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2.この異世界人は何なんだ?
しおりを挟む「神殿で召喚をしただと?」
「いえ、まだ先の予定が急遽女神が送ってきたみたいです。しかも異界の者だそうです」
王位継承権第三位の弟、グライドは自慢げだ。確かに最近は、自分の警戒心を抱かせない容姿を最大限に利用し国内外の情報収集に勤しんでいるが。
「あと、黒髪の可愛い女性みたいですよ。かなり動揺していたみたいですが、とても親しみやすい方だそうです」
「ほう」
歴代の浄化する力を持つ者達は女もいなくはないが大概が男だ。しかも異世界なんて何百年ぶりか。
「兄上」
「なんだ」
「人気がでそうですね」
他国の王女達の頬を必ず染めると言われる顔をむけてきたが、気色が悪い。この顔に隠された中身を周囲は知らないのだ。
今、弟が言った人気とは、訳せば勢力が二分される。または派閥が活性化すると揶揄しているのだ。
「たかだか浄化力のある小娘だろう」
「どうですかね。あ、あと警護の関係で今日から此方に住まわれるみたいですよ」
「そうか」
隅にくらいに留めておいた俺は、せいぜい公務の邪魔するなと思っていた。
だが、この時の弟の言葉は、たった6日間で正しかったと実証される事になる。
* * *
「なんだこれは! たった6日でどうなっている!」
報告書を机に叩きつければ綴が外れ紙が舞う。紙には信じられない事が書かれていた。少し前に俺はとある家を潰した。子供も使用人も全て。勿論、それだけの罪を犯したのだ。
「あれの件で勢力を削いだ。なのに中立派と少数派が手を組んだ?」
「兄上。僕の予想は当たりましたね」
「チッ」
弟の勝ち誇った顔に舌打ちが出たが、それはしょうがないだろう。あの過激派を潰す迄に俺が諜報の部下がどれだけ時間を費やしたと思ってるんだ!
「兄上、提案があるのですが」
「断る」
「でも、一番被害が出ず穏便に済むかもしれませんよ?」
* * *
「ちょうど良かった。正式には後日になるが、皆も見知っているウエノと婚約を結ぶ」
確かに犠牲は最小かもしれないが……俺にとっては最大級じゃないのか?
騒ぐ異世界女をこれ以上綻びが出ないよう抱きかかえこの場を去ろうとすれば、俺の両頬に指を食い込ませてきやがった。
この異世界人の女は何なんだ?!
「部屋に連れて行ってやろうと思ったが、変更だ」
下から見つめてくる挑戦的な目に乗ってやろうじゃないか。俺は王族のみ出入りが可能な温室に足を向けた。
勿論、花を愛でる為ではない。
──後悔させてやる。
この言葉しか今の俺の頭には入っていなかった。
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