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63.ローズ嬢はカッコイイ
しおりを挟むこの世界にいるのも残り一週間になった。
ちょっと病んで大胆な行動をした次の日、私は元の世界から持ってきていたメモ帳とペンで、やることリストを作った。
まぁ、その前にベッドで昨夜の事を回想し悶えていたけれど仕方がないよね。
*~*~*
まず、ニ日に一回の神殿の他に国境ギリギリの場所に向かい力を使う。
移動は国内なので転移で。
何故なら馬車だと時間がかかりもったいないから。
杯もどきが各場所への杯もどきに繋がっていると聞いていたけれど、信仰心で多少場所によりムラがある気がしたのだ。
「ヴィラに聞くのを忘れて勝手な解釈だけど、間違っていないと思うんだよなぁ」
実際、ガインでヴィラ夢の中で会おうとしたが不可能だった。
転移も出来るけれど残り少ない今、万が一拘束されたりしたら困るし。
遠い場所は地図を見せてもらって特に荒れた場所を教えてもらい、届くように念じた。
あと、文字の練習を始めた。
今更だけど、この世界にいたんだと戻った時実感できるかなと思ったから。
「文字の種類は一つだけなので助かるわ」
だがしかし、字は見たこともないミミズ文字で間違いなく苦戦するだろう。
腕輪を着けては外し発音も挑戦中でマリーさん達に仕事の合間に教わっている。
なかなか皆スパルタなのだ。
ちなみに今日は、午前中に神殿で力を注ぎ、お昼ご飯を食べてアリヴェルちゃんがいれてくれたお茶を飲み食後のまったり中の現在である。
ちなみに、この世界のお茶はハーブティーが主流みたい。お花の香りがして種類は豊富そう。
「ローズ様、カエデ様は力を使い疲れていますので」
「休んでいらっしゃるので日を改めて下さ~い」
静かな口調の中に圧が含まれているマリーさんの声とふざけた口調のラウさんの声がなにやら聞こえてきた。
「アリヴェルちゃん、もう一人分お茶をお願いできますか?」
お願いした瞬間、彼女の眉間に川ができた。
うーん。これでどうだ。
「私も美味しいからもっと飲みたいな」
「……畏まりました」
ため息をつきつつもお茶の用意をし始めてくれた。
「失礼致しますわ! あの獣人、寝ているって言っていたけ れど起きてるじゃない!」
……なんだろう、若いなぁ。
「活きがいいというか」
調理実習で使う魚を前にした時のような表現になってしまった。
私が通っている短大は、海が近いせいか調理に使う魚はいつも立派なのだ。
以前、鰹のさくを鉄串に刺し強火で表面を炙り、小ネギ、生姜を添えポン酢風のたれをかけ回し食べる調理実習があった。
──最高に美味しかった。
家でトライしたけれど鉄串なんて家にはなく、悩んだ末に木の串を利用したら、まあ串が燃えました。
あぁ、お味噌汁やお米はそれほど恋しくないんだけど醤油は欲しいなぁ。
「ちょっと!」
いけない、ヨダレ垂れそうになってた。
「あっ、ごめんね。忘れていたわけじゃないんですよ」
うむ。ローズ譲は、相変わらず可愛い。
今日はツインテールではなくピンクの髪は巻かれ小さな顔の周りをふちどっている。
ドレスは赤。
胸元とスカートの左右部分は透かしの白い花のレース模様でフリルになっており、小さいピンクのリボンがちらばっている。
ラズベリー色の瞳とドレスが似合い過ぎる!
「華があるねぇ」
思わず変態のオジサンみたいなセリフが出たが、説明したい。この世界の女性は可愛いより美人が多い中、この子は可愛いのだ。
「な、何をを言ってますの?! 当たり前ですわ!」
照れているらしく顔が赤い。
そういえば、聞き捨てならない事があった。
「話を聞く前に獣人じゃなくてラウさんだから」
可愛いくたって駄目な事は言う。
「なっ、私を誰だと」
「ローズ嬢が、アンタ呼ばわりされたら嫌でしょう? されて嫌な事はしない」
まず、そこから。
「できないなら、お帰りください」
地位がなんだ。
私には関係ない。
ローズ嬢は口をへの字にしていたが、しばらくして折れた。
「……ごめんなさい」
ローズ嬢は、中の扉近くの壁に寄りかかっていたラウさんの方へ振り向き本当に小さな声だったが確かに謝った。
ラウさんは、ニヘラと笑って何も言わなかった。
さて。
「で、用件は?」
デュラス王子は薬を嗅がせ彼女を眠らせていただけで、どこも怪我はしていないとルークさんが言っていたけど。
見た目も元気そうだしな。
「助けて頂き有り難うございました」
「……ん?」
えっ?
そんな事の為だけ?
「えっと、怪我してなくてよかったね」
「あと、これを直接お渡ししたくて来ましたの」
ローズ嬢は、綺麗な大判のピンク色のハンカチに包まれた何かを差し出してきた。
手が微かに震えている。
部屋に入ってきた時の強気な態度とは違い顔色が悪い。
「何かな」
差し出された包みを受けとり結び目をほどくと何通かの手紙と書類かな。
ざっと読む。
手紙はガインとのやり取りで何かの売買と国内の事が書かれている。
書類のような紙は、数字と物の名前だ。文字は読めるけど、物の名前や数字はよく分からないな。
「ラウさん」
いつの間にかラウさんが背後にいて私の手元を覗きこんでいた。
やっぱり、ラウさんは犬耳より猫耳のが似合いそう。
「手紙は禁止されている植物、それも猛毒の密輸だ。こっちは、国庫から色々持ち出して金にしてるようだな」
なんだろう。証拠は残しちゃ駄目だよね。
やはりダーキット公爵、辛子オジサンは残念な人だったのか。娘の前では言いづらいので心の中で呟いた。
「それより、これお父さんにバレたらローズ嬢不味くない?」
顔色の悪いローズ嬢は、いまや下を向いている。
「お父様が何か良くない事をしているのは気づいていましたわ。あの日、ガインのデュラス殿下は、突然我が屋敷に転移し階段を降りていた私を後ろから抱え、布で口を塞いできました」
他に人はいないの? ローズ譲って身分の高いお嬢様だよね。
「お父様はその時、踊り場にいらしたのに助けてくれなかった! 目が合ったのに逸らされましたわ!」
膝の上に置いている手にポタポタと雫が落ちていく。
「屋敷に戻った私にお父様は会いもして下さらなかった」
手で涙を拭い顔を上げた彼女は、私と目を合わせた。
「それは、ご自由になさって」
立ち上がり去っていく彼女に思わず声をかけた。
「私、ローズ嬢の事、嫌いじゃないよ。あと周りがなんといおうとお父さんの事が好きなら好きな気持ちで良いと思う」
彼女の足が一瞬、止まったあと、再びあるき出し去っていった。
彼女は、一度も此方を振り向かなかった。
ローズ嬢は、見た目が可愛いけれど中身はとても男前でカッコよかった。
「どーすんの?コレ」
ラウさんが置き土産となった紙の束を指差し私に聞いてくる。
「今日か明日宰相さんと会わないとかな」
色々言われてる事もあるし、こちらも頼みたい事ができた。
「マリーさん、また胃薬、今度は苦くないのお願いします!」
とりあえず、次に備えておこう。
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