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33.胃薬を頼もう
しおりを挟む私は、神官長さん達に会う前にマリーさんに胃薬をお願いしておいた。
本当は、今すぐにでも飲みたいけど急で無理だよね。終わったら必ず飲もう。
そう歩くことなく、ひとつの扉の前でシャル君が足を止めた。
「此方になります」
「……失礼します」
案内され部屋に入るよう促されたので、恐る恐る挨拶をし、部屋に足を踏み入れた。
なんだろうか。職員室に入る気分に似ている。
違う、もっと嫌かも。
室内は、会議室なのかとても殺風景だ。でも、磨かれた長く厚みのある木のテーブルと椅子は高級感たっぷり。
そして、そこに座っている二人の存在感の強さよ。彼らは立ち上がり挨拶してくれた。
「昨日は申し訳ございませんでした。お怪我は大丈夫ですか?」
神官長さんが、すまなさそうに話しかけてくれる。
「沢山寝たので元気ですよ。大丈夫です」
「やはり神殿でなく城で正解だっただろう?」
会うのはおそらく謁見以降初である宰相さんが不機嫌そうに話す。
私は、こっそり宰相さんを観察した。30代後半かな。肩までのカールしたダークブラウンの髪を組紐のようなもので結び眼鏡の奥の瞳は意外にも綺麗なグリーンだ。
神官長さんと並ぶとカラーは違うも昔からの付き合いのような空気を感じる。人間観察をしていたら、やっと説明が始まるらしい。
「本来ならばヴィラスール神の使者であるカエデ様は神殿に滞在して頂くはずでした」
確かにそう言われてみれば。
「ですが、神殿内も残念ながら派閥や他国の者とつながっている者が侵入している可能性はゼロではないのです」
「現に昨日アッサリやられた」
お茶をすすりながら宰相さんが呟いた。
「その手引きした女も行方不明。まぁ生きているかも怪しい」
…怖いんですけど。
「そこで早めに手を打ちたい。まず御披露目という名の牽制。国民からの支持を得る事により他国が手を出しづらくする。また使者殿には念のため自分の身を守る為にも攻撃魔法を学んでもらいたい。あくまでも自衛の為だ」
宰相さんが、やたら自衛と強調してくるのは気のせいだろうか。
「我々とは力が根本的に違うと聞いてはいるが、指導者を何人かつけるのでやってみてもらいたい。詳しい話はルーク副隊長に伝えておこう」
なんだか急に忙しくなってきた。今度は神官長さんが話し出す。
「御披露目で舞っていただくのですが、練習や打ち合わせは、今後城で行う予定です。まずは、これを見ていただけますか?」
席の隣に置いていた、なにやら厳重な包みを私に渡す。
「開けて下さい」
私は、慎重に箱を開けた。
「これは」
それは巫女装束だった。
「何故ここに?」
ちょっと似ているならまぁ100歩譲るにしても。この国の服装というか雰囲気に全くマッチしていない。
じっくり見なくても分かる。この衣装は、本物だ。ご丁寧に装束だけでなく金色の冠や鈴まである。
「カエデ様、この部屋に防御と音を遮断していただけますか?」
神官長さんに頼まれる。力もそんなに使わないので問題ない。
「これでいいですか?」
強く防御、音遮断、ついでに外から半透明で見えないように。金色の薄い膜が一瞬でドーム状に張られた。宰相さんが周囲を見渡し膜に触れ驚いている。
「これは…。感じるのは微かだか触れると予想以上の力が流れている」
「ええ。そして、とても美しい」
二人は誉めてくれるけど残念ながら私には力も何も感じない。
正直、今はどうでもいい。
「それよりこの装束は誰のですか?」
日本人がここにいるの?
「約200年前の使者様の者です」
神官長さんが話始めた。
「約200年前にもこの世界が危うくなったそうです。その時のヴィラスール神が使者として異世界から喚んだと言われています。この服は使者様が喚ばれた時、身に付けていらしたようです。」
神官長さんが済まなさそうな顔をする。
「この服は神官長の職に就く者のみが使用可能な部屋に保管されていました。他の資料なども見せしたかったのですが資料保管室は誰が閲覧したか常に監視されています。この200年前の出来事は機密扱いの為尚更です。我々は、他者にまだ動きをあまり知られたくないのです」
いくつか疑問があるけど。
「明日、神殿でヴィラに聞きます」
まずは、本人に聞くべきだ。神官長さんに言うことは一つだけ。
「わざわざ装束を持ってきたというのは、私にこれを着て欲しいんですよね?」
「使者様に、カエデ様に相応しいかと」
「できません」
「…何故とお訊きしても?」
そんな残念そうな顔されても。
「着付けがわからないのと、なにより着る資格がないです」
信仰心強い、しかも神官長さんに言いたくないけど嘘は言えない。神官長さんの綺麗な紫の目を見て話す。
「私は、あまり信じてませんので」
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