気がつけば異世界

波間柏

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37.ラジウスSide

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「とりあえず目的地付近で待ちましょう」
「ああ」
「ラジウス様」
「ああ」

パァン

「情けない。しっかりなさい」
「リ、リアンヌ様!」
「よせ。俺が悪い」

 ラウルがリアンヌに向け剣の柄に手をかけたのを見て再び制した。

「悪い」

 彼女は、上の空の俺の頬に軽いとはいえない衝撃をしかけ、更に二発目をくらいそうになり、それを術ではねかえした時点で俺はやっと我にかえったのだ。

 こんな事で動揺を態度に出すなど、戦だったらどうなる事か。

明らかに私の失態だ。

 あぁ、どうやら俺はユラに相当溺れているらしい。

「ククッ」
「ラ、ラジウス様?」

 思わず漏れ出た笑いにナウルは気味悪がっているようだ。私も自分で驚きだ。

さて、どうするか。

「キュウ…」

 ダーウを海面に一時停止させ、海の魔獣を倒しながらも、小さなヒュラウは、己の主を海に突き落としてしまった。

 ノアと名付けられたヒュラウは、攻撃的な態度を一変させ、リアンヌの腕の中で小さく身を縮めている。

「なるべく早めに彼女を見つけ合流しなければならない」

 リアンヌの言うように、地の国に入る前にある街は、情報ではかなり規模が大きく歓楽街もある為、治安は場所によっては悪いだろうが、出入りが多いという事は目立ちにくいだろう。

「地に入る前、確か街は、バージュと言ったか。そこで待機する。リアンヌ、街に入る前に髪の色を変える。それと俺の魔力は高すぎ目立つからカバーをかけてくれ」
「カバーって、ラジウス様の魔力を封じるのですか?そんな事が可能なんて」

 ナウルが知らないのは当たり前だ。

「我が国でソレを使えるのはリアンヌだけだ。しかも最大で2日が限界だろう。それに全部ではなく5割ほどだ。多少の時間稼ぎにはなるだろう」

 一度かけると解くことが出来ない為、リアンヌが念をおしてきた。

「よろしいのですか?」
「街にいる間だけだ。それに剣がある」

 そう易々と殺られるつもりはない。

「ユラは、無事か?」
「耳飾りに施した術をたどった限りは、体調に変化はないようです」
「えっ、リアンヌ様は、そんな事も事前に?」
「俺が最初に彼女の護衛と監視を命じたからだ」

 ナウルは、監視と聞き驚いているようだが、今でこそ彼女自身は危険人物ではないと周知されている。

 だが初期段階での監視は当たり前である。今回は、そのおかげで彼女の無事がわかるのだから無駄ではなかっただろう。

「ひとまずバージュへ向かう」
「はい」
「ハッ」


 俺たちは目的地へ移動し始めた。


*~*~*
 


「ラジウス様!あれは」


 一夜明けて俺達はバージュの入り口に近い飯屋で少し遅い昼食をとっていた。

 室内は混みあっており、外に出された壊れかけた木の椅子に座り、入り口がよく見える場所にいたのだが、いち早く気がついたのは、ノアとナウルだった。

ちょうど街へ入る小柄な女。

 髪の色が茶色に変化し、布を頭からかぶり表情はまだよく見えないが、ユラに間違いない。

 俺達は食事もそこそこに立ち上がり、彼女の元へ近づく。

 その時、ユラが顔を上げたために、彼女の楽しそうな顔が見えた。


──誰だあれは?


 彼女は、一人ではなく二人の男と一緒だった。

いや、片方は見覚えがある。

 片方は……風の国、ヴァーリアの王子だ。

ジリッ

どこかが酷く痛む。

──これが、嫉妬というやつなのだろうか?


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