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11.春子が消えてから一年後のある日
しおりを挟む「兄上。祝の席なのですから只でさえ怖がられていその顔なんとかして下さい」
「顔は生まれつきだ」
駄目だ。ハルコが消えてからまた元の無表情に戻ってしまった。
むしろ悪化しているかもしれない。
「ほら、僕達も挨拶に出ますよ。手ぐらい振って下さいね」
終始無言のアルビオン兄上に疲れてくるが、とりあえずバルコニーへと足を向けてくれたのでよしとする。
「兄上」
「…何だ」
ハルコが姿を消して約一年が経過し、今日はシーベルト兄上の結婚式だ。若き王に新たな王妃が加わり開け放たれたバルコニーからは観衆の声が鳴り響いている。
もうそろそろ潮時かな。
「ここ最近体調が良くなりましたよね?」
「グライド、よく聞こえん。後にしろ」
僕は、兄上にだけ聞こえるように小さく術を展開した。
「兄上が目覚めてから毎日欠かさず飲んでいる果実水は、ハルコが作ったモノです。徐々に腕を上げたみたいで、その効果は出ていますよね」
「……あのジジイではなくお前が手を貸していたのか」
我が兄ながら漏れている殺気に鳥肌が立つ。
「弟に殺気を出さないでもらえます? そもそも祝の場ですし」
指摘をすれば瞬時に霧散したのでホッとするも、聞かないとね。
「彼女は、兄上と同じで頑固で融通がきかないですよ。それに思った事はすぐに顔や態度に出てしまう」
「それが、どうした?」
兄上は、わかっていて聞いてくるのかな?
「彼女に此処は無理ですよ」
ハルコは、真っ直ぐな性格の彼女は城では生きていけない。
「ああ、そんな事か。それなら問題ない」
兄上、何か企んでますね。
「あとですね、これだけ月日が経過しているし、ハルコの意志は尊重して欲しいので内容によっては居場所を教えることはできません」
「お前に何の権利があるんだ?」
今度は遠慮しない殺気にあたられ、ほんの少し弱くなりそうな自分に負けるなと素知らぬふりで返す。
これでも最近は、他国とやりあっているだ。
負けるな僕!
「陛下のご命令です。勿論神官長殿も」
「──俺は会うだけだ」
「それで済まないから言っているのです」
端から見ていれば兄上のハルコに対する反応は尋常ではなかった。今まで表での感情は全て抑えられコントロールされていた。
「抑制させる術を陛下がかけてからならと許可はでました」
この兄は幼少期から僕達兄弟以外に抑制のきかない怒りや喜びを絶対に見せない。感情豊かになるのは弟として、とても嬉しい。
だけど不安もある。
「構わない」
ごねるかと思えばなんてことないように承諾した兄上の顔を思わず見れば。
前を民衆を眺めながら笑っていた。
ハルコ、もう兄上からは逃げられないかも。
僕は、兄上の曇りのない笑顔を見た周囲が固まる様子に複雑な気持ちになった。
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