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20.肩を抱かれときめく私
しおりを挟む「これはこれは。お忍びのわりには随分と派手な登場ですね」
丁寧な言葉なのに怖いんだけど。しかも剣を鞘に収めるどころか埃を払うかのように一振りした瞬間。
バチバチッ
「危なっ!」
「ベル」
「にゃ」
金色の光が嫌な音をたて地面を奔り、勿論目的は私達。
ベルちゃんがダリアさんの声に反応し、大きな肉球で地面を叩たけば、霧散した。
「ふん。ベル、しばらく見ないうちに大きさだけでなく態度もデカくなったなぁ?」
「フー」
なんだろう。この状況やっぱりおかしいよね。特大のモフモフ対荒くれの犬の縄張り争いに見える。
荒くれ犬、いやアルビオンの視線が私に移動し、少し上にあるダリアさんで停止した。
「我が妻になる者に、たとえ王妃といえど不用意に触れないで頂きたい」
「随分と心が狭くなっているようですね」
ダリアさんは鼻で笑うと更にぐっと私を引き寄せる。うわ~っ!いい匂い!
いや、だから違うって。
「冗談ではなく城に戻り私の近くで過ごしませんか? 最近隣国から菓子職人も新たに入ったので一緒に話をされたり作られてもよいかもしれません」
何それ!
「気になります!」
「ならば直ぐに行きましょうか」
ダリアさんは、私だけを見てフッと笑う。整った涼し気な顔にしっくり馴染む軍服。
頬染めちゃうくらいカッコイイんですけど。
私の違う扉が開きそうな気持ちになっていると、またもや低い声が響く。
「王妃、何がしたい」
「公爵こそこの一年もの間、いったい何をしていたのですか?」
「──あ?」
反応の仕方がチンピラになっている。上をちらりと見上げれば可哀相な子とアルビオンを見て笑うダリアさんが今度は私を見てニヤリとした。
「一度でも誠意をみせましたか?」
「誠意?」
再び構えようとしていた剣は下がり腕を組み考え始めるアルビオン。
考えてる時間が長いよ。立ちっぱなしが疲れてきたと思うのは私だけではなく街の人達も飽きてきた頃にダリアさんが口を開いた。
「時間切れです」
「まわりくどいのが悪い」
「戦にばかり頭を使いすぎにしても酷すぎですね」
「なんだと」
「あなたは、どれだけハルコ様が必要か伝えたのですか?」
アルビオンの眉間に川ができた。
「ハルコ様、本当にこのような公爵と一生を添い遂げられますか?」
ダリアさんに問われたので、思いつく限りの事を述べてみる。
嫌われてないのは分かるけど好かれているのかと聞かれたら正直微妙。ちょっと珍しいペット枠というか程よく自由にさせて飼われている感じかな。
「だそうですよ」
ポツポツ呟き終わりアルビオンに目を向ければ。
「えっ、どうしちゃった?」
しゃがみ込み頭を抱えている。あの俺様のアルビオンが!
「プッ、失礼。公爵、これが最後のチャンスでは? まぁ、このまま情けない終わり方でも私は構いませんが。むしろハルコ様と暮らせるので私には都合が良い。ベルもそうだろう? 一緒に暮らせればハルコ様に毎日撫でてもらえるよ」
「にゃにゃーん」
私に頭を差し出してくるベルちゃんの頭を思わずナデナデしてしまう。いや~モッフモフは最高である。
「ぎゃ!」
ザッと音がしそうな勢いで立ち上がるとアルビオンがいきなり此方に歩いてきたので、思わず剣を構える。
「えっ」
眼の前まで来たアルビオンがいきなり消え…彼は片方の膝を地面につき、伸びてきた手袋越しの手は長い後ろ部分のドレスを引っ張る。
「な、何よ!」
新たなイジメか? いやスカート脱がしは上下繋がっているし。
「──なにやってんの?」
彼はドレスにキスをした。
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