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67.急な夜会
しおりを挟む「素敵ですわ!」」
「正直どうかと思いましたが、ガラリと変化しましたわ!」
今日をいれてあと3日。
貴重な残り少ない滞在時間なのに嫌な思い出しかない夜会に何故出席しないといけないのか。
全てはあの俺様王子ガインのデュラスのせいである。宰相さんから至急だと呼ばれ何事かと思えば。
「明日の夜会にガインのデュラス王子が急遽出席するのだが、カエデ殿を強く希望していてね。王子とは、今回貿易の件での会談もあり、こじらせなくないのが本音だ」
長い間の後に。
「是非、出席を」
「……はい」
ノーと言える日本人を目指したかったが、駄目だった。
どうも私って宰相さんの圧に弱いんだよなぁ。あの笑っていても何を考えているか分からない表情のせいかもしれない。
「ご覧になって下さい」
改めて己の姿を見てみる。マリーさん達がとても興奮しているのは、私が前回の夜会の時に借りたドレスでいいからと頑として譲らなかったからである。
どうやら通常はシーズンごとに作り、同じドレスは着ないらしい。
でも、今回は、短時間の一度きりの着用で勿体なさすぎる!
渋るマリーさん達に、前のドレスにアレンジを加えてもらって、変化をつける為、大好評であったロングヘアにしてみた。
「確かに、華やかさがアップしたかもしれない」
ワインレッドのドレスには胸元と腕の絞り部分、スカートの左右に大きな淡いピンクの椿のような生花が飾られている。
それだけではなく真珠をもう少し大きくしたような玉を紐に通しネックレスのように連にして花の近くに縫い付けてもらった。
「動くときらきらだ」
端と端だけを縫い付けているので、くるりと回るとその真珠のような白く光る玉も揺れて目立つ。長くした髪にはドレスにつけた同じ生花を片方の耳近くに一輪して正解かも。
「胸元のリボンのお色はどういたしますか?」
マリーさんの言葉に悩む。
相手の色を身につけるのは、その相手が恋人か既婚者だという意味だと前の夜会の後に教えてもらい知ったから。
「──前回のままでお願いします」
私の精一杯の気持ちだ。
「畏まりました」
まだマリーさん達に伝えてない。
あと3日でさよならなんだと。
伝える、または内緒にするか。どちらを選択しても苦しいなぁ。
* * *
「よっ!」
俺様なデュラス王子が目の前に出現した。
真っ黒の制服に金ボタンで金のモール。悔しいかな派手な容姿と似合うんだよね。
「着飾っている女性達より目立ってますよ?」
嫌味をちょびっと込めて言ってみる。
「俺、見た目いいもん」
「さようでございますか」
あ~、やだやだ。どうせ地味顔だよ私は。
「早速何か食べよっかな」
陛下のご挨拶が終わり沢山のご馳走が並ぶテーブルへ行く事にした。周りは和やかなムードで食べやすそう。
「こんな贅沢ご飯、帰ったら食べられないもんね」
演奏も始まっなので、人々は踊るためフロアの中央へ集まっている。
よし、食べるぞ。
グイッ。
「……何ですか?」
腕を王子に引っ張られ、そのままズルズルと引きずられていった先は、ダンスフロアだ。
「いやいや!? 私は踊れませんよ!」
「ちょっとくらいは習っただろ?」
「…ヘタなんです」
実は、最低限のマナーをシャル君のお母さんであるミリーさんに教わった時、ダンスも少し教わったのだ。
結果? 撃沈です。背筋の姿勢からして駄目。
しかも当たり前だけど、一人ではなく二人で呼吸を合わせて踊らなければならない。
知らない人となんて尚更無理だ。まだ舞いのが楽である。
「挨拶しろよ」
そうこうしているうちに生演奏が始まり抜け出せなくなった。
く~っ!
「もう!足を踏んでも知りませんからね!」
ドレスのスカートをつまみ、仕方なく礼をとる。男性は片腕を胸にあてお辞儀だ。
王子にサッと手をとられ腰にはもう片方の手がまわされる。
「音を拾いやすい曲だから大丈夫だ」
緊張しているのが顔に出ているんだろうな1、2、3と心の中で数えて足を踏み出す。
「あれ? 」
動きやすい。密着度は半端ないけど、ちょっと楽しいかも。
「意外と楽しいだろ?」
「まあまあ」
なんとなく悔しくて素直に返せない。
「髪、今日は長いな」
「短いとドレスと合わないって言われたから。邪魔なんだけどね」
「アンタらしい考え方だな」
俺様王子、表情が前より柔らかくなった?
