中途半端な私が異世界へ

波間柏

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「大丈夫かね?」

 椅子にふらつきながら座ろうとしていた私に宰相さんが声をかけてきた。

「大丈夫じゃないです。私、だいぶ頑張りました」

 思った事を言うのは若いからという事で許して下さい。

「それより用意は出来ていますか?」

 私はデュラス王子と宰相さんに、紙とペンを準備してもらっていた。それにしても、このペンなんだけどガラス製で美しいこと。

 仕組みとしては、ガラスペンの上の部分に膨らんでいる箇所があってそこに黒い液体が入っているのが見える。

 二重構造で下へいくほど螺旋が細かくなっていき、インクが沢山出ないようになってるのだろう。ただ、ボールペンとは違い、キャップがないしので使い終わったら空にしておかないといけないだろうな。

あ、また脱線しちゃった。早く始めないと。

「先に言っておきますが、これから話す事は、役に立つか正直わかりません」

 二人に後からクレームをいれられないように一言言っておくのは大事だし勿論、書面にも残す。

「私は、宰相さんのように頭はよくないし、デュラス王子が受けている教育などには敵いません」

普通の冴えない学生だ。

「私が出来るのは提案やアイディアだけなので、利用出来る事が一つもあれば良いなくらいの気持ちです」

 私の真面目な様子に二人も頷きで返してくれた。

「まず水について、どれくらい不足しているのか正確な把握は出来ていないけれど、水を貯める場所や井戸があるにこしたことはないので穴を掘って水が出ないかな試します」

あ、補足しないとか。

「ちなみに最初の水を貯めるというのは、普段は雨が降らなくても急に沢山降って川が氾濫しないようにする為に。また逆に降らなかった際に起こる水不足に利用できます」

 そこで課題となるのが、水を飲める状態にまでもっていけるか。そもそも大規模な施設が可能だろうか。

「次ですが、井戸は町を見学した時になかったので川の水だけを利用しているのかなと判断しての提案です」

 砂漠地帯もあるけど、一部高い山々があり木が沢山生えている場所のふもとは、掘れば飲める水が出ないかなと思う。

私はどんどん話をしていく。

「次、学校については、やはり皆が通えたらいいのにと思い義務教育でせめて字の読み書きは必要だと思います」

 読み書きが可能ならば仕事の幅も広がる。ただ、貴族の方は民に力をつけられては困ると思うかもしれないが逆に気づくだろう。

「一番下を支えているのは民ですよね?」

 民の暮らしが豊かになれば、国も発展していく。そしてその為にも子供達への食事、昼食の提供が必須だ。

「子供の頃の食事は身体を作る為に重要です」

 食事をとる事で最低限のマナーも身につけられるし、自分の国では何が作られているかも分かる。

「私は、学校で生きていく上で大切なのは衣食住と教わりました」

一つ気になった事がある。

「あと、お腹の調子悪くなったりする人けっこういそうですよね。水は大切ですが、手洗いの徹底と器を木ではなく、硝子か、陶器の方が菌がまだ増えないかもしれません」

 湿気があり温度が高いと物は腐りやすい。

「菌、えっと体に悪い物が増えやすいんです。食事も作ったら出来るだけ早く食べたほうが良いです。何故なら時間が経てばたつほど菌が増えますから。あ、あと少しで終わります」

 何か言おうとした王子の口を塞ぐ。次が重要なんだって。

「義務教育と言いましたが資金必要ですよね。私、昨日の砂漠で利用出来るんじゃないかと思いまして」

 私は、二人の前に二つの物を置いた。

「これ、絶対いける気がするんです」
「これがどうしたのだ」
「金になるわけないだろ?」

 口を挟む間を与えなかった私に二人がそれぞれ呟く。

「そうですかね?」

 一つは真っ白で幾つもの繊細な糸が重なってレースのような模様の塊。もう一つは光にかざすと赤い大人の小指くらいの塊。

「白い方は砂漠の砂が固まったものですよね? 形も大きさも色々ありました。これがあるのは、今のところガインだですよね?」

 私は、素人ながら考えを伝えていく。

「これはインテリア、女性が食事するお店や部屋の窓際や棚、香水をつけても変色しなければ、トイレに置くのも良いかもしれません。そういう風に使えないかと思って」

まだまだある。

「それでペンを見て思ったんですが、硝子製品に優れていそうなので、こう入れ物を作り入れたり、元々かなり硬そうですが、周りを固めて更に崩れないようにできるなら、小さい物はこうして女性には髪飾り、簪に、男性には留め具とか」

