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17.王妃は提案する
しおりを挟む目の前に立つ騎士団の制服姿の彼女を最近はめっきり使用していない目で視た後に、私は刀を鞘に戻した。
いまだ不思議と残る個々に纏う光を視る能力は、消えてはいない。その目で視えた水色の光はダリアさんに間違いなかった。
鞘には収めたけど、具現化したままの剣を左手に持ち右手は柄から離さない私に彼女の警護であろう男女は、更に一歩私に近づいてくる。
「止めなさい。警戒されて当然です。申し訳ございません」
「頭、下げちゃ駄目です。ダリアさんが教えてくれたんですよ」
この世界に予備知識もなく飛ばされ、神殿から移動させられた城は、当然ながら私にはとても気後れする場所だった。
通路にはどこまで続のかと敷かれたブルーの絨毯。上の階から外を眺めれば壮大な庭。すれ違う人達は皆、背筋を伸ばし男の人は堂々と女の人は豪華なドレスでゆったりと歩く。
『簡単に謝ってはいけません。立場が上になるほど地位が上がるほど、その言葉や行動は周囲に大きな影響を与えます』
ダリアさんは、優しく諭してくれた。本来警護がメインなのに。
「ダリアさん、いえ、王妃様は前から信じています。だた他にも隠れている人が気になって。その格好といいお忍びなんですよね?」
私は、ドレス姿も綺麗なんだろうけど、制服のダリアさんが好きだなと呟けば、ふふっと嬉しそうに彼女は笑った。
穏やかな人の近くにいると変わるのかな? なんかダリアさん、以前より柔らかい雰囲気になった気がする。
「ハルコ様の仰る通り、こっそり心配で来てしまいました。不躾な言葉で申し訳ございませんが、やはり好ましくないのですか?」
アルビオンがと言いたいのだろう。
「…顔は好み。性格が俺様だけど投げてくる仕事は辛うじてこなせる絶妙な量。あと意外にも邪魔されない」
いや、私だって女子だし。どデカイ屋敷とはいえ一つ屋根の下である。何かあるとか思うじゃない。だが夜に襲われるとかはない。
ホントに欠片もない。
「ん? いや。あるといえば、いきなり匂い嗅がせろとか言われるんだよね。毎回床に沈めているけど」
だって、キモイ。
「あのお方が」
「まさか」
王妃様の警護の方々がざわついている。いや、ダリアさんも引いている。
「正直に申し上げて、この場所は以前の場所より外からの結界は弱いですが国境近くの為に騎士も精鋭揃い、また」
「自由だよね。お城より」
わかってるよとダリアさんに笑いかけた。
知ってるよ。
私は、城は生きていけない。ううん、生きてはいけるけど心は死んでいたと思う。ふと視界の端に目がいく。
心配そうにしているミレーちゃんとお菓子を避難させ戻ってきたマーガレットさんは、静かに微笑んでいる。作業場に大人数の人が入っているこの状況はとても嫌なはずなのに。
「彼は嫌じゃない。だけどなんかスンナリ相手の思う通りに、しかも説明なしだったのが腹立つだけ」
本当に合わない、嫌悪感マックスだったら、この場所にいないだろう。
「働かさせてもらっているこのお店も…住まわせてもらっているお屋敷も…好きだよ」
自覚するまで時間かかったな。
「ならば、それで決められてはいかがでしょうか?」
「えっ? 本気?」
「はい」
王妃様は、ニヤリと笑った。
*~*~*
「何なんだ、その格好は」
街のシンボルのお洒落な噴水のある広場でアルビオンの前に立つ私。
「え、お知らせ石の通りに馳せ参じましたが」
「その格好について尋ねているんだ!」
アルビオンは、黒に銀糸の軍服。私は、真っ白なウェディングドレス。文句ないでしょうが。
「その丈は何なんだ! それに手にしているのは普通は花ではないのか?」
私のドレスは膝丈に急遽仕立て直された品。そして手にはブーケではなく剣である。
「私、自分より弱い人の奥さんにはなりたくないから。強い結界は周囲に張ってもらったし。私もかけたから二重で安全だよ」
だから、始めましょ?
「来ないなら私からっ」
大股で踏み出し刀を振り上げた。
少しの殺意をのせて。
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