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9.どうして
しおりを挟む「私、何かしちゃったのかな」
土曜の朝だというのに網戸にした窓からは、生ぬるい風が入り、外は雨が静かに降っている。
「もうすぐ梅雨かぁ」
どんよりとした天気とは裏腹に紫陽花は綺麗な薄い水色の花を咲かせ始め、葉は雨に濡れて青々としている。植物にとっては嬉しい雨なんだろうなぁ。
ごろんと仰向けになり考える。
あのラスティ君の様子が変になり、私が気を失った日以降、二回グランスへ行ったけれど、ラスティ君に会えなかった。一回目は留守、二回目は体調不良。
避けられている気がするのは気のせいかな。
なんかモヤモヤする。壁に掛かっている時計を見れば、まだ約束の時間までかなりある。
「よし! 早めに行って部屋に突入するか」
私は腹筋でえいっと起き上がらせ、立ち上がりかけた。その時、外からした鋭い鳥の鳴き声でまた庭に目を向けた。
──そうだ。
私はお土産を追加することにした。
「まあ!どうされたんですか?!」
「え~っと…。ラスティ君を捕まえる為に勝手に早く来ちゃいました!すみません」
いつも花畑まで迎えに来てくれているダリアちゃんが玄関で大声を出したので、私は、シー!と人差し指をたて、声量を抑えて下さいとお願いした。
だって、せっかく気合いをいれてきたんだし!
私は、ダリアちゃんにラスティ君の部屋に乱入する旨を伝え忍び足で階段を上がり、ドアをノックすると同時に開けた。
「おはようございます!」
今日ばかりは、あのウチのお兄と同じ手をつかった。
「ギャア!ごめんなさい!」
でも返り討ちにあったのは私の方だった。
ラスティ君は、上半身裸だった。
「わざとじゃないから!ん?わざとになるのかな?」
否定してみたけれど、奇襲をかけたのは私だ。
「あっ」
見ないように目を逸らしたけれど、その時両腕に目がいった。いつも包帯がされているそこは。
──真っ黒だった。
思わず固まったわたしに。
「気持ち悪い物を見せてしまいました」
確かに、気持ち悪くないって言ったら嘘になる。
だけど、それより──。
「痛くないの?」
「…今はそれほど。触れないで下さい」
私は、勝手に手が伸びていて、ラスティ君の左腕に触れていた。それほどってことは痛いんじゃない!
見るからに痛そうだよ…。
治らないのかな?
「ユイ、離して下さい」
「あっゴメン!」
初めて呼び捨てされた事に後で気づき、なんかそわそわしたけれど、その時気づかなかったのは、それよりも驚く事があったから。
私が慌てて触れていた手をどかした箇所が、白く、綺麗な肌になっていたのだ。
「えっ、ラスティ君!この部分色がっ!もしかして私?」
わからないけれど、私が触れた箇所が指の形くっくりに元の肌になっているのなら、治せる?
私は、興奮し嬉しくて笑顔でラスティ君に話しかけてみれば。
…険しい顔をした彼だった。
そして吐き捨てるような口調で。
「余計なことを」
どうして?
なんでそんなに苦しそうな顔をしてるの?
わからないよ。
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