 王子から紙とペンを奪い書いていく。紙が荒いのか書きづらい。

「面白い」

何故か宰相さんが乗り気だ。

「硝子で追加なんですが、こう多面体にガラスを作って穴も開けられたら吊るしたり、色着けても綺麗ですよね。昼間は日の光で綺麗だし、夜はラーナの魔法石の淡い光で綺麗だと思います」

段々乗ってきた。

キラキラは大好きだ。

「で、この一見濁った赤い石は、ラーナ、灯りに使う石にくっついている周りの石で、捨てちゃってるんですよね?」

「あぁ。かなり硬くてラーナを取り出すとき面倒だ」

王子がかったるそうに話す。

「これ、試しに研磨、磨いてもらえません? 光にかざした時中が赤く透けたので、ピアスや指輪にできたら可愛いと思うんです」

 多分ルビーみたいになる気がするのだ。私は胸元に手を突っ込んだ。

「おぃっな、何やってんだよ!」

 昨日、夜這いしに来たのに。こういうのには動揺するのか。

「ただネックレス出すだけです」

私は決して変態ではない。

 ずっとしていた、転移した時ポケットに入れっぱなしだったネックレスを引っ張り、鎖に通していたへッドとピンキーリングを外し彼らに見せる。

「きっと削ったら小さくなりますよね?その赤い石でこういうデザインとか」

紙にもデザインを書いていく。

「これは、小指にはめます。確か左の小指は運を呼び込む、リラックス効果、右は厄除けやチャンスを掴みたい時みたいな意味だったと思います」

 曖昧は仕方がない。まぁキャッチフレーズのようなもんよ。

「赤い石は恋愛に効果ありと言われたりするので女性に人気でるかなぁとおもって。あと赤と黒の色はガインの国のカラーだし、男性は赤と黒でカフスとかいいかも」

次よ重要なのは!

「そして、なぜ女性をターゲットにするかというと、買って欲しいから。お金が動けば経済も回り出す。あっこんなのもいいかと思ったんですよ!」

 私は、洗濯挟みを2つ背同士の間に鎖をつけた物を書く。これ、私は冬しか使わないけどいいと思う。

「この国の生地は綺麗で薄いですよね? せっかく綺麗なのに留める時、針だと穴開いちゃうじゃないですか。で、こういうのを作って羽織る時留めたら生地が傷まなくていいと思ったんです。一個でこう留めても」

絵を書く。

「夜は冷えるから羽織る時いいかもな」

今度は王子が乗ってきた。

「で、これらを作ってガイン特産品として輸出できればいいなぁと思うんです」

 あと最後ですが、と二人に昨日食べた夕食について語った。

 もし可能ならヴィラスから貝や魚の干物も、海藻もあれば輸入してもいいのではと。

 ガインには海がないから魚介類も摂取できれば身体にいいと思ったし、旨味成分もたっぷりだ。またガインの独特なスパイスをそのままだとヴィラスの人には受けなさそうだから、ヴィラス好みのスパイスにブレンドしてお洒落な硝子ビンにいれ蓋を開けて、ふり入れればいいという形にすれば簡単で見栄えもするから輸出できるかな。


「そんな感じです」


 私は、酸味があるお茶をぐびぐびイッキ飲みした。ついでにサンドヴィッチもどきをぱくつく。

お肉のスライスが美味しい。

「なんがありまふ?」

 もごもご食べながら二人に言う。お母さんに見られたら絶対怒られる。そういうのには厳しいんだよね家のお母さんは。

「よくしゃべったなーそりぁ腹もへるだろうな」

王子は呆れている。

「色々検討しないといけないが、興味深かった」

 無理やり会議中の宰相さんを連れてきたのでよかったよ、無駄な時間だったとか言われなくて。

 ブレスレットの石は赤に近いオレンジ。気合いでなんとかするしかない。

「じゃあ何かあれば、あと少しはこの世界にいるから嫌だけど連絡して下さい」

 私は立ち上がり、テーブルから少し距離をとる。

「護衛してくれた人達やメイドさんにお礼伝えて下さい。あっまぁ嫌だけど王様も」

「おぃ!」

 王子の手が私に届く前に私は目を閉じ消えた。

「ヴッ」

 次に目を開けたら、ルークさんの寝ている上にいた。

 周りを見ると夜の時と雰囲気は違うけど夜会の時の庭だった。ジリジリ、じめじめとは違う暖かい日差しと爽やかな風に、優しい花の香りとルークさん。

「戻りました」
「遅い」

切り返しはやっ。

「無事でよかった。お帰り」

青い瞳が近くなる。

 怒られると目を瞑り次に備えたら強く抱きしめられた。

 どこかでやっばり、気を張ってたらしい私はやっと体の力をぬいた。




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