中途半端な私が異世界へ

波間柏

文字の大きさ
上 下
68 / 72

67.急な夜会

しおりを挟む

「素敵ですわ!」」
「正直どうかと思いましたが、ガラリと変化しましたわ!」

 今日をいれてあと3日。

 貴重な残り少ない滞在時間なのに嫌な思い出しかない夜会に何故出席しないといけないのか。

 全てはあの俺様王子ガインのデュラスのせいである。宰相さんから至急だと呼ばれ何事かと思えば。

「明日の夜会にガインのデュラス王子が急遽出席するのだが、カエデ殿を強く希望していてね。王子とは、今回貿易の件での会談もあり、こじらせなくないのが本音だ」

長い間の後に。

「是非、出席を」
「……はい」

 ノーと言える日本人を目指したかったが、駄目だった。

 どうも私って宰相さんの圧に弱いんだよなぁ。あの笑っていても何を考えているか分からない表情のせいかもしれない。

「ご覧になって下さい」

 改めて己の姿を見てみる。マリーさん達がとても興奮しているのは、私が前回の夜会の時に借りたドレスでいいからと頑として譲らなかったからである。

 どうやら通常はシーズンごとに作り、同じドレスは着ないらしい。

 でも、今回は、短時間の一度きりの着用で勿体なさすぎる!

 渋るマリーさん達に、前のドレスにアレンジを加えてもらって、変化をつける為、大好評であったロングヘアにしてみた。

「確かに、華やかさがアップしたかもしれない」

 ワインレッドのドレスには胸元と腕の絞り部分、スカートの左右に大きな淡いピンクの椿のような生花が飾られている。

 それだけではなく真珠をもう少し大きくしたような玉を紐に通しネックレスのように連にして花の近くに縫い付けてもらった。

「動くときらきらだ」

 端と端だけを縫い付けているので、くるりと回るとその真珠のような白く光る玉も揺れて目立つ。長くした髪にはドレスにつけた同じ生花を片方の耳近くに一輪して正解かも。

「胸元のリボンのお色はどういたしますか?」

マリーさんの言葉に悩む。

 相手の色を身につけるのは、その相手が恋人か既婚者だという意味だと前の夜会の後に教えてもらい知ったから。

「──前回のままでお願いします」

私の精一杯の気持ちだ。

「畏まりました」

 まだマリーさん達に伝えてない。

あと3日でさよならなんだと。


 伝える、または内緒にするか。どちらを選択しても苦しいなぁ。



* * *



「よっ!」

 俺様なデュラス王子が目の前に出現した。

 真っ黒の制服に金ボタンで金のモール。悔しいかな派手な容姿と似合うんだよね。

「着飾っている女性達より目立ってますよ?」

 嫌味をちょびっと込めて言ってみる。

「俺、見た目いいもん」
「さようでございますか」

 あ~、やだやだ。どうせ地味顔だよ私は。

「早速何か食べよっかな」

 陛下のご挨拶が終わり沢山のご馳走が並ぶテーブルへ行く事にした。周りは和やかなムードで食べやすそう。

「こんな贅沢ご飯、帰ったら食べられないもんね」

 演奏も始まっなので、人々は踊るためフロアの中央へ集まっている。

よし、食べるぞ。

グイッ。


「……何ですか?」

 腕を王子に引っ張られ、そのままズルズルと引きずられていった先は、ダンスフロアだ。

「いやいや!? 私は踊れませんよ!」
「ちょっとくらいは習っただろ?」
「…ヘタなんです」

 実は、最低限のマナーをシャル君のお母さんであるミリーさんに教わった時、ダンスも少し教わったのだ。

結果? 撃沈です。背筋の姿勢からして駄目。

 しかも当たり前だけど、一人ではなく二人で呼吸を合わせて踊らなければならない。

 知らない人となんて尚更無理だ。まだ舞いのが楽である。

「挨拶しろよ」

 そうこうしているうちに生演奏が始まり抜け出せなくなった。

く~っ!