「ちょ、無理っ」
王子にくるくると回され焦るも彼の腕の中に綺麗に収まってしまった。
「俺、あと一年で16になる」
「そうですか」
急に歳の話?
「ガインでは16で成人だ」
この世界は本当に早いよね。大人の仲間入りが。
「俺は必ず王になる」
「うん」
──頑張れ。
「俺も、兄弟も必ず生きる」
「うん」
そうだね。
「だから嫁にこい」
……ん?
「無理」
「即答かよ!」
当たり前だよ。あ、でも。
「嫁は無理だけど、友達ならいいよ」
「あの騎士か?」
壁際にいるルークさんを顎でクイッと示す姿が意外にもカッコイイ。いや、服装のせいに違いない。
「内緒」
yesって言えたらいいのにな。
「チッ。まぁいいや。諦めないからな」
子供っぽい表情に笑いそうになる。
「嫁は無理だけど一生友達でいるよ」
たとえ世界が違っていても。
「今は、アイツに返す」
私は物じゃない。デュラス王子は曲が終わると言った通りにルークさんの手に私の手を乗せた。
「会えてよかった」
彼は、またなと言いアッサリ去っていった。
やっぱり俺様王子は謎である。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
人の波に消えていく王子をなんとなく眺めていたら、ルークさんに透明な液体の入ったグラスを渡された。味はレモン水で冷たくて美味しい。
「疲れましたか? 楽しそうに踊っていましたね」
近くに人がいるからか言葉遣いがよそよそしい。
そして、何故か判らないけれど、とても悲しいよ。
私は、グラスの残りを一気に飲み干してルークさんを見上げた。変わらず穏やかな深くて澄んだ青の瞳。
でも、感情が読めない。
「踊ってもらえます?」
女性から誘うのは、マナー違反。でも、いいや。きっと護衛中だからと断られると思ったけど。
「喜んで」
私達はフロアへ足を進めた。
ルークさんを改めて観察するれば前回と同じ白の制服でピシッとしている。
なんで、この人は何でも出来るのかな。
踊りながら時折剣を押さえる仕草もグッとくる。胸元には黒い石のバーピンだ。
「悪い…嫉妬した」
「は?」
思わず聞き返した。
「ガインのガキに」
今、仮にも一国の王子にガキって言いました?
ホントにルークさんですか?
「えっとですね、俺様王子に前に触られた時に嫌で、さっきは平気だった。シャル君は大きな猫みたいで嫌じゃないんです」
一生懸命に言葉にする。
「ルークさんは、落ち着くんですけど心が落ちつかないんです」
あぁ、語彙力のなさが酷くもどかしい。
「落ち着くが落ち着かない…?」
くるりと1回転させられまた腕の中に戻る。
「つまりですね、リボンは自分の精一杯です」
これで伝わったかな。
無事に踊りきった。実は会話をする余裕なんてものはなく。ずっと足元が気になり下を向いていた私は、やっとまともに彼の顔を見た。
あれ?
何故か片手で顔をおさえている。隙間から見える顔が赤い?
えっ、恥ずかしいとか?!
無言で腰に腕をまわされテラスに誘導された。
「風が気持ちいい」
ダンスは見た目優雅だけど実際はかなりハードだ。
広大な庭がテラスから一望でき、小さい照明が庭に置かれているのか噴水の水がきらきらして幻想的である。
「いつから?」
「えっ?」
乗り出して庭を見ていた私はルークさんの声に振り返る。
「いつ気づいた?」
「女子会の時に教えてもらいました」
小さいテラスがいくつもあるこの場所は、暗くてあまり目立たない。私はルークさんに近より手に触れる。
手袋をしているから温かさは感じないのがちょっと残念。
なんとなく、手を繋いでみた。いわゆる貝殻繋ぎ。
一度くらいよいよね。
戸惑いの視線が上から降ってくるので説明してあげた。
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でも、実際は……恥ずかしいより嬉しいが勝った。
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──助けてよ。
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