに眠れたので元気です」
「そうではなくて。いえ、睡眠をとれたのは良かったです」

違ったのかな?

「私の隣にいて不愉快な気持ちに」
「なりません」

 最後まで聞かずに応えた。なかなか根深いのかな。嫌な思いをしてきたのかな。

「正直、私は、元の世界では非常に地味な人間です。運動神経もよくないし不器用だし。短所ばっかりで大人になった今もへこんでいます」

 大人になったからって中身は変わりたくても変われないと痛感している。

「でも、こんな駄目な奴でも職場ではフォローしてくれる人もいるし、少ないけど友達と呼べる人もいます。一人でも繕わない自分の側にいてくれる人がいれば、それは、とても幸せだと思うんです」

 彼氏とかじゃなくて、そういうのも通り越し歳も性別も立場も関係ない。近ず離れず、どうしても苦しくなった時に、いつの間にかいる人。

「フェリスさんは、一見近寄りがたいけど話せばとても話しやすいし居心地がいいです。友達になってもらえませんか?」

…あれ?

「あの、嫌だったら潔く引き下がります。フェリスさんからすれば異世界人だし、短所ばっかだし」

 固まったままのフェリスさんの視界に入るように、勇気をだし、彼の前に移動してみたら。

「──すみません。あまりにも飾りのない裏のない言葉に驚いて」

私を見る目は、なんだか揺れていた。

「良かった。嫌われてないって事ですよね。なら、改めてよろしくお願いします」

 右手を差し出せば、ためらうように大きな手が伸びてきて。何で寸前で停止しちゃうの?

「えいっ」

 戻されそうな動きに逃さないぞと手を掴んだ、いや握ったんだけど。

 私は、こういうやり取りに慣れていなかった。

 大きなゴツゴツした指、戸惑いながら握り返してくれた力は、加減をしてくれているはずだけど力強い。


 怖いもの見たさで見上げれば、イケメンのちょっと微笑んだ笑みに息が止まりそうですよ。

「いやー、有名なスターと握手している気分だ」

 私の言葉を理解していないはずなのに、彼はクスリと笑った。なんだか余裕そうですね。ムッとしてもしょうがないので先へ進む事にしました。

「では案内をお願いします」
「はい」

 貴重な時間は有意義につかわないとね。私は、フェリスさんに興味がある雑貨を話し始めた。



*~*~*



「これは使用済みの魔石を加工した品々ですね」
「使用済みだなんて見えないです」

 何店かまわった後、露店で足を止めた私に合わせてフェリスさんも品物を眺めている。正直、魔石がよく分からない。なんか良い石なんだろう。並べてある装飾品は、どれも素敵なのでなんら問題ない。

「えっと、そろそろご飯食べたりしましょうか」
「見なくてよいのですか?」

 気になっているのがバレている! しかし、お昼ご飯を考えると既に幾つか購入したのでお金の残りが不安なんです。

「はい。目が疲れてきたので休憩したいかなと」
「では食事をしに行きましょうか。苦手な物はありますか?」
「だいたい大丈夫だとは思いますが食材の名前もまだ把握してないので…あまり辛いと苦手かなぁ」

 未練たらたらだけど、フェリスさんとご飯の話をしながら、その場を後にした。




*~*~*



「疲れましたか?」
「大丈夫です」

 無口になったであろう私の様子に正面に座ったフェリスさんが、心配そうに顔色を覗われている。

 違うんです。体調は万全です。ただ、懐のお財布が悲鳴をあげております。昼食は、まさかの個室だったなんて。

「あの、食べる前からこんな事いうのは失礼なんですが、予算が…」

 無理してないかと気遣われて流石になと恥だけど伝え顔色を伺う。

「なんだ、早く仰って下さればいいのに」

 馬鹿にはされていないけど、でも笑っているその顔にちょっと膨れてよいでしょうか。

「そんな顔されなくても…すみません。体調がすぐれないのかと思っていたので」

 私の、不満な視線を受けフェリスさんは、直ぐに謝りにかかった。素早いな。

「此処は知り合いの店なので。そもそも貴方に出させるつもりはありません」
「知り合いの方。いえ、でもワリカン、通じないか。半分出します。もし足りなかったら後日にでも」

 帰る迄あと少しだけど治癒の仕事はまださせてもらう予定だし。

「いえ、誘ったのはそもそも私なので」
「それとこれとは」
「お待たせ致しました」

 押し問答の決着がつかないまま食事が運ばれてきて、争いはなんとなく中断になった。

「美味しそう」

 コースのようにスープから始まりと予想していた私は、順番なんてものはなく、料理が仕上がった順に運ばれてきているようだ。

「とりあえず冷めないうちに食べてしまいましょう」

その案に反対をする人はいないよね。

「そうですね。休戦します」

 アッサリ過ぎですか? いえ、いいんです。食べ物は出来たてを頂きましょう! またフェリスさんが笑っているような気配がしたけれど無視して食べ始めた。




*~*~*



「はぁ。美味しかった」

 私は、食べました。食べ過ぎて苦しい。

「口に合ってよかったです。ミヤビ様は、味だけでなく料理の見た目にも興味があるのですね」

 眺めがよい場所に寄ってから帰りますかと提案され、食後の運動がてらお喋りしながらのお散歩である。

「癖といいますか、観察してしまいますね」

 調理形態や盛り付けは気になる。職業病という病だ。

「私がいる所より形態が大きいなと感じます。野菜の色も此方の国のが濃いので盛り付けの時は、器が無地のほうが映えますね」
「食事の器ですか。あまり気にかけた事がないかもしれません」

まぁ、普通そうだよね。

「もう少しです。足元に気をつけて下さい」

 彼が言うように補整されていた足場が徐々に申し訳程度になってきた。此方に来てだらけていたせいか、上り坂は息が上がる。

「おおっ、いい眺め」

 急に開けた場所にでれば、街の屋根とその先には森、さらにずっと先には海が。まだ明るいからかよく見えて嬉しい。

 建物が低いのもあるよね。視界がとても広がる。

「最近は来てませんでしたが、以前は頻繁に此処で眺めていました」

 同じ景色を眺めている横顔は、とても穏やかにみえて。非現実的な光景に動揺した。

「仕事、向いてないんだろうな」

 小さく呟いたはずだけど、私の目を見る彼の視線で聞こえてしまったかと気まずい反面ちょっとでも良い案があるかなと期待する自分もいた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~

通木遼平
恋愛
 この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。  家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。 ※他のサイトにも掲載しています

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

転生悪役令嬢、物語の動きに逆らっていたら運命の番発見!?

下菊みこと
恋愛
世界でも獣人族と人族が手を取り合って暮らす国、アルヴィア王国。その筆頭公爵家に生まれたのが主人公、エリアーヌ・ビジュー・デルフィーヌだった。わがまま放題に育っていた彼女は、しかしある日突然原因不明の頭痛に見舞われ数日間寝込み、ようやく落ち着いた時には別人のように良い子になっていた。 エリアーヌは、前世の記憶を思い出したのである。その記憶が正しければ、この世界はエリアーヌのやり込んでいた乙女ゲームの世界。そして、エリアーヌは人族の平民出身である聖女…つまりヒロインを虐めて、規律の厳しい問題児だらけの修道院に送られる悪役令嬢だった! なんとか方向を変えようと、あれやこれやと動いている間に獣人族である彼女は、運命の番を発見!?そして、孤児だった人族の番を連れて帰りなんやかんやとお世話することに。 果たしてエリアーヌは運命の番を幸せに出来るのか。 そしてエリアーヌ自身の明日はどっちだ!? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

処理中です...