10 / 17
10.旅をすれば豆に会う
しおりを挟む「あ、今日は」
中庭で寝転びながらお菓子を食べていれば、この家の家主グレードさんが、ゆったりと近づいてきた。
いつぶりがな?本当に同じ家にいるのかというくらい会わないんだよね。
「お久しぶりです。ナツ様に伝えねばならない事がありましまして。転移の件ですが、やはり行き来は不可能のようです。ガルレインの城に保管されていた古書に召喚についての書物もくまなく調べたのですが」
なんだ、そんな事か。
「いいです。もう、必要ないので。むしろまだ調べてくれていたんですね。ありがとうございます」
意外と律儀な人だなと私の回答に戸惑いを見せている彼をぼんやりと眺めた。
私が、この世界に来て更に二年が経過していた。
「最近、特に感じているんですが、あんなに会いたいと思っていた親や友達への気持ちが薄くなっているんです」
精神が壊れないようにする為の自己防衛なのか?はたまた異世界マジックか。
正直、寂しさはある。
「今、時間ありますか? グレードさんにとっては無駄話かもしれませんが、まだ覚えている間に誰かに話をしたくなりました」
「ええ」
相変わらず彼の表情は分かりづらいけど、機嫌は悪くなさそうな彼に成り行きで話を持ちかければ、スンナリ乗ってくれたのに内心ビビる。
激務な彼にとって私の無駄話などメリットは一つもないだろうに。
これも彼と一緒に過ごしてきた年月の成果だろうか? いや、それ程会話をした記憶はないけれど。
まぁ、せっかくだし、気が変わらないうちに進めよ。
「昔、私と空だけでなくて、桜と匠海という子達、計4人がいたんですが、結構仲が良くて。四人で1セットなくらい。時間さえあれば会ってたんです」
近所だったから朝はいつも一緒だった。
「だけど、夏休みも半ば過ぎた頃、匠海が夏期講習の帰りに車に轢かれて死にました」
車道を自転車で走らせていた匠海は、余所見運転をした軽トラに撥ねられ、飛ばされたと後から聞いた。
「ヘルメット、していたら違ったのかも。最近はする人か増えたけど、あの頃は本格的に走る人や幼児以外はしてる子なんて殆ど見かけなかった。あ、ヘルメットは、頭に被る物です」
ダサいし、結構暑苦しんだよね。
「ダサさより命のが大事なんだけど、そんなの後から言っても仕方がない」
もう、手遅れだ。
「あの日、夜に4人で花火をする予定だった。だから、匠海も急いでいたんじゃないかなって思う」
いや、きっとそうだ。
『ギリ間に合うかも』
グループのメッセージに送られてきた文字が彼の最後になった。
「ニュースとかで事故とか日常的に流れているけれど、まさか友達がだなんて思っていなかった」
信じられなくて。
「気づいたら、匠海の家族は逃げるように家をひきはらっていて。私も親の都合で県内だけど引っ越してしまって」
落ち着いた頃には、もう皆、バラバラだった。
「進学しても働いても、たまに会って馬鹿やって騒いでって何の確約もないのに信じてた」
百パーセントな事なんてないのに。
あの頃、人間関係って、なんて脆いんだろうと逆に感心さえした。
「あれから数年後、二人にバッタリ会ったんです」
何故か道端で偶然会った時、匠海と付き合っていた桜は、空の腕に手を絡ませ彼の隣にいた。
──ムカついた。
私が、ずっと好きだったのに!
「でも、違うんだよね。私は、勇気がなくて言えなかった。しかも狡い私は、永遠の別れになるかもしれない彼にあえて棘を残した」
私の事を忘れるなって。
空の事だ。三年が経過していても、きっと覚えているはず。
「桜に対して狡いって思っていたけど、私が一番意地汚い奴なんです」
女子のドロドロとした関係なんて馬鹿馬鹿しいと思っていたのに。
「貴方は、確かに頭脳はそこまで良くはないでしょう」
「ちょ……酷くないですか? そんなにバッサリ言われたのは初めてなんですけど」
彼の薄い口がゆっくり開いた瞬間、何を言われるかと思えば。
この国一番のブレインと言われている人なら、もっと伝え方とか知ってるんじゃないの?