「もう!足を踏んでも知りませんからね!」

 ドレスのスカートをつまみ、仕方なく礼をとる。男性は片腕を胸にあてお辞儀だ。

 王子にサッと手をとられ腰にはもう片方の手がまわされる。

「音を拾いやすい曲だから大丈夫だ」

 緊張しているのが顔に出ているんだろうな1、2、3と心の中で数えて足を踏み出す。

「あれ? 」

 動きやすい。密着度は半端ないけど、ちょっと楽しいかも。

「意外と楽しいだろ?」
「まあまあ」

 なんとなく悔しくて素直に返せない。

「髪、今日は長いな」
「短いとドレスと合わないって言われたから。邪魔なんだけどね」
「アンタらしい考え方だな」

 俺様王子、表情が前より柔らかくなった?

「ちょ、無理っ」

 王子にくるくると回され焦るも彼の腕の中に綺麗に収まってしまった。

「俺、あと一年で16になる」
「そうですか」

急に歳の話?

「ガインでは16で成人だ」

 この世界は本当に早いよね。大人の仲間入りが。

「俺は必ず王になる」
「うん」

──頑張れ。

「俺も、兄弟も必ず生きる」
「うん」

そうだね。

「だから嫁にこい」

……ん?

「無理」
「即答かよ!」

当たり前だよ。あ、でも。

「嫁は無理だけど、友達ならいいよ」
「あの騎士か?」

 壁際にいるルークさんを顎でクイッと示す姿が意外にもカッコイイ。いや、服装のせいに違いない。

「内緒」

yesって言えたらいいのにな。

「チッ。まぁいいや。諦めないからな」

 子供っぽい表情に笑いそうになる。

「嫁は無理だけど一生友達でいるよ」

たとえ世界が違っていても。

「今は、アイツに返す」

 私は物じゃない。デュラス王子は曲が終わると言った通りにルークさんの手に私の手を乗せた。

「会えてよかった」

 彼は、またなと言いアッサリ去っていった。

やっぱり俺様王子は謎である。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

人の波に消えていく王子をなんとなく眺めていたら、ルークさんに透明な液体の入ったグラスを渡された。味はレモン水で冷たくて美味しい。

「疲れましたか? 楽しそうに踊っていましたね」

 近くに人がいるからか言葉遣いがよそよそしい。

 そして、何故か判らないけれど、とても悲しいよ。

 私は、グラスの残りを一気に飲み干してルークさんを見上げた。変わらず穏やかな深くて澄んだ青の瞳。

でも、感情が読めない。

「踊ってもらえます?」

 女性から誘うのは、マナー違反。でも、いいや。きっと護衛中だからと断られると思ったけど。

「喜んで」

私達はフロアへ足を進めた。

 ルークさんを改めて観察するれば前回と同じ白の制服でピシッとしている。

 なんで、この人は何でも出来るのかな。

 踊りながら時折剣を押さえる仕草もグッとくる。胸元には黒い石のバーピンだ。

「悪い…嫉妬した」
「は?」

思わず聞き返した。

「ガインのガキに」

今、仮にも一国の王子にガキって言いました?

ホントにルークさんですか?

「えっとですね、俺様王子に前に触られた時に嫌で、さっきは平気だった。シャル君は大きな猫みたいで嫌じゃないんです」

一生懸命に言葉にする。

「ルークさんは、落ち着くんですけど心が落ちつかないんです」

 あぁ、語彙力のなさが酷くもどかしい。

「落ち着くが落ち着かない…?」

 くるりと1回転させられまた腕の中に戻る。

「つまりですね、リボンは自分の精一杯です」

これで伝わったかな。

 無事に踊りきった。実は会話をする余裕なんてものはなく。ずっと足元が気になり下を向いていた私は、やっとまともに彼の顔を見た。

あれ?

 何故か片手で顔をおさえている。隙間から見える顔が赤い?

えっ、恥ずかしいとか?!

 無言で腰に腕をまわされテラスに誘導された。

「風が気持ちいい」

 ダンスは見た目優雅だけど実際はかなりハードだ。

 広大な庭がテラスから一望でき、小さい照明が庭に置かれているのか噴水の水がきらきらして幻想的である。

「いつから?」
「えっ?」

 乗り出して庭を見ていた私はルークさんの声に振り返る。

「いつ気づいた?」
「女子会の時に教えてもらいました」

 小さいテラスがいくつもあるこの場所は、暗くてあまり目立たない。私はルークさんに近より手に触れる。

 手袋をしているから温かさは感じないのがちょっと残念。

 なんとなく、手を繋いでみた。いわゆる貝殻繋ぎ。

一度くらいよいよね。

 戸惑いの視線が上から降ってくるので説明してあげた。

「貝殻繋ぎって言うんです。彼氏とかとするんですけど、バカップルみたいって他の人達の姿を見ていたんですけどね」

でも、実際は……恥ずかしいより嬉しいが勝った。

「おままごとです」

 こんなに好きになる人はいないだろうな。

もう、出会えただけで充分だ。

「そうか」

強く握り返された。

──嘘。

充分じゃないよ。
足りない。
もっと、もっとってなる。

 なんで私はこの世界の住人じゃないんだろう。

ヴィラ。

 なんで私を連れてきたの? この気持ちどうしてくれんの?

──助けてよ。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

◆完結◆修学旅行……からの異世界転移!不易流行少年少女長編ファンタジー『3年2組 ボクらのクエスト』《全7章》

カワカツ
ファンタジー
修学旅行中のバスが異世界に転落!? 単身目覚めた少年は「友との再会・元世界へ帰る道」をさがす旅に歩み出すが…… 構想8年・執筆3年超の長編ファンタジー! ※1話5分程度。 ※各章トップに表紙イラストを挿入しています(自作低クオリティ笑)。 〜以下、あらすじ〜  市立南町中学校3年生は卒業前の『思い出作り』を楽しみにしつつ修学旅行出発の日を迎えた。  しかし、賀川篤樹(かがわあつき)が乗る3年2組の観光バスが交通事故に遭い数十mの崖から転落してしまう。  車外に投げ出された篤樹は事故現場の崖下ではなく見たことも無い森に囲まれた草原で意識を取り戻した。  助けを求めて叫ぶ篤樹の前に現れたのは『腐れトロル』と呼ばれる怪物。明らかな殺意をもって追いかけて来る腐れトロルから逃れるために森の中へと駆け込んだ篤樹……しかしついに追い詰められ絶対絶命のピンチを迎えた時、エシャーと名乗る少女に助けられる。  特徴的な尖った耳を持つエシャーは『ルエルフ』と呼ばれるエルフ亜種族の少女であり、彼女達の村は外界と隔絶された別空間に存在する事を教えられる。  『ルー』と呼ばれる古代魔法と『カギジュ』と呼ばれる人造魔法、そして『サーガ』と呼ばれる魔物が存在する異世界に迷い込んだことを知った篤樹は、エシャーと共にルエルフ村を出ることに。  外界で出会った『王室文化法暦省』のエリート職員エルグレド、エルフ族の女性レイラという心強い協力者に助けられ、篤樹は元の世界に戻るための道を探す旅を始める。  中学3年生の自分が持っている知識や常識・情報では理解出来ない異世界の旅の中、ここに『飛ばされて来た』のは自分一人だけではない事を知った篤樹は、他の同級生達との再会に期待を寄せるが……  不易流行の本格長編王道ファンタジー作品!    筆者推奨の作品イメージ歌<乃木坂46『夜明けまで強がらなくていい』2019>を聴きながら映像化イメージを膨らませつつお読み下さい! ※本作品は「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」にも投稿しています。各サイト読者様の励ましを糧についに完結です。 ※少年少女文庫・児童文学を念頭に置いた年齢制限不要な表現・描写の異世界転移ファンタジー作品です。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

処理中です...