あ、ワザとか。
「ただ、羨ましいと思う時はあります」
「はぁ、そうですか」
そんだけ言われてからの言葉だとイマイチ信用できないわ。しかも羨ましいの意味が分らない。
「それで婚姻したいのですが、貴方の意向をお聞きしようと思いまして」
「え、えっと誰が誰と?」
いきなりぶち込んできたぞ。
「何と言われましても。ナツ様と婚姻を望んでいます。あぁ、婚姻の意味は分かりますか?」
「勿論、知ってるわ!」
眉を寄せて心配げに話しかけないでくれる?
「前置きが全くないプロポーズも驚きですが、グレードさん、そもそも私の事が嫌いじゃないですか。なのに何故、そんな流れになるんです?」
最初に会った時の、あの目は今でも思い出せるくらい酷かったなぁ。
「初対面の時と比べたら随分マシにはなったけど。でも、キャハハウフフな事なんて一度もないですよね?」
あまり直接的な言い方は良くないと学んできてはいるけれど。
「私は、奥さんの代わりにはなれないです。そもそも奥さんに失礼でしょう?」
溺愛していたらしい奥さんを召喚で失った人、方や召喚により帰れなくなった人。
いや、違うな。帰らない選択をしたのは私だ。
「ご存知の通り五日後に此処を離れます。それまで図々しいですが、よろしくお願いします」
この辺りの森は魔獣の数も減り平和になった。なにより長居し過ぎたんだなと改めて思った。
旅立つには良い機会だ。
「生意気に聞こえるかもしれませんが、グレードさんの事は前ほど嫌いじゃないです」
仕事は柔軟性があるのに、この人はホント不器用過ぎ。
「ナツ様」
「さて、話を聞いてくれて、ありがとうございました。よっ、私も荷造りしないとだな」
起き上がりくっついた葉をはたきおとし、まだフリーズしたままの彼から背を向けたけど。
「出発迄の夜、大丈夫でしたら夕食を一緒にどうですか?」
どうせなら、気持ちの良い別れにしたい。
「……ええ、食べましょう」
なんていうのも自己満足なんだろうなと微かに微笑んだグレードさんを視界に入れなが、思った。
✻~✻~✻
バシッバシッ
「いやぁ、ホント助かったぜ!要領もよいな!出来ないのは愛想くらいじゃないのか?!ガハハッ」
「だから痛いって言ってんじゃないですか!」
無事に出発してドキドキ一人旅もなかなか順調だった中、小さな町の道端でバッタリ再会したのが、目の前で言いたい放題言いまくっている豆、いやビーンズさんだった。
「お、もうこんな時間か!休憩してくれ!」
「はい、これを片付けたらご飯をいただきます」
親が引退したから農業の跡を継ぐわと退団したビーンズさんの広い畑は現在繁忙期を迎えており、猫の手も借りたい状況だったらしく偶然会った私は、働かないかと半ば引きづられるように連れて行かれてバイト中の今に至る。
「大丈夫か?親父もこき使うなぁ」
頭上からの声と同時に、腕に抱えていた中身が消えた。
こんな近くにいつの間に人がいたの?いや、親父って豆の事?
「あ、わり、驚かした?」
いた場所からできる限り距離をとり声の主を見上げると、頬をポリポリと掻いている騎士服を身に着けている男がいた。
「豆、いえ、ビーンズさんの息子さんですか?」
つい、まめ呼ばわりしてしまい手をくれかもしれないが、急いで言い直し聞いてみた。
「あぁ、ビーンズは俺の親父だ。あ、俺はダニエル。よろしくな」
歯のCMに出演出来るくらいに真っ白な歯を見せ笑うイケメンな若者にビーンズさんと似ている箇所を探そうとガン見した私は、悪くないと思うの。
10
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お嬢様は地味活中につき恋愛はご遠慮します
縁 遊
恋愛
幼い頃から可愛いあまりに知らない人に誘拐されるということを何回も経験してきた主人公。
大人になった今ではいかに地味に目立たず生活するかに命をかけているという変わり者。
だけど、そんな彼女を気にかける男性が出てきて…。
そんなマイペースお嬢様とそのお嬢様に振り回される男性達とのラブコメディーです。
☆最初の方は恋愛要素が少なめです。